俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~

なぁ~やん♡

第四回 質問は虚しく散る

ぱらり。
劣等でも入ることができる図書館にて、彩は彼女の大好きな異世界モノの小説を読んでいた。
話は中二病であった女性が、「私は女だから無理だな」と言って諦めてしまったところ召喚され、チートとなり……今まで彼女を嘲笑ってきたクラスメイトが異世界に召喚された……というものだ。

他の者達はセシアや海斗にまとわりつき、今此処はスケスケである。

「ふう。聖剣に選ばれたのなら取ることはできない、羨ましがるということよりも、ライバル視するべきなのに。劣等とか才能とか関係ない。上にいる者は、いつか引きずり落とされるのだ」

そう言って、鼻で笑ってから彩は本を静かに閉じた。
鳥の声、花の音、草の音色……。
眼を閉じて、耳をすませれば、彩は植物や動物と話したり、聞き取ったりすることができる。
彩は微笑んだ。

「生涯、私が信じられるのも君らと準人しかいないな」

『彩ちゃん……負けないで』

「!!」

花の音、鳥の声、草の音色は。みんなそう口を揃えていた。
彩は目を開け、本を元の棚に仕舞った。
その薄い微笑みは、なんとも女神のようで、なんとも神聖に見えたのだった。

「さて私は部屋に戻らねばならないな」

そう言って図書館のドアに触れる。そして重圧をかけ、開けようとする。

「待て」

半開きのドアを抑えつけられ、彩はそれでも抵抗しようとする。ドアを思い切り押すが。
それを遮る少年、葉蝶海斗は彩と同じ身体強化を使っていた。
同じ身体強化でも、使う者のレベルが変わればその強さも変わる。

今の彩が海斗に勝つということは無いに等しかった。

「……何だ。私を好いていないのだろう?それならば貴様のファンたちと遊んできな。私は忙しい」
「用があるに決まってるだろ?」
「それよりその姿勢。退いてくれないか」

そう。
今立っている彩と海斗の姿勢は、壁ドン姿勢そのものだった。
彩より頭ひとつ分高い海斗の上から目線、ときめかないが気持ちが悪い。

「……泣いてたろ」
「ああ?」
「初日」
「……!」

海斗は手を降ろし、彩をもう一度図書館内に押し込み、手当たり次第の椅子に座った。
彩はもちろん座らないし座るつもりもない。
初日の事は思い出したが、彩が表情に出す事はなかった。

「……何のことかわからないな。私はいつでも弱い姿を見せることは無い」
「見たし、聞いたよ。僕だけに、見せてくれないか?」
「キモイ!!!ていうかストーカーかよ……永遠に私が貴様に見せることは無いさ」

相変わらずのギザぶりに、彩は既に呆れてしまっている。

「そうか。でも何かキーとなるものでも教えてくれないのか?」
「すでにあるだろう。私のこの性格だ。話し過ぎたな……私はもう行く」

彩はドアを開け、また防がれないように走り去っていった。

「どこが話し過ぎなんだ?」

と言うより、全く話していないではないか。と海斗は苦笑いを浮かべた。

(僕のこの性格だって……好きでやっているわけではない。ただ、小学生のように秘密の交換っこもしたくはない。……いつか、彼女が教えてくれるまで待つしかないのか)

―――――――――――――――――――――――――――☆

「あいつぅぅぅッ!勝手に過去なんて聞いていいもんじゃないだろう!!!」

部屋に帰った彩は、ピンクのびりびりになっている枕をさらにビリビリにしていた。
その瞬間ドアが叩かれた。
温厚で優しく、ふんわりとした叩き方。

「……セシアか。入りな」
「あ、彩ちゃん。わあ、枕が破れてる、どうしよう」
「ああ、これは自分でやったから大丈夫だ。それよりも要件を」

ビリビリになった枕は隠しもせず、セシアが入ってきても動じなかった。
それはきっと信頼からくるものだろう。
セシアがいつもと変わっているところは、その腰に神聖なる聖剣がぶら下がっているところだろう。

「明日、ダンジョン行くから」
「はっ!?」
「最近はみんなの成長がとてもいいって海斗が言ったから」
「あぁん!?」
「一応十階層までしかないし、武器系ダンジョンだからね。自分で武器を獲得するためらしいよ」
「へえ」
「一番最初にボス部屋について、ボスを倒した者が勝ち」

それは、なんとも気になるルールだ。
今のところ彩は一番強いというわけには行かないが、劣等の中では弱いわけではない。
それにスライムでずいぶん体力とレベルが上がったのだ。

セシアが前くれた魔導具はこもっている魔力量が少ない。
もうひとつ良い武器が欲しかったところだ。

「そこまで難しくもないし、5グループに分かれるから」
「え、それどうすんだ?」
「同じダンジョンを五つ発見したからね。もちろん獲得できる武器は違うしどれもひとつだけ」
「そりゃ作成者は頭が逝かれてるな」

セシアは偽らしく微笑んだ。
何故かそれに彩は動じず、辛く苦しい過去の黒歴史でもある、なつかしさを感じた。
「あの頃」と同じような目だ、そ彩は思いに浸る。

「それじゃあ僕は教えたから、もう行くね。その調子だと海斗が何か言ったような感じだけど、あの人もね過酷だったんだよ。だから逝かれちゃってるから気にしないでね」
「は……ははは。分かったよ、行け」

相変わらずの毒舌であった。
セシアはドアをぱたんと優しく閉め、足音は小さくなってゆき、しまいには消えていった。
彩はベッドに倒れこみ、そのまま寝込んでしまった。


明日の朝は、どうなるだろうか。

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