俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~

なぁ~やん♡

第二十回 作戦を練る

今はシアンを褒めたいくらいだ。
考え直してみて、わざわざ挑戦状を送ってくれたのだから、戦闘開始の時間まで準備ができる。
まああちらはきっとただのバトルジャンキーなのでそこまで考えてはいないだろう。
長年のバトルをし続け、この大魔王城でそれを知らない者はいない。
いくら新人の藍でも、近頃フェーラのスパルタ教育とロナワールのゆるふわ教育により叩き込まれていることである。
そして今。
森に近いところ、シアンのいるはずである場所の向きにテントをたて、二百万の兵力を忍ばせたところだ。
ロナワール達は別室で寝ず食わずでしっかりした計画を立て続けている。
第一次の戦争では見えはしなかったものの、現場に駆け付けると破損が激しかった。
そのため頑張っても今回は千万兵力を超えられないだろう。
大賢者とは違い、大魔王の「勢力」とはイチから作るものなのだから。

「うぅーん、二百万向こう行ったでしょ?第二砦で四百万くらい……」
「そんなに向かわせたら後がねえな」

「ああ!」と無気力に藍は後ろのソファーに倒れこむ。
二人の眼には隈ができており、寝ず食わずで計画を立てていたことがよくわかる。
サタンとフェーラは兵力の訓練をしており、今この場にはいない。
ユノアとエアンも考え込み、発言をしていない。
今回は双方本気でかかってくるため、甘い配置はできないのである。
真ん中に置かれた机には羊皮紙で精質に再現された大魔王城とその周りの地図が置かれている。
その机を囲むように皆は座っている。
大魔王城が中心にあり、右側に森、つまりシアン側。左が丘で、向こうがここから攻めてくる可能性は高い。
前には更地が続いており、後ろには町がある。
右、左、前からという可能性の方が高いため、後ろは一旦置いておく。

「後ろは念のために百万伏せておいた方がいいんじゃないか?」

戦闘経験はロナワールとエアンがこの中では一番長い。
ユノアは護衛をいつも任されていたため、対人戦はそれほど経験したことがない。
エアンの解釈通り、もしも魔力流や魔法が町の方に飛んで行ってしまったら戦闘中の場合そちらに気を向かせることができないのだ。
それに出すのは百万。まだいい数のため、それは全員が同意した。
ロナワールが情報通信機を取り出し、口に当てる。

『百万兵力「中」、街の方にて伏せておけ』

「中」というのは戦闘力のことだ。小から高まで三つの段階がある。
今回は街を守るとの重大な任務なため、中ランクを配置しておいた。

「後の七百万は中の三百万が第二砦、百万は待機。二百万はそれぞれ左と前に伏せておく。そうすると後の百万の配置に困ったな……」
「敵の向かい撃ちや不意打ちへの対応なんてどうかしら?」

いくら経験が少なくとも異世界は二回目。
それに前代大魔王との対人戦では繊細に計画を立てたことがある藍。
エアンには負けていられないという嫉妬心なのは触れないでおこう。
ロナワールはしばらく考え、頭の中でおおよその戦の経過を映し出し、一度頷く。

「そうだな、それで問題はない」
「シアンは多分丘の方から個人的に挑んでくるはずだ、この私が先に対処をしてやろう」
「エアンは無理しないでいいわよ」

バチッと藍とエアンの間に火花が散る。「ひぃぃぃぃ」と声にならない絶叫をあげながらロナワールは少し下がって退散する。
同じく藍の恋のライバルであるユノアは唇を噛んで、立ち上がった。

「やめなよ、迷惑だよ?今は大事な時なんだよ、そんなことしてて良いの?」

それは嫉妬を込んでいて、ユノアの背後には黒いオーラが渦巻いていた。
そのオーラは精神的なものではなく、魔力で作り出されていたのであった。
ロナワールの眼にも、それははっきりと見えた。
しかし藍とエアンは精神的なものだと思い込み、なんともないかのようにまた座り込んだ。

(シアンがこの隙を付いてこないといいんだが……)

ロナワールは小さくため息をつき、誰にも気づかれないように首を振った。
藍は薄々気づいていた。
昨日から、ユノアの様子がおかしいことを。
紙を破る時にフェーラたちがニヤニヤしていたことは分かっていたが、ちらっと見てみるとユノアの表情には嫉妬が込められていた。
自分には鈍感だが他人には敏感、それも藍と言う女の個性である。

「本当迷惑だよねぇ~こういうの、そう思いますよね?ロナワール様も」
「え?あ、いや……その……」

初めてのこんな場面に困惑するロナワール。
それを見ていた藍もついに爆発しそうになる。

「どっちが迷惑なのよ。問い詰めて困惑させているのは貴方じゃない?」
「なっ!?私は自分の意見を述べているだけ!」

今度はユノアと藍の間に火花が散る。
気のせいか先程のエアンの時よりも、本当に光線が飛んでいるように感じる。
読者陣として見ていたフェーラとサタンも、不穏を感じていた。

『本当にあんなことしてよかったのかしら』
『やっぱり話し合いは間違いだったのでしょうか?』

誰にも気づかれないようにサタンとフェーラは小声で話す。
ロナワールは完全に困惑しきっていて、この場を取り直すことができなくなっていた。
エアンもどうやらこの状況を面白がっているようで……。

『ロナワール様、注意してください』
『わたくしたちではもはや無理でございます』
『いや、でもこれは……いいのか?』

小声でフェーラとサタンは何とかロナワールと会話することに成功。
しかし鈍感でこの場面が何なのか分かっていないロナワールはどうすればいいのか分かっていないようだ。
もはやこの場は止められない。

「貴様らが一番煩い」

楽しそうに見ていたエアンももう耐えきれなくなってしまっていた。
渾身の魔力に威圧を乗せ、「ギュピーン」と目が光った。
エアンの背後からは精神的なオーラがゴオっと上がり、その威圧で藍もユノアもおとなしく席に着いた。
しかしユノアはまだ拗ねているようだ。
そうして作戦会議はまた進んでいく……。


(とりあえず、一安心ね)
(ここまでは読めませんでした……)
(いったい何が起きていたんだぁ?)

いつもは入り込んでいたロナワールも今では第三者目線陣に移っていた。
それほど派手な戦い三角関係だったのだ。

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