俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~

なぁ~やん♡

第十六回 ちょっと決戦

「なめんなよ!?おらぁ!」

リーダーと思われる男がバットを振り下ろした。
今気付いたが三人組のようだ。
しかもその中の一人が女性である。

『……強化』

少々興味がなさそうに、藍は全身に強化をかけ、男が全力で振り下ろしたバットを片手で受けとめた。
何でもないように、そして、男を舐めるかのように。
ネックレスの入った箱をロナワールに渡し、もう片方の手で男の手首を握る。

「はぁっ!」

指に力を入れると、ぐぎっと鈍い音がして男の手首が三百六十度回転した。
それは残酷すぎてロナワールも思わず引いてしまっている。

「ぐぎゃああああぁあああ!!」

それは男にとって壮絶な痛みだったようで、絶叫を上げてその場で跪いた。
周りではちらちらとみてくる人もいるが、誰も近づいてこようとはしなかった。
男の後ろに立っていた二人の表情から焦りが見えた。正しくは、その中の一人の男性からだ。
女性の方は全く動じていない。
この男のことについては何も思うことはないようだった。

「分かった?目障りなのよ、消えて……」
「貴様。何をしたか分かっているのか」

嘲笑うかのように跪いた男を見下ろした藍の上から、定着していて深い男性の声が聞こえた。
それは威圧を含んでいた。
彼が丁寧に男を隅に移動させると、藍と向き合った。

「分かっているわよ、殺そうとしたのよ、本当に」
「んなっ!?」
「戯言は終わりにして、かかってくるのならかかってきなさい」

藍の言葉を聞いて、男性は身体強化をし、藍に向かっていく。
男よりは速かったものの、藍がその姿を見失うことはなくしっかりと目に定めていた。
男性は手を藍に向け、「水弾」と呼ばれる魔法を使用しようとする。
発動のキーで掌が青くなった時点で藍には彼が何をしようとしているのか一目で分かった。

『水弾!』

この魔法はどちらかと言うとCランク、下級魔法に入るくらいのものだ。
遠距離には最適しているものの、近距離だとしたらどうしても威力が弱まるというデメリットがある。
それくらいで藍をどうにかしようというのなら、出直してこいというべきだ。
藍が盾を創り、水の弾を防ごうとすると。
男性は水の弾の操縦権を捨て、弾は一直線に藍に向かい、男性の拳も藍に向かう。

(二方面……か……)

右と左から、魔法と物理という性質が違うものが飛んでくる。
それは魔法の扱いがまだ雑な藍にとって防ぐのは至難の業である。
辛うじて水の弾は盾で防いだものの、拳はそのまま向かってくる。
もう終わった、と目を閉じたその瞬間。

『業火……あ、やりすぎた!!』

余計な言葉が入りながらも、炎が男性の腕を焼いた。
業火はファイナルランクの魔法で、地獄の炎を集めて魔力として放出したものである。
生きているため、特にデメリットはない。
魔王など、「魔」系のモノと相性が良く、命令して聞かないということはない。
それでも殺せそうなのだが。

『えいっ!』

特に呪文でも何でもないような詠唱をしたのは藍。
よく分からない詠唱だが、藍が男性の腕をつかむと、その腕は容易く落ちてしまった。
その腕はまだ火に焼かれていて、もう消し炭になっている。接着は不可能だ。

「ぎゃあああああああああ!!!!!!」

大量の血が放出し、男性が男とは反対方向に倒れこむ。
後ろでフードを被った鞭を持った女は、まだ焦ることはない。それどころか不敵な笑みを浮かべて藍たちのことを興味深そうに見つめた。

「ロナワール、ありがとう」
「あぁ、大丈夫だ。元々こういうのがあったら町ではいつも護衛だしな」

そんな二人のほのぼのした会話を、女は黙って聞いていた。
言うことがなくなり、しばらくの沈黙。
それが嫌だったのだろうか、女が手を組んだ。

「そろそろ話を止めてもらおう」
「え?さっきからもう喋ってなかったわよ?」
「そっそれは良いんだ、とにかく勝負だ」

真顔で行われた藍のツッコミに、ロナワールは失笑してしまうが、すぐに自我をとりもどす。
女は鞭を構え、藍は魔法で剣を出す。
あの訓練の時に使ったオリジナルのモノだ。

「はぁあああ!!」
「ふっ!」

女が鞭を振り降ろし、藍が盾で防ぎ、そのまま切りかかる。
全力で身体強化をした藍を、女は見えなかった。

「どこだ……どこに……うあっ!!!」

女がうろたえているところ、藍が剣を振り下ろし、女の頭の目の前でぴたりと止めた。
女は悔しそうにうなだれ、負けを認めた。

「すまねえがあたしはこいつらと一緒のチームじゃねえ。魔警団にでも突き出せよ」
「まあそれは確定だわよ」

普通の街であれば魔警団のことは「白警団」というだろうが、此処一帯は魔警団という。
これらの警団は「警察」というのとそう変わりはない。

ロナワールが情報通信機と呼ばれる、日本では無線的なものを使って魔警団と連絡をする。
しばらくして、魔警団に彼らは連れていかれた。

「あ、オレは違うんで」
「あぁ、ヤンキーと間違えられちゃいますよねそれじゃあ」

魔警団に向かってロナワールは真顔で告げる。
その団の隊長はクスリと笑うとそう返した。

この世界では車というものがない。
警団の本部に着くまで、顔をあらすことになってしまうが、それはこの世界のシステムである。
彼らが去るのを見届けると、ロナワールと藍は一息ついた。

「まさか町でもこんなことが起こるなんて……」
「不良は死刑というの立てようかな……」

それは駄目でありますよロナワール様。
と真顔で敬語で藍はそう告げたのであった……。







「まだなのですかね!?」

ロナワールの事務室で、フェーラが大量の資料を持って待っていたのであった。
その資料はロナワールのものであり、今日中に終わらせなければいけないものであった……。

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