俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~

なぁ~やん♡

第一回 大魔王様

黒いトンネル。
最初藍が感じたこの場所の第一印象はそれだった。
高速で落ちている、ということは分かっていても、なんだか上がっているのか下がっているのか分からない感触であった。
光が先に見える。なんだか騒がしい。光が近づく。
藍は反射的に目を瞑った。

ストン。

どこかに落ちた、ということは自覚した。体が感じる感触は柔らかい。
警戒しながらも周りを触ると、ソファーのような感じがした。
少しだけ警戒を解いて、ゆっくり目を開けた。
目の前は赤いカーペット。金色に光る椅子の手すり。肌色のソファー。誰が見ても、「いいもの」だとわかる素材であった。
顔を上げると、王座に座った一人の男性。雰囲気的にもどうやら彼が大魔王ロナワール・レノンのようだ。もうひとつの根定する理由は……。。。
周りには日本ならばギャルの類の少女や、見た目からして人間の姿をした魔物の姿があった。
藍が驚くことはなかった。

「大魔王城……」

ラズベリー色の柔らかい唇が微かに動き、声を発した。

転移者でも転生者であっても、最初に言葉を放つ者はいなかったのだ。
それを見たロナワールは藍に興味を示す。もちろん顔には出していないのだが。

「ラン、だっけな、これから大魔王城でいろいろとやってもらう。とりあえず……魔力でも測りに行くか」

金色の王座に威勢よく座っているロナワール。
黒いロングヘアーで青く凛々しい瞳。美しく、強く、清い。それが藍の感想だった。
発せられる威圧感とプレッシャー。
しかし藍はそれに「慣れていた」。

「分からないのですか?」

傍にいる魔物や魔女など……達は普通に話せている藍を見て驚きを隠せず、絶えず周りと話している。
そんなのには微塵も興味がないのか、ロナワールがそちらに目を向けることはない。

「んー、機密組織からしたらオレって一応敵じゃねえか、だからくれねえんだよ情報。名前くらいなもんだぜ。んじゃ、魔力測りに行くぞ、サタン。」
「了解でーす」

ロナワールは鼻で笑うと、サタンと呼ばれた女性を呼んだ。
恐らく護衛か何かだろうと藍は予想した。
サタンは魔女の類のようだが、その中にしては正装だ。
真っ黒な服に紫のローブを加える、と、派手なのは変わらないが、それ以外に装飾などがないのだ。
ロナワールは王座から降り、この部屋から出た。藍もそれに倣う。藍が席から立つと椅子が撤去される。
藍の予想によるとここは王殿。
朝会や政治など、公式の場で使う、中心的な部屋のことである。
何故それを知っているのか、わかる者はいなかった。

幾度も道を曲がり、進んだ。
もう一度行け、と言われたら藍でも迷う確率が高い。
足が疲れた、と言いそうになるころ、ロナワールとサタンの足が止まった。
重苦しい雰囲気のドアが目の前にある。

「此処だ、入りな」
「分かりました、ありがとうございます……」

キィ、と藍はドアを開けた。案の定重たい。
普通ならばなぜ自分で開けなければならないのか疑問に思うところなのだが、藍は全く何も思わなかった。
むしろ、これが当たり前である。

中は真っ青で、SFとファンタジーが混ざったような仕様だった。
箱と思われるものがそこら中にきれいに置いてあり、その中には手形のついた板がたくさん詰められていた。

「ふむ、長い間来ていなかったがまだきれいなようだな」

ふとこぼされたロナワールの独り言を藍が聞き逃すことはなかった。
しかし、返答はしない。
かつかつと足跡を響かせ、ロナワールは中にはいっていく。

「そこの何処かに座っときな」

真ん中には恐らく10~……くらいの椅子。どれもシンプルなものだ。大魔王城では大魔王の王座に少しでも近づいた素材の椅子があれば撤去される。
藍はそれを知っている。少なくとも常識の類ではないのだが。。。
一番手前の椅子に適当に座る。座り心地はまあよかった。藍もそこまで期待してはいない。

「よいしょ」

ロナワールが手当たり次第の箱の中から手形のついた板を取り出す。
サタンは門の前で待機している。
藍にとっては見慣れたものだ・・・・・・・
ロナワールはその板を藍に向かって軽く放り投げた。藍は何でもないかのようにキャッチする。

「その手形のところに沿って手を置け、魔力総合数値が出てくる。ちなみにオレは万単位だぜ」
「……自慢ですか」

駄弁りながらも藍は手形のところに沿って手を置いた。
ロナワールの言った「万単位」だが、これは百年に一度くらいの天才が持つ数値である。
現在の組織の「ボス」に当たる者は億単位らしいが、兆単位という噂もある。そして大賢者が万単位。賢者は千単位にも及ばない者が多い。
平民はまず百を越したら崇められる。
ちなみに魔力数値を測定するこの道具だが、国がひとつの家庭にひとつ、無条件で支給している。
その代わり何が起きても補償はしないという。
藍の手に沿って板が輝いた。手の上のあたりに数字が浮かぶ。

『総合魔力数値:2600』

「は……?」

それを見たロナワールが一瞬固まった。藍も驚いているようだが表情には全く出ない。
板の上の文字が消え、輝きも徐々に失せていった。

「はっ……とんでもねえ逸材だなあ!おもしれえ!」

瞬時に再起動してロナワールは笑った。
その横を黒い影が光速で移動した。
ゴトン、という音がする。藍の方を見れば手を箱の方に向けており、箱の中にはさっき使った板がきれいに収めてあった。

「試しに使ってみたけど、やはりすごいわ……」
「は……ははは……」

自分の能力には遠く及ばないが、ここまでの能力を見たのは久しぶりだ。
ロナワールは冷笑するしかなかった。サタンも口をポカンと開けている。
藍は少しどや顔をしてみた。

「……さっきの部屋に、戻るぞ、サタン、後始末を」

まだ少し片言ながらも、ロナワールはすぐにまた再起動する。
そして二人で部屋を出ていく。後始末などはサタンがしてくれるため問題はない。

王殿に戻る。
それはきっと忠誠を誓う式でもするのかと藍は予想を立てている。

「戻った、皆、静まれ」

さっきとはまったく違う、威圧の感じる声でロナワールは言い放った。
つかつか、とロナワールはカーペットを進んでいき、絶妙なほど美しい動作で王座に座った。

「異世界人:ラン、わたしに忠誠を誓えるか」

藍はにやりと笑った。
奴隷になるくらい命令を聞くつもりはない。
かといってわがままになにもしない、または何かを要求するようなまねはしない。
誰かに沿う、ということは決してしない。
たとえそれが、間違った未来を引き起こすことになっても。
藍はカーペットの中心まで進み、ぴたりと止まった。

「完全に命令は聞きません。それをご承知の上、私をおそばに御置きください」

と、そう言った。
途端に辺りはざわめく。
貶める者もいれば、慕う者もいる。興味を放つ者もいる。
それを楽しみにしていたかのように藍はにやりと笑い続ける。もちろんそれが外に見えることはない。

「はっははっははははは!」

ロナワールはそれを聞いて腹を抱えて笑った。しかしそれは臨場感、威圧感、プレッシャーを感じる笑であった。
周囲は一瞬にして静まった。
彼の勢力は「大きい」という文字で表せるほど簡単ではない。

「良い!大変に良いぜ!!」

藍は微笑んだ。今度は本気で。ロナワールも微笑み返した。割と本気で。




その後、たくさんのイベントがあった。
城内を回ったり、藍の部屋を案内されたり、藍専用の武器を渡されたり……。

異世界転移のしょっぱなにしては、充実した一日になったなと思った。

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