俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~

なぁ~やん♡

第二十九回 別れと、憎しみ

あの後、レスナが魔法を使いながらもあの残酷な場を整理した。
アスリーンは病院に運ばれた時点で絶命。アレンもアスラも泣き叫んだ。
俺の表情も、きっと汚かっただろう。
そして墓場も作られ、アスリーンは眠った。
しかし町は悲しみに包まれた。町一番の強き勇者が消えてしまったということと、家族や友人を失った者たちが居た。
朝、リオンから知らせが来た。
あの賢者サテラと呼ばれる人物のことを上の準隊長、準査隊長に報告したら、怒るどころか笑ったそうだ。詳細は聞いていないが、如何やらリオンの「上」はこの出来事を良いことだと判断したらしい。

「ああ、もう、いいよ……」
「そう、ですね……またいつか、会える日まで!」

そして俺はまた扉を開く。いまは正午、俺達はまた旅を再開することになった。
アレンももう俺たちを止めることはなかった。
アスラははやく出ていけという顔をしている。俺達もそれを受け入れた。

笑顔で、アレンは俺に手を振った。
扉が静かに閉まる。ちらりと振り返ると、涙が一筋見えた。
それがシアノンの時と重なって、なんだか心が痛かった。

「アスラ、送ってあげなさい」
「……分かった、姉さまが言うなら」

アレンはアスラに俺たちを送ることを命じ、アスラが完全に外に出たことを確認すると優しく扉を閉めた。
ためらうことは、全くなく。
アスラのフードはいつもより深くかぶられている。アレンの化粧もいつもより薄い。
いつもは掃除されて雑草ひとつない庭も、いまでは雑草が土地を満たしている。
では町はどうか。
盛り上がっていた道路。行列で並んでいる屋台。普段なら頑張らないと通れなかった道。喧噪な周り。
しかし。
道路は一人もおらず、屋台も閉まっていて、中には破壊された物もある。
道はスカスカでとても静か。足音ひとつなかった。
アスリーンが、この街の人々が。どれほど大切なのか、知った。

戦のあと、ギフトピースのことをリオンに言った。
彼女によると、俺はもう魔法が使えるらしい。ピースは三つ。
ひとつ目で得られる魔法は「基礎」。これで町のヤンキーどもくらいは撃退できる。

もうひとつのピースを集めたら「一流」。これでセル帝国の国王を超える、いやリオンの組織の大賢者をも軽々と超えてしまう能力を得る。

もうひとつ集めれば「神聖」。リオンの組織のボスの三分の一程度に追いつくらしい。
初めてボスの能力を数字で示したが、結構なものだろう。
大賢者を越して、もう一つピースを集めても三分の一にしか届かないのだ。
ちなみにこれはリオンが準査隊長を訪問した時に教えてもらったものだ。彼も二度しか会ったことがないのだが、その力量はしっかりと目に焼き付けているらしい。

「じゃあ、ここまででいいよ」
「……了解」

大通りまで出て、やっと人が三、四人程度散らばっている。
そんなにアスラを手煩らせたくないため、ここで別れることにしようと、レスナがアスラにそう言った。
アスラは変わらない硬い表情を浮かべながらも了承した。

実はあの後本当に力がみなぎっているような感覚がした。
改めてステータスを測ってもらうと、「全属性使用可能」になっていた。「女神ファイナル」までは使えないがそれ以下ならすべて使えるということは実験済みである。

「じゃあ、また会えたらでよろしくお願いします。」
「あぁ、いつか会おうな」

リオンはアスラに向かって手を振った。
俺も笑ってアスラに近づき、そう言った。
アスラの表情はリオンにとっては変わらなかっただろう。しかし俺にはとても醜く見えていた。

今の俺の能力でならアスリーンを簡単に倒せるくらいだ。
あの賢者サテラにはギリギリ届かないと思うのだが、きっと互角には戦える。

アスラは口角を上げた。
去ろうとする俺に。
俺だけに聞こえるように、こう言った。




――――――――――――――――――――――――――……。




『ご、めんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……』

頭の中は、そんなことでいっぱいだった。
いつの間にかアスラもいない。しかしそんなことに俺は気づかない。
一言も言葉を交わすことはない。

ふと気づいたら、宿のベッドの上にいた。どう歩いてきたのかは地味に分からないが、とりあえずここにいるということは把握している。

―――――――――――――ヤンキーの頃、そんなこと言ったっけねえ?

途切れ途切れながらも、「あの時の声」が聞こえた。
大人びて、しかし子供のような。

―――――――――――――――——————————————————————————☆

「んん?もう王都に着いちゃうの?」

ここは組織内部。
上官や一定の身分がある者たちしか集まれない特別な場所。
そこに準査隊長「ロス」と大賢者シアンが丸い黒い机を囲んで座っていた。

「あぁ、そうらしいですぜ」
「ふうん、うちのボス様はまだ行かせないとか言ってるけど?」

敬語もどきでロスは言う。
対して気にしないようにシアンはため息ひとつ。
如何やら相当「ボス様」に呆れているらしい。

「仕方ないから阻止するしかないね」
「作戦は」



《藍と彩をうまく使おう》

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