俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~

なぁ~やん♡

第十九回 勝利(場面:ネルタリー)

「はぁ~い、キラだよ!サ……リオンには、話をされてあるからダイジョウブ!まずはあたしに力をチョーだい!!」

出てきたのはポニーテールの女の子。おおよそ身長はネルタリーと変わらないくらいだった。
そして何を言いかけたのか。
それはネルタリーには聞き取ることができなく、首をかしげることしかできなかった。

『魔能量流謙譲ですわ!!!』

「その力、確かにもらい受けたよ!!!」

キラの手にはサッカーボールサイズの球がきれいに輝いている。

一方ガラスタたちはその様子を見ていて、少々驚いたようで、セフィアラ随分と警戒しているようだった。それは間違いではない。しかし、それでも彼らの運命は変わらなかった。

『ナカマの力☆ランク☆ファイナル!!!』

その声と共に、キラは思い切りそれをガラスタたちに向けて投げた。それは早すぎてネルタリーの目には映らなかった。
セフィアラの選択。それは反撃だった。

『金の……』

果たして彼は何をしようとしたのか。

光は広がり、セフィアラの肩を大きく斬った。セフィアラは肩を押さえてうずくまった。
どう見ても通常な傷ではなかった。
それほどキラの力が大きいのか、と、ネルタリーは目を見開いた。
レスナが認める者は、こんなにもすごいのだと、身にしみてわかった。

そして、残るはあと一人。
キラがもうひとつ、球を作る。

『ナカマの力☆ランク☆女神ファイナル!!』

そしてそれをガラスタに向けて、さっきよりも強く投げる。
そして光はまた広がる。

「う、うわぁぁ!!たっ……たすっ!」

その声は、ガラスタから聞こえたものだった。ガラスタの表情には先ほどの自信はない。絶望に満ちた表情であった。
そして微かに「助けて」と言ったらしいが、キラは全く応じず、聞こえないとでもいうかのようにまっすぐとガラスタを恐ろしい笑顔で見ている。

ガラスタは動けない。そう、動きを封じられたのだ。

「さぁ、ネルちゃん。お返しの時間だよ☆好きなように撃っちゃって☆」

そう言ってキラはネルタリーを押して、自分は引き下がった。
ネルタリーの父は呆然としている。予想外の展開に、頭が付いていけないのだ。

ガラスタの額からは冷汗が流れている。とんでもない量の。
マッチョはこんなにも汗を流すのか、とネルタリーは余計なことを考えた。

ネルタリーに迷いはなかった。
およそ四歳の時に覚醒した魔法。ネルタリーの切り札。しかし準備動作が長いため、あまり使える場面はなかったが、今なら使える。
手を上げ、足でステップを踏み、魔法の反作動を受けとめるための体の準備……それらをすべて整え、体中の力をひとかけらも残さず掌に集め、

黒魔砕光弾ダークボールスキル!!!』

それはガラスタにとって致命的な一撃だった。
黒と紫の魔能量流が混ざり合って渦を巻き、ガラスタへと向かっていく。

――――――――――――――――うわぁぁぁぁ!!!!

そんな彼の心からの叫びも、動きが封じられている今、誰の耳に届くこともなかった。
そして、煙が立つ。

その煙が消えるころ、ガラスタは体のところどころに出血が見られ、瀕死状態なのが分かった。
それを見て安心したネルタリーは体制を整え、キラに向けて一礼をする。

「ありがとうございますわ、キラ。」
「うぅん~?また何かあったら呼び出してねっ☆そんじゃ、バイバイ☆」

そう言ってキラは手を振る。そしてその姿は薄くなり、最終的には消えた。ネルタリーは疲れたようにため息をついた。
なぜなら彼女の体力は65。そしてさっきの一撃にはとんでもない体力が必要なのだ。
そう、きっと、藍の半分の体力を裂いてしまうだろう。それくらいなのだ。

「……ネルタリー。彼を助けなさい。回復薬なら取られなかった。これを使いなさい」
「……はい。ありがとうございますわ。分かりましたわ」

ネルタリーの父が彼女に声をかける。そしてネルタリーに回復薬ポーションを渡す。
それを受け取り、ネルタリーはゆっくりとリーゼルトのいる場所に向かう。
彼の肩の出血は止まってきているが、まだ続いている。地面の血はもう乾いている。

回復薬ポーションですわ』

様々な感情をかみしめて、ネルタリーは静かにリーゼルトにポーションを掛ける。
青い優しい光が、暗く不気味な倉庫を照らす。
そしてネルタリーは叫ぶ。

「リーゼルト!リーゼルト、目を覚ましなさいですわ!!!」
「っく……ん……?」

その声を聴いて、ネルタリーは満面の笑顔を浮かべた。
前までの嫌悪もわすれて、心から喜んでいた――――――――――――――――――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――☆

そして時は少し巻き戻る。

リーゼルトとネルタリーを見送ったサテラたち。
サテラはその不気味な道をずっと見つめている。リーゼルトたちの背中はもう見えないはずなのに。
そしてそれに飽きてしまったレスナがとうとう声を発する。

「……サテラお前、見守りすぎだぞ。もう六分くらい経った」

レスナは真顔で言う。割と本気で。

「時間に正確すぎですね……」

そんな感じにもう慣れてしまったようだったサテラは、まるでいつもの調子のように答える。
まぁ、本当にいつもの調子なのだろうけど。

「さぁ~て、私達も行くとしますか~♪」
「……逆にさっきまでどうしてその発想が浮かばなかった?」

背伸びをするサテラに向けて冷たくレスナは言葉を放つ。
しかし、いつものことなのか、サテラはそれを無視していた。

「あ!少し先に、小通りがありますよ。行ってみましょ♪」
「あぁ」

普通の人間が頑張って見てギリギリ目に映るくらいの距離の小通り。
しかし、サテラは違う。「眼力強化」はだてなものではない。


その通りまで無言で近づく二人。
そこはリーゼルトたちのように暗く不気味でもなく、かといってこの街のように明るいわけではなかった。此処もまた長いのか、行き止まりは「眼力強化」を使っても見ることはできなかった。
辛うじて言うと、奥に黒いものがぼやっとみえたぐらいだ。
レスナはそれを「建物」だと推測した。

「……あなたのポジティブさが羨ましいデス」

長い間賢者として生きてきて、このようなところは何度も通ったことがあるとはいえ、サテラも女の子。不気味で怖い場所には拒絶反応が出るのも当然だろう。

「……後ろに居ろ」

それも分かってか、レスナはサテラに後ろにいるよう指示した。
サテラもそれを拒絶するようなことはなく、言われた通りに後ろに下がった。

第一歩が踏み込まれる。
物語始まりの、鐘がなる――――――――――――――――――――――――――――。

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