俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~

なぁ~やん♡

第十六回 ギフトのための旅立ち

朝だ。
俺の布団の隣で鳥が鳴いている。

「ん……」

俺はゆっくりと起き上がる。

「いってぇ!!!」

地面で寝たせいだろう。体のあちこちが痛い。そして俺の悲痛な叫びのせいか、レスナも起きたようだ。

「ん?何事……って痛っ!!!」

おはようともいわずにレスナは先に腰をさすっている。
理由は恐らく俺と同じだろう。そしてその二つの叫びで女子どもも起きたようだ。
俺たちの目はまっすぐに女子どもをにらんでいる。
あぁいう意味の目ではない。憎しみの目である。

(お・ま・え・ら・の・せ・い・で!!!)
(き・さ・ま・らぁぁぁぁ!!!)

口から火が出そうなくらいの勢いで俺たちは女子どもに視線を向ける。
一方そちらは何事もなかったように談笑しながら起き上がっている。

「ん~どうしたの?なぜ怒ってるの?」
「あぁ~よく寝ました。?どうしたんですか?」

プッチン
ついに理性の糸が切れた気がした。

「くぉらぁぁぁぁぁぁ!!!」
「あんだとぉぉぉぉ!?」

その家から二つの絶叫が響いた。
その家に住む四人が後々どうなったのか、それはわからない。
木で作られた家に優雅に止まっていた鳥がその絶叫を聞いて飛び立つ。

そしてそれは四時間後だった。

「はい……もう雑魚寝なんてしません…」
「男子最強……思い知ったわ」

二人のおでこは真っ赤になっていた。
如何やらデコピンを受けたようだ。男性は必ずしも優しいわけではないのだ。

治療薬ポーション

そういえば買っていた、とレスナがいつも肩から下げている大きめのバッグから治療薬ポーションを取り出し、詠唱して効果をもっと良くしてから彼女らに放った。
いくらなんでも女の子にずっとたんこぶが付いているのは悪いと思った男の慈悲心だ。
それを受けた彼女たちも深く反省したようで、男の優しさを褒めてくれていた。
ちなみにそのバッグには俺のギフトも入っている。
そして朝ごはん。
今日のご飯がいつもよりおいしい気がするのは気のせいだろうか。


「ギフトは、冒険しながらの方が取得しやすいそうですよ。」

此処は俺の部屋だ。シアノンは昼の食料を買いに行っている。その隙に俺たちはこれからを相談しようと決めた。
いくらなんでもずっとここで滞在していると折角の異世界転生が台無しではないか。
そしてサテラは俺に意見を与える。

「ボスのあれは噂によると開けるにはたくさんの経験が必要らしいですから、冒険でもしながら行くことにしますね」

サテラは彼女の魔法でパネルを作り出した。おそらく彼女のスキルの「創作」だろう(三話参照)。詠唱が不必要な点、便利ではあると思う。
俺はみんなに顔が見える方向の椅子に座ってもたれている。しかし話はちゃんと聞いている。

「……冒険者ギルドってある?」

よく小説ライトノベルとかで見る「冒険者ギルド」。それがこの世界にもあるのだとしたら夢かと疑う。
そして欲を言えば戦うためにこの二人とチームを結成したい。もちろん、戦うためだけじゃない。異世界に関して全く何もわからない俺に対して、彼らの方がたくさんの知識を持っているからでもある。

「それを聞きたかったのか……あるぜ、王都にな。」
「王都って此処じゃねぇの?」

「ニュドセアは王都を囲む大都市です。王都はフェリラーといいます。」

笑うレスナに対して真顔で答えるサテラ。温度差がありすぎた。
まぁ冒険者ギルドがあるということはわかった。あともうひとつ。

「冒険者ギルドのランクを下から教えてくれ」

冒険者ギルドのランクはとても重要だと思う。
まず、知っておかないと依頼を受ける時に大変だ。

「あぁ、説明を忘れていたな。まず、ギルドでのランクは一番下からF、Ⅾ、Ⅽ、B、A、S、SSって感じだ。Ⅽまでは良いがBに上がるのが突発的に難しくなる。まぁそれを乗り越え、ありえないが栄えあるSランクまで行ったとしよう。SSランクに上がるためには、国の反乱を止めるために使われ、何度も前衛に立ち、功績を上げたり、スパイをしたり……まぁ危険なことをたくさんする。SSまで行ったらうちの秘密組織に気に入られることがあるんだが……今までSSランクどころか、Aランクになれたものすら指で数えられるほどしかいない。3チームで7人だ。七人。少ないだろう?」

……大体想定はついていた。小説ライトノベルの場合だともっと大げさに説明されていたからな……。まぁ小説は見るのが面倒くさいため、彩に教えてもらうのが基本だった。
そういえば、彩はどうしているのだろうか。

「ただいまー!」

「お帰り」
「おかえりです~♪」
「……帰ったか」

シアノンだ。そして素直にお帰りという皆と素直じゃない俺。
絵になりそうなほど可愛い図だが、正直今はそれどころじゃない。

「シアノン!!!」

階段を上っている最中のシアノンに向けて俺は駆け出した。

「あれ?どうしたの?」
「俺、冒険しに行くことになった!!!」

伝えることがあまりなかったため、言葉でどうやって伝えるかわからないが、まぁここは五歳のメリットだ。見逃してくれ。

「え…?んじゃあ、あたしも行く~」
「シアノンさん、あなたの場合正直言って危ないです。リーゼルト君は国に関わる特別な理由があっていくのですから。ボディガードを二人置いておくのでシアノンさんは此処にいてください。リィ、ヤク。お供してください。」

サテラはいつの間にか追いついていて、その後ろにレスナも居た。
サテラの言葉のあと、彼女の後ろから金髪ショートカットの元気そうな女の子と金髪のヤンキーそうな男の子が出てきた。恐らく彼らがリィとヤクなんだろう。

「ごめんシアノン。そういうことなんだ」

「シアノン様!あたちがいるからだいじょうぶ!ヤクはたよりにしなくていいよ?」
「……リィ……。シアノン様、おれたちがえんりょなく話し相手になります。さみしかったらゆ(い)ってください」

謝る俺を追い抜いて、リィとヤクがシアノンに笑顔を向ける。そんな彼らの可愛さに、シアノンは思わず噴き出した。
恐らく俺も後ろでほのぼのとした笑顔になっているだろう。

「ふふ、可愛いわね。分かったわ、此処に残る。」
「こう見えて、彼らは才能を持って生まれました。恐らく今の私の三分の一にはいっているでしょう」

「そんなに!?」

シアノンは口を押えて驚いた。

―――――――――――――――――――――――――――――☆

「じゃあ、行ってくる」

「うん、行ってらっしゃい」

此処は玄関。サテラは荷物を事前に準備していたようで、特に何も準備する必要はなかったが、シアノンが弁当を作ってくれた。フェリラーにつくまでに午後は回ってしまうだろうと考えた彼女の優しさだ。
今までシアノンを悲しませてばかりいた。次帰ってくるときは、どうかなにか、恩返しができていますように。
その思いも込めて、俺はドアノブに手をかけた。そしてもう一度。

「いってきます」
「うん」

そしてドアは太陽の光を遮り、静かに閉まる。彼女の目のあたりが光っていた。しかしそれには、触れないでおこう。

―――――――――――――――――――――――――――――☆

「シアンだ。入るぞ」
『あ、シアン!なになに?』

銀髪で緑と黄緑がきれいに混ざった色のリボンをつけている顔の整った女性、大賢者シアン。
そして此処は彼女の組織の中でつくった「精霊コントローラー」だ。彼女を出迎えたのは、彼女の一番のお気に入り、カナレリアだ。
シアンは顔色ひとつ変えずに問う。

「彼のギフト取得の条件は」

精霊は言う。

『人生四苦八苦を体験し時、彼は猛大な力を手に入れるだろう』

そしてシアンは威圧の笑みを浮かべる―――――――――――――――――――――。

「——————ッ―――――――――――ッ」

奥の部屋から声が聞こえようと、シアンは構おうとはしなかった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品