戦慄☆ めたるぞんび先生!

とびらの

めたぞん先生のおしごと

「めたるぞんび先生は人間である」

「めたるぞんびせんせいはにんげんである……」

「メタルな肌質で、ひどい偏食で、加齢とともにサビのような肌荒れを起こしたのをあえてペンネームに盛り込む自虐的ユーモアも楽しむ、ごく普通の小説家である」

「めたるなはだしつで、ひどいへんしょくで、かれいとともにさびのようなはだあれをおこしたのをあえてぺんねーむにもりこむじぎゃくてきユーモアもたのしむ、ごくふつうのしょうせつかである……」

「よし。……おはよう、ヤナセ君。もう大丈夫だね? じゃあお昼ご飯を食べよう」

「は? ……あ、はい。あれっ僕はなにを」

「まあいいじゃないか。ほら、俺が買ってきてやったんだぞ。銀チョコパンだ。おいしそーだろー?」

「あ、ありがとうございます。あーなんか懐かしいな銀チョコ。銀チョコ……銀……シルバー……金属……メタル……うっ頭が」

「ヤナセ君! 大丈夫? ちょっと休みなさい、ほらここに寝転がって。……めたるぞんび先生は人間である」

「めたるぞんびせんせいはにんげんである……」



「――改めまして、新人の簗瀬巍ヤナセタカシです。字のほうは、説明もできないし聞いても多分書けないので、カタカナで呼んでください」

 ぺこりと頭を下げた僕に、めたるぞんび先生はギコギコ笑った。ギコギコ笑うだなんて、変なオノマトペだって思うだろ? でもコレ現実なんだぜ。

「ギコギコギコ……ヤナセ君。緊張しないでイイヨ。ワタシがヴェテランと呼ばれるまで作家をやってこれたのは、読者さんと担当編集さんたちのオカゲ。お世話になりまス、ギコギコギコ」

 いいひとだ! ギコギコいってるけどいいひとだ!

「あ。あの、僕……めたるぞんび先生の本、全部持ってます!」

 僕が頬を上気させてそう言うと、めたぞん先生は驚いて、ぽぽぽおん、と蒸気を吹き出した。

「本当かい? 嬉しいねえ」

「はい! めたぞん先生代表作、『のんだくれハイエルフさんと行く異世界飲みある記』は、アニメのフィルムブックも買いました。主人公の瀬分せぶんがカッコかわいくっていいですよね! 絶世の美少女であるハイエルフが、ひたすらビールを飲んでスルメ齧って寝てるだけなのに、50万字もハラハラドキドキ楽しめるなんて、ほんとアレは名作ですよ!」

「ギコギコギコ、いやいやそんなほめすぎで……」

「褒めすぎてません、僕はほんとに大ファンなんです! ハイエルフと比べると知名度は落ちますが、『きりん純情伝!』も大好きです! 平凡なキリンがTSするシマウマに出会って、天下揺るがす大騒動! 奇想天外なアニマルサバンナファンタジー、ここに開幕で御座候! このキャッチフレーズ、痺れるぅ!」

「おお、あれを好きと言ってくれたら嬉しいですなギコギコ、調べものが多くて更新は遅めだけど、気合は入れているギコギコ、コアなファンが付いているようで嬉しい嬉しい」

「もちろん、短編のほうも読みました! すごくちゃんとしたカタい和物でびっくりしましたよ! ……そういやアレなんで宣伝しないんですか先生」

「ギョッ!? さあ、な、なんででしょう」


 ポフポフと蒸気を吐き出す小説家。
 僕は首を傾げた。
 先生ほんとに、なんでなんですか?



「あのう……二人のご挨拶は、このへんにして……」

 と、口を挟んできたのは先輩だった。

「めたぞん先生、締め切りのほうも差し迫ってまして。そろそろお仕事のほうにかかってもらえたら」

「おおっそうですなボッフ。ええと、SS書き下ろしですか、発売が近いのはどのタイトルでしたかね……」

「じゃなくて、イラストのほうです。作家陣の宣伝用ツイッターアカウントのアイコンをお願いしたいんです」

「ふぉっ!? すでに先月、二十人ほどに描いた気がするゾンよ?」

「新たな依頼が来てるんですよ。なんでもめたぞん絵をアイコンにすると書籍化したり重版がかかるというジンクスで、今空前のめた絵ブーム。ぜひ自分もという依頼がほら。コレ、875,571件」

「それってなろう投稿アカウント全員(※2016年10月25日時点)じゃないメッタァァァアアアア!」

「あ、さすがに無理ですかね」

「無理メメタアアアアア!!」

 ビーッビーッビーッと高くサイレンの音。いったいどこからと思ったら、めたぞん先生の鼻がグルグル回転し光を巻き散らかしていた。
 しゅっぽしゅっぽと煙が上がり、振り回した腕からは赤サビがボロボロ。じたばたした勢いで漏れ出したオイルが、フローリングにポタポタ落ちる。


 ……。

 …………めたるぞんび先生は人間であるからして、なにも問題ではない。

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