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月夜に提灯、一花咲かせ

樫吾春樹

捌文目 灯火の向こうの夢想を

父親の入院騒ぎの後、僕は仕事を辞め実家のすぐ近くのところでアルバイトを始めた。流石にまだ元気とは言えど、両親は共に五十を超えている。弟はまだ学生で、勉強に集中させたいと思っていた。そういう理由で、僕がしっかりしないといけない。だけど、それでも。
「何で、俺ばかりなんだよ」
つい、口調が悪くなる。親達がまともに頼れるのは、僕しかいないことは嫌でもわかっている。わかっているのと、今までのことを考えると嫌になるのは別だ。
「言いたいことがあるなら言え。俺達だって心配なんだ」
口先ばかりの言葉を思い出す。どうせ、何を言っても取り合ってもらえず、怒られる始末。僕の気持ちなど微塵も知らずに、よくそんなことを平気で言えるかと思っている。おかげで、いつからか「私」から「僕」と言うようになった。
「周りの人間なんて誰も頼れない」
半ば人間不信を抱えて、ずっと過ごしてきた。そんな沸き上がる怒りをどうにか押さえ込み、僕はバイトでの業務を復習する。
店長の下の責任者が、一ヶ月で違う店の店長になってしまうので、僕を含めた五人が責任者として抜擢された。まだまだ覚えなければならないことは山のようにあり、勉強の毎日である。基礎的な業務内容はもちろん、責任者としての業務やクルーを育てる教育内容も覚えていかなければなからなかった。忙しい日々が三ヶ月程続いた。
そんな状態では翔太と会うことは難しく、気付けば月に一度くらいに減っていた。僕自身はその事についてはそれほど気にしていなかったが、翔太は違った。三日に一度程は、僕の休みを聞いてきたり会えないかどうかを聞いてきた。僕はそれどころではないので何度か断り、一度や二度は会うようにしていた。初めのうちは、彼も僕が忙しいからとあまり言うことはなかったが、だんだんと要求が増えてきていた。正直、求められるあまり、逃げ出したくなるほどであった。
「本当、面倒になったな……」
今日も鳴るスカイプの通知音を無視して、勉強に戻る。年末年始の忙しい時期を乗り越え、やっと落ち着ける時期。それを知ってなのか、前よりも頻繁に誘いの連絡が来るようになっていた。流石に集中できないので、通知音を消し音楽をかけながら勉強した。
「琴姉ー ご飯だよー。準備手伝ってー」
「はーい、今行く」
弟に呼ばれ、夕食の準備をする。家にいるときは、みんなで準備するのがこの家の決まり。よっぽど仕事で疲れてるときは例外とするけども、大体はみんなでやっている。とはいえ、父親が参加することは少ない。なのに、ふんぞり返って待ってるものだから気にくわない。
「父さん、出来たよ」
「今行く」
家族が全員揃い、食卓を囲む。美味しいけど喉に引っ掛かる、そんな食事が始まる。

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