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月夜に提灯、一花咲かせ

樫吾春樹

陸文目 七夕の夜のような

事故の次の日。スカイプに来ていた翔太からのメッセージを返して、再び布団に寝転がる。今日は出掛けたくない。僕が出掛ける手段としたら、歩きかバイク。もしくは、電車になる。だが、昨日の事故の影響なのか、身体中が痛くて動く気になれない。そんな風にして時間を潰していると、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい……」
そう返事をして気怠い身体を起こして扉を開けると、裕人さんが立っていた。
「やあ、まこちゃん。大丈夫、じゃなさそうだね…… 入ってもいい?」
「どうぞ 散らかってますけど……」
ちょこちょこ片付けているが、服が脱ぎっぱなしになって少し置かれていたりする。あとは、本が隅で山を作っている。そんな部屋には椅子も無いので、僕と裕人さんは布団に座る。
「何かと忙しそうだね。ツイッターにも、なかなか出てこないし」
「はい……」
すると無言で頭を撫でられ、彼の膝の上に乗せられた。
「あの、裕人さん?」
「身体、痛むんでしょ。それに、昨日は怖かったんじゃない? だから今も、聞いてるようでどこか上の空みたいだし」
「ごめんなさい…… そんなつもりはなかったです……」
「気にしないで。むしろ、そう思うのが多分普通だから。事故は怖いもの。いいんだよ、気を張らなくたって」
「ありがとうございます……」
そうやってゆっくりしていた時、ポケットに入れていた僕のスマホが五月蝿く鳴り響いた。取り出して、誰からの着信なのかを確認する。表示されてるのは、父親の名前。少し嫌な予感を覚えながら、僕は電話に出た。
「はい、もしもし」
「琴姉……」
電話越しに聞こえてきたのは父ではなく、慎哉の声だった。普段ならば絶対に、他人のスマホを触らない弟。そんな弟が父親のスマホで、電話を掛けてきている。何があったのだろうか。
「どうした」
「父さんが、救急車で運ばれた…… 今、母さんと病院にいる。琴姉、どうしよう……」
「とりあえず、落ち着いて。所長に話して、僕も向かえるようにするから。大丈夫だから、きっと」
「わかった…… がんばる。また、連絡する」
「またね」
通話が切れ、やっと思考が追い付いてくる。
「どうしたの、まこちゃん」
話しかけられるが、それに答える余裕など無かった。あの父が倒れて、病院に運ばれた。まだどういう状態とかわかっておらず、そういう話も聞こえてこなかった。頭に浮かぶのは、最悪の状況。もし、父が亡くなったら。そんな考えが過り、身体は震え出した。そうなったら、どうする。一体、どうすればいい。僕が、家族を養っていかなければいけなくなる。だけど、まだ僕にはそんな力など。
「まこちゃん!」
肩を揺すられながら名前を叫ばれ、やっと意識が裕人さんに向いた。
「何があったの、まこちゃん」
「どうしよう、裕人さん…… 父が…… 父さんが……」
「とりあえず、所長さんに話に行こう。それからなら、いくらでも泣いていい。ちゃんと、連れていってあげるから」
「わかりました……」
裕人さんに支えられながら立ち上がり、僕は所長の待つ新聞店に向かった。頭の中は不安で一杯だったが、なんとか事情を伝えて数日間のお休みをもらうことになった。病院へ向かう車の中、不安でどうしようもなくこぼした言葉があった。
「父さん…… お願いだから、どうか何事もありませんように…… もし、もしも……」
「大丈夫だって、まこちゃん。今は信じよう」
わしゃわしゃと撫でる裕人さんの姿に父親の面影を重ねて、無事を祈りながら病院に着くまでの間を過ごした。

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