月夜に提灯、一花咲かせ

樫吾春樹

壱文目 思い出は泡沫のように

夢を見ていた、とても長い夢を。それは、二人に出会った時のこと。翔太は、裕人さんに出会う少し前に出会った。彼とはネットでの交流が半年以上あり仲がよく、オフ会というのを開きそこでは初めて会うことになった。
「初めまして、イルカです」
「初めまして、あまねです」
イルカとは僕のハンドルネームで、ネット上ではこれで通してる。周は翔太のハンドルネームだ。他にも三人ほど来ていて、全員で歌ったり話したりした。翔太とは、意気投合して仲もよかったので、僕の方から告白をした。彼には驚かれたが、良い回答をもらって僕達は付き合うことになった。
それから数日後のこと。僕はあの日、裕人さんに出会うことになった。裕人さんに一目会ったとき、僕は思ったことがある。


「この人のことを、好きになりそうだな」


そんなことを感じながら、僕は翔太と付き合いながらも裕人さんと食事などをするために会っていた。距離が離れてる翔太と会うよりも、近くに住んでいる裕人さんと会う回数が多かった。だけど、その事は翔太には黙っている。流石にそれを聞いて、あまりいい気分ではないとは思うから。
「ごめん、待たせちゃったかな。イルカちゃん」
「大丈夫ですよ、海斗かいとさん」
海斗は裕人さんのハンドルネームで、本名を知っててもついこの呼び方で呼んでしまう。それは裕人さんも同じみたいで、彼も僕のことをネットでの名前で呼んでいる。
「それじゃあ、遊びに行こうか」
「はい、行きましょう」
「何だっけ、周さんとの初デートの服だっけ?」
「ですよ、格好いい服も見たいな」
「だーめ。可愛らしい服で、デート行くんじゃなかったっけ?」
「海斗さん、からかわないでください」
意地悪そうに言ってくる裕人さんに、頬を膨らませて抗議する。一緒に選んでくれるのは嬉しいが、それを見せるのが別の相手というので少し複雑な心境になる。
「でも、残念だな。イルカちゃんの可愛らしい姿、見てみたかったな」
「可愛くなんかないですからね」
恥ずかしくなるようなことを、裕人さんに言われて僕は動揺した。僕が好きなのは翔太で、裕人さんは好きにならない。裕人さんは友達。そうやって僕は、何度も自分に言い聞かせる。翔太とも付き合い始めたばかりで、ましてや裕人さんとはいくつ離れてるのだろう。そんなことを考えながら、洋服店を見て回る。
「イルカちゃんは、周さんのこと好きなんだね。慣れない可愛い服を、デートに着ていこうとするくらいだしね」
「はい、周さんのこと好きですよ」
それを聞いた裕人さんが、少しだけ寂しそうに笑った。その笑顔は僕の胸に、少しだけ痛みを残した。

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