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月夜に提灯、一花咲かせ

樫吾春樹

拾漆輪目 桜

満開の桜が咲き誇る、四月の上旬。休みの日に一目、今年の桜を見に行こうと、僕は先輩に連絡してみた。
「桜が綺麗ですよ。一緒に出掛けませんか?」
そのメッセージにすぐに既読が付き、返事が返ってくる。
「いいよ。準備したら迎えに行くよ」
僕はそれを見て、バタバタと支度をする。外行きの服を取り出し、普段はしないメイクもする。出掛けることが少ないからこそ、たまにはこういう風にして驚かせたいと思う。そうこうしているうちに、玄関の扉が開いた。
「まこちゃん、準備できた?」
「できたよ、行こう」
「わかった、先に車を動かしてる」
「うん」
出ていく後ろ姿を見送り、ヒールを履くためにしゃがむ。両方履き終えてから立って歩き出そうとした時、強い目眩に襲われて壁に手を付く形になった。
「長いな…… 少し、調子悪いみたいだな……」
暗くなった視界が戻るのを待ってから、僕は家の鍵を閉めて裕人さんの待つ車に乗り込んだ。
「どうした? 遅かったけど」
「ちょっと、探し物してただけだから」
「そっか、それじゃあ行こうか」
「うん、楽しみ」
多分、見ることも難しくなりそうな気がする。みんなとの約束、守れるかな。守れればいいな。後ろに消えていく景色を見ながら、僕の頭にはそんな考えが過った。
車が走ること約二時間。去年に、二人で桜を見たところと同じ場所に着いた。
「わあ…… やっぱり、ここは綺麗だな」
「そうだね。写真、撮る?」
「勿論。去年もたくさん撮ったし、今年も撮りたい」
「わかった。たくさん撮ろう」
写真をいっぱい撮って、記録に残そう。僕の代わりに、たくさんの笑顔を残そう。少し前に告げられた、僕の残り時間。その事はまだ、裕人さんには話していない。話したら、泣き崩れそうで。だから、平気なふりをして残りを過ごす。僕は振り向いて、彼の名前を呼んだ。
「裕人さーん」
「どうした?」
「大好きですよ」
「いきなり、なんだ?」
「何でもないですー」
無邪気に振る舞う。だけども身体は限界みたいで、その場に倒れ込むようにして座り込んだ。
「まこちゃん!」
驚いて、裕人さんが駆け寄ってくる。
「あはは、大丈夫ですよ。少しお腹痛くなっただけです」
「嘘はもういいよ…… 辛いんでしょ?」
「知ってたんですか……」
「まこちゃんのお母さんから聞いてね。きっと、俺には話してないだろうからって」
「まったく、母さんもお喋りですね……」
気が緩んで涙声になる。最後まで、彼を騙していたかった。気づかれたくなかった。弱いところなんて見せたくないから。だが、気持ちとは裏腹に涙がポロポロと流れる。
「いいんだよ、強がらなくても」
「裕人さん……」
「よしよし」
大きな手で頭を撫でられる。大好きな裕人さんの手。まだ手を繋いでいたい。まだ隣で笑っていたい。まだ、まだ……
「まだ…… 一緒に、いたいです……」
泣きじゃくりながら、彼に抱きつきそう訴える。
「なら、一緒に頑張ろう? まだ、そんなに悪くないんでしょ?」
裕人さんの言葉に頷き、それを返事とする。そして、支えられながら立とうとした時、僕の視界は暗転した。

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