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月夜に提灯、一花咲かせ

樫吾春樹

肆音目 蓮華草

三月十四日の午前三時。今日は男性が贈り物をする日である。しかし僕は今、先輩と仙台市に仕事のため向かっている途中である。あいにくの天気の中、眠い目を擦りながら裕人さんに話を振る。
「仙台に行くのは楽しみですけど、本当なら僕は今日は東京ですよね」
「そうなんだよね。だけど、昨日の夜に電話が来て急遽だったから仕方ないね」
「そうですけどね。相変わらず急過ぎますね」
そういった会話をしながら、先輩は高速を走っていく。僕にとっては二度目の、長距離移動の仕事。一度目は五月中旬の長野への仕事。何をやったのかは、家に帰ってノートを見ないと覚えていない。そこまで大変な内容では無かった気はするが、もう半年以上前のことになると流石に覚えていなかった。
「長旅だから、寝てればいいよ。向こうに着いたら、頑張ってもらうし」
「それなら、そうします」
シートも倒して良いと言われたので、倒して瞼を閉じる。外を走る他の車両の音が聞こえ、それがどんどん小さくなり音が途絶えた。
作業を終えて、高速のサービスエリアにてお昼を取る。仙台ということなので、牛タンを選んだ。
「この牛タン、美味しいです」
「それならよかったよ、まこちゃん」
「先輩、奢ってくれてありがとうございます」
「たまには、美味しいもの食べさせたいし」
笑顔を浮かべながらそういう話をして、箸を口に運ぶ。仕事の後のご飯は美味しくて、気づけば食べ終わっていた。
「先輩、お土産見てもいいですか?」
「いいよ、俺も行くし」
「わかりました。家族に何を持っていこうかな?」
「今月忙しいから、賞味期限が長いものにしておきなよ」
「はい、そうします」
そして、仙台の有名なお土産である「ゆべし」や「喜久福」や「萩の月」を見て回った。他にも「かもめの卵」などがあった。どれにしようかと悩み、喜久福を選ぶことにした。
「先輩、先に会計しちゃいますね」
「はいよー」
そう言って会計を済ませ、裕人さん待つついでに他のお土産商品を見る。ふと、並べてあるぬいぐるみが目に留まる。
「可愛いな。欲しいけど、高いよな……」
少し眺めたり手に取ったりするものの諦めて棚に戻し、まだ選んでいる裕人さんの近くに行く。
「まだですか?」
「もう少し。先に車に行ってていいよ」
鍵をもらい、僕は先に車に向かう。朝からのあいにくの天気に少しがっかりしながら、助手席に乗り込んで彼を待つ。少し時間が経ってまだ来ないかなとか考えていたら、店から出てくる先輩の姿が見えた。
「お帰りなさい、先輩」
「ん、ただいま。まこちゃん」
ちらりと、お土産の袋から先ほど僕が見ていたぬいぐるみの姿が見えた。誰にあげるのだろうか。そんな考えが頭の中を駆け巡った。
「可愛らしいですね、そのぬいぐるみ」
「でしょ? ぬいぐるみが好きな子がいてね。その子にあげるんだ」
「そうなんですか。ちょっと、羨ましいです……」
最後は、先輩に聞こえないようにポツリと呟いた。その子にはお土産をあげて、僕には何も無しか。しかも、ホワイトデーなのに。いや、仕事で来てるんだから当然と言えば当然だけど。それでも、やっぱり少し妬いちゃうかな。少しふてくされていると、裕人さんが僕の頬をつついてきた。
「何ですか……」
「どうした、不機嫌になって」
「何でもないです」
首元のネックウォーマーを口元まで上げ、表情を隠す。顔も知らない相手に、ヤキモチを妬いてるだなんて知られたくない。
「ほら、元気だして」
そう言って先輩は、僕の顔にぬいぐるみを当てた。
「な、何するんですか。これ、人にあげるものですよね」
「そうだよ。ぬいぐるみが好きな、まこちゃんにあげるんだよ」
「え?」
きょとんとして、言われたことが理解できない。
「このぬいぐるみ、見てたの知ってるからさ。ホワイトデーだし、丁度いいかなって」
照れ臭そうに笑う裕人さんを見て、嬉しいのと恥ずかしいのとで顔をぬいぐるみで隠した。
「裕人さんのばか…… ありがとう」
小さくお礼を言うと、どういたしましてと頭を撫でられた。そして僕は帰り道、大好きな人からもらったぬいぐるみを抱えて、夢の中に入っていった。

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