月夜に提灯、一花咲かせ

樫吾春樹

拾伍輪目 梯梧

前髪を後ろに上げ、後ろと合わせてポニーテールにする。夜中の寒さがまだ厳しい、二月下旬。先月のゴタゴタがあった後も、僕はこうして仕事をしている。ラインが鳴り、出発という内容が先輩から送られてくる。
「さてと、いってきます」
電気を消して、ドアに鍵をかける。外に出ると、寒さが足からやって来た。少し震えながら、僕はコンビニへ向かう。朝御飯は何を食べようか、仕事内容は何なのか。そんなことを考えながら、コンビニまで歩いた。中に入り、暖かさに一息吐く。
「まだ、外は寒いな……」
朝御飯を選びながら、そういえば今日は夜勤もあるんだったと思い出す。大変な一日になるけども、今日も頑張らないと。そう頭の中で意気込みながら、おにぎりのコーナーで立ち止まる。どれを買おうか少し迷い、結局いつも通りのわかめを手に取り飲み物を選ぶ。ラインでのメッセージ音が鳴り、会計を済ませた僕は外へ出る。
「おはようございます」
「おはよう、まこちゃん」
車に乗り込みながら、いつもと変わらない挨拶をする。
「今日は夜勤だし 、寝れるときに寝ておきな。夜も忙しいし」
「わかりました。それじゃあ、寝ておきます」
先輩にそう言われ、僕は瞼を閉じる。色々と思い出すが、その中でも毎回出てくるのは裕人さんといつかの元彼の翔太。元彼のことはあまり思い出したくないが、裕人とのことを思い出すと必然的に思い出すことになる。僕達三人は、複雑に絡んだ糸のようになかなかほどけない時間を過ごした。今はもう、その糸は切れて絡まらないようになってるが。
「いたた」
「ごめんよ、起こしちゃった?」
「大丈夫ですよ」
車が揺れ、頭を隣の窓にぶつけてしまい瞼を開ける。ぽふっと先輩が謝るように頭を撫で、もう一度瞼を閉じる。楽しかったけど大変だった、過去の頃の思い出が甦る。当時していたバイトのこと。そこでの仲間達のこと。翔太のこと。そして、裕人さんのこと。
ぐるぐると考えてるうちに、考え疲れたのか僕は舟をこぎ始めた。
「おやすみ、まこちゃん」
先輩がそう言いながら、ぽふっと頭を撫でた。そして、僕はそのまま意識を手放した。

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