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月夜に提灯、一花咲かせ

樫吾春樹

拾弐輪目 桔梗

今日もパソコンに向かい、小説とにらめっこをする。だが、小一時間ほど考えても一文字も書けないまま時間だけが過ぎて、僕の焦りは募っていく。
「あー! 何も浮かばないー!」
ついには叫びまで出るが、アイディアはまったく出てこない。
「琴姉、うるさい」
弟の慎哉がドアから顔を出して、僕にそう言ってきた。
「ごめんごめん」
弟に謝り、ごろんと布団に寝転ぶ。横になりながら視線をパソコンの方へと向けると、自然と自分の腕が目に入る。やっぱり目に付くのは、手首に残る無数の傷痕。横に走ってるものや、縦に走ってるもの。数え切れないほど、腕に残っている。
「昔に比べたら、今は大分良くなってるかな……」
そっと傷をなぞり、そう呟いて目を閉じる。今でこそ家族とも仲良く過ごしてるように見えるが、昔はそうはいかなかった。
昔の僕は、いじめられて、裏切られて、周りからは笑われてばかりいた。そして、家に帰れば僕の居場所なんてなかった。常に、親の機嫌を取ながら「良い姉」を演じていた。弟が悪いことをすれば、自分のせいにされて怒られることは日常だった。学校に行けば、外国人だからと罵られたり、仲間はずれにされたりした。
そんな日常が続き、気づけば中学生になっていた。苦痛の日々の中、僕はリストカットを知った。死にたいわけじゃない。だけど、どこにも逃げ場がない。そんな僕が、逃げ場としたのがそれだ。日に日に行為はエスカレートして、三桁を越えた辺りから数えることも止めた。
そして、学校は変われども僕に対する対応は変わらず、時間だけが過ぎて僕はを高校卒業した。高校では友人は何人かできたが、家では相変わらず居場所は無いままだった。むしろ、悪化していたと思う。卒業してからしばらくは大丈夫だったけど、部活を楽しみに学校に行っていたため、卒業してから行かなくなり楽しみがなくなった。そんな状態で、親からの風当たりは強くなる一方で、ストレスだけは募っていきついに僕は壊れた。
卒業してから一年程で、僕は鬱病になった。親からのプレッシャーやストレスに耐えられず、ついに精神的に参ってしまった。それでも親は「そんなの気持ちの問題だろう、いい加減にしろ」と言い、全く聞く耳を持たなかった。そのせいもあってか、一時はやめていたリストカットも再びやるようになってしまった。悪化する症状に、浮かぶ自殺願望。このままじゃだめだと思いながらも、身体は言うことを聞かない。半年ほど過ぎてから、やっと病院に行き治療することにした。
「あ、薬飲まなきゃ」
鬱病もリストカットも、発症から数年経った今でもまだ治ってない。特に鬱病の方は一旦落ち着いていたものの、また悪化してしまった。再び病院通いになっているけども、前よりは大分良い状態だ。
「小野さんからラインが来てる」


「調子はどうですか?」
「あまり、良くないです。なかなか浮かばなくて…… すいません」
「大丈夫ですよ。小説の方も病気もゆっくり行きましょう」
「ありがとうございます」


小野さんの言葉が暖かく感じる。僕の状態を知っていて、色々と気にかけてくれている。なかなか他人に理解してもらえないと。そんなこと誰もわかるはずがないと、僕はどこか距離を取っていた。実の親にさえ、理解されなかったのだから。だけどそんな僕のことを、小野さんは支えてくれる。先輩もそうだが、二人にはとても助けられてる。
「さてと、もうちょっと頑張りますか」
僕は起き上がり、再びパソコンへと向かた。

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