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月夜に提灯、一花咲かせ

樫吾春樹

拾輪目 福寿草

慌ただしい年末が過ぎ、気づけばもう大晦日である。流石に今日は仕事もお休みで、実家に帰ってのんびりしていた。だけど、実家にいても頭の片隅にあるのは裕人さんの顔。ほぼ毎日会ってはいるけどそれは先輩としてで、彼氏として会うことは忙しいせいで最近は少ない。仕事が山のようにあったから、どうしてもそういう時間が取れなかったのは仕方ないが。
「会いたい」
先輩宛のラインに書き込むものの、送る前に消してしまう。きっと、迷惑かけてしまう。そう思うと、どうしても送れなかった。
「寂しいな……」
ポツリとそう呟いて、ラインを閉じる。彼はどう思ってるのだろうか。同じように思ってるのだろうか、それとも違うのか。そんなことを考えながら、僕は小説を書く仕事に戻る。
カタカタカタとキーボードを叩く音が響く、静かな部屋の中。耳にはヘッドフォンをして、いつものように作業曲を聞きながら手を進める。少しでも進めないと、新年早々締め切りに追われることになる。
「ねーちゃん、年越しパーティーに行く?」
母さんが部屋に来て、僕にそう問いかける。
「ん。行く」
短くそう答え、身支度を始める。いつもは作業着しか着てない僕だが、たまには女子らしい服装をしようかとか考える。キャラメル色のロングスカートに、ネイビー色のセーター。それに白い上着を羽織り、首には裕人さんにもらったネックレスをする。伸びてきた髪の毛は、ハーフアップにしてシュシュでまとめる。
「こんな感じでいいかな?」
姿見の前でくるりと回り、自分の姿を確認する。
「琴姉ー、行くよー」
「はーい」
弟に呼ばれ、階段を降りていく。
「あら、可愛らしい」
「いつもとは違う感じでいいんじゃないか」
親二人にそう言われ、ありがとうと笑顔で返す。全員揃い、車でパーティーが開催される人の所へと向かう。父さんの友達が主催ででやるため、僕の知り合いが多く来るだろう。
最近の日本人の家では、あまりこういうことをやらないと聞いたことがある。僕の家は、そもそもが日本人ではなくブラジル人の為、お祝い事の日はパーティーをやることが多い。誕生日はもちろん、クリスマスにお正月。その他に、お祝いじゃなくてもバーベキューとかをすることがある。僕にとっては凄く今更だが。
「着いたー」
着くと既に何人か来ていて、準備を始めていた。僕達もそれにならって、準備を手伝う。夕方から始めて、日付が変わっても毎年賑わっているこのパーティー。家の中では女性陣が、それぞれが作った料理を持ち寄って机の上に並べていく。そして外では男性陣が、肉を切ったり味付けをしたりして、焼いていく準備をする。
「今年も一年お疲れさまでした! それじゃあ、乾杯!」
主催者の声に合わせ、皆がグラスを合わせる音が響く。
「真琴ちゃんもお疲れさま。ガラス工事に携わってるんだって?」
「はい、そうですよ」
「若いのに大変だね…… 体に気を付けるんだよ」
「ありがとうございます」
そのあとも代わる代わるに人が来ては、話しかけられた。知り合いじゃなかったら今すぐに逃げ出してるところだが、そういうわけにはいかない。だが、どうしても人が多いところはまだ苦手なままだ。
「ふう……」
人との会話の波も一段落して、僕は椅子に腰かける。だが、突然首筋に冷たい感覚がして驚く。
「お疲れ」
「もー…… ビックリさせないでよね」
「悪いな」
そう言って彼は、缶チューハイを差し出してきた。
彼は松井絋まついひろ。僕の一つ下で、幼馴染だ。僕とは対照的に、明るく時には先程のようにいたずらなどもしてくる人である。
「絋も来てたんだね」
「そっちこそ。忙しいのに来てたんだな」
「まあね。今日から数日間は、会社もお休みだし。」
「そうなんだな。ともあれ、今日は楽しんでいけば?」
「そうする」
貰ったチューハイに口をつけながら、彼と会話をする。職人のこととか、小説のこと。会えてなかった、時間を埋めるように話をしていく。
「そうか、たくさんあったんだな」
「まだまだ、僕は頑張らなきゃだよ。早く一人前にならなきゃ」
「そう思うのはいいけど、焦りすぎるなよ? 焦ってもいいことないし」
「わかってるよ」
「ならいけどな」
お酒も入ってるせいで、どんどん会話が弾む。
「なあ、まこ」
「んー?」
「今日のお前、凄く可愛いな」
「いきなりどうしたの、絋」
「いや、何でもない」
「えー、気になるんですけどー」
「うるさい。ほら、もう年が明けるぞ」
会話を逸らされスマホを見ると、日付が変わるまであと数分だった。僕はチューハイを飲み干し、母さんの近くへと行く。そして、日付が変わった。
「明けましておめでとう!」
クラッカー音とともに、そんな声が聞こえた。各々が挨拶をしながら、順番に回っていく。僕もその中に混じって、みんなに挨拶をしていく。絋に挨拶するとき、耳打ちで彼に「さっきのこと、あとで教える」と言われた。
挨拶回りが終わり、僕は絋に声をかける。
「絋、教えてくれるんでしょ?」
「ああ。ここじゃ何だから、ちょっとこっち来い」
言われるがままについて行き、ひと気が無いところに来た。
「それで、何なの?」
「お前はもう少し、警戒とかしろよな? 相手が男だってのを忘れるなよ……」
「だって、絋だし」
「まったく…… お前は」
そして、僕は壁に追いやられ逃げられなくなった。
「ひ、ろ?」
「この天然は、どうにかして自覚させなきゃな?」
顎を持ち上げられ、視線がぶつかる。僕より背の高い絋が、少しニヤリとして真っ直ぐに僕を見ている。
「えっと、あの…… その……」
逃げようとキョロキョロしてみるが、それは阻止されてしまう。
「だめ、今日は逃がさない」
低い声が聞こえてきて、そのまま引きもせられる。
「お願い、離して…… 絋も知ってるでしょ? 僕には……」
「知ってるよ」
「なら、何で」
「どうしても、伝えたくてな」
そして彼の顔が近づいて、口付けをされた。
「なあ、まこ。俺じゃだめか?」
僕の耳元で、彼がそう囁いた。

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