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月夜に提灯、一花咲かせ

樫吾春樹

肆輪目 都忘れ

裕人さんに想いを告げられたものの、理由があってなかなか答えが出せないまま、僕の東京への引っ越しの予定日になってしまった。荷物を運ぶ手伝いを彼が自ら言い出し、僕はそれに甘える形になった。
「すいません、裕人さん。今日はお願いします」
「大丈夫だよ。案外、荷物少ないね」
「まぁ、そんなに持って行っても大変なので、着替えと寝具、あとは本くらいです」
「なるほどね。それじゃあ、行く?」
「はい、行きますか」
両親に出発の挨拶をして、車に乗り込む。この前の事など無かったことかのように、目的地に向かって車を走らせる裕人さん。そんな横顔をチラリと見て、過ぎていく景色に視線を戻した。遠ざかっていく故郷の景色に、過ごした多くの時間を思い出して寂しくなる。
「どうした?」
「東京へ出るのは二度目なのに、やっぱり寂しくて」
「その歳で一人で都内に出て、働きながら生活しようとするのも大したものだと思うけどね」
「あはは…… 家計が苦しくて仕方のないことなので」
口から出た言葉は、決して嘘ではない。確かに、僕の実家の家計は苦しい。だけど、一番の理由は父親との不仲だ。似た者同士であるからこそ、意地でも考えを曲げなかったりして衝突してしまうことが多すぎる。
「そっか。でも、無理しないでね。必要なら来るからさ」
「ありがとうございます、裕人さん」
「まこちゃんは気負い過ぎてるところもあるから心配で」
「返す言葉もありません……」
「よしよし」
運転しながらも、軽く頭を撫でてくる。そんな仕草に、ついドキッとしてしまう僕がいる。
「ん?なんかあった?」
「なんでもないです」
「もしかして、照れた?」
「ち、違います!」
「そういう反応も可愛いよ」
「可愛くなんてないです!」
「顔をそんなに赤くして言われても説得力ないよ」
「う……」
言葉が続かず、抗議するような視線を送るだけになってしまった。こうやってからかわれるのも、ただ遊んでいるだけだからなのか。それとも本当に、僕のことが好きなのか。答えが見つからず、考えが堂々巡りする。
「なんで……」
そこまで口に出し、先が詰まる。だが、ここまで言ったら気になっていることを聞くしかない。なんとか絞り出すように、言葉を続ける。
「なんで、僕なんですか……」
「さあ、なんでなんだか自分でもわからない。でも、俺とここまで仲良くしてくれたのはまこちゃんしかいない。だからかな」
「そうだったんですね」
さらっと言われ、聞いた自分が恥ずかしくなる。
「まこちゃんは俺のことどう思ってるの?」
「僕は……」
僕はどう思っているのだろう。嫌いではないことだけは確かなのだが、じゃあ好きなのかと言われるとわからない。友達以上ではあるが、恋人になりたいかって言われても今は出来ない。
「ごめんなさい。はっきりと答えは出せないです。嫌いではないですし、友達よりも想ってはいますけど……」
今の気持ちを答え、俯向く。
「ありがとう。嫌ってないってわかっただけでも嬉しいよ」
「すいません……」
「大丈夫だよ」
俯いたまま呟く僕の頭に、大きくて温かな手が触れた。それが心地よくて、しばらく裕人さんに撫でられ、気づけばうとうとと船を漕いでいた。
「まだ時間かかるし、眠かったら寝てていいよ」
「はい、そうします」
そして、そんなに時間が経たずに僕は寝付いてしまったようだ。

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