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月夜に提灯、一花咲かせ

樫吾春樹

陸輪目 月草

都内と横浜の二軒の工事をした次の日。午後からの工事だということで、僕は十時半頃に目を覚ました。
「おはようございます」
起きたら必ず、先輩に送るライン。送らないと僕が寝坊ということになり、家まで来ては引っ叩き起こされるのだ。始めたばかりの頃は、前にやっていたバイトが夜勤だったために、彼に何度も起こされていた。
「おはよう」
服を着替えている時に、彼からの返信が来た。髪の毛を梳かし靴下を履いて、メッセージを再び送る。
「支度終わりました。そろそろだと思うのですが」
「そろそろだね。出発するか」
「はい、わかりました」
やり取りを終え、靴を履いて家を出る。日差しは暖かいが、風はだいぶ冷たい。暦の上では既に冬だったのだが、ここ数日暖かかったせいもあってそんな感じがしなかった。
「おはようございます、寒いですね」
「おはよ。そうだね、風が冷たい」
「冷たいですね」
そんなことを言いながら、冷えた手を先輩の顔にくっつける。
「こら、危ないし冷たいからやめなさい」
「はーい……」
軽く頭を叩かれ、渋々手を離す。本当は触れたかったとか、そんなことを言うと彼にまたからかわれるので何も言わないでおく。
「まったく、この甘えん坊」
「違いますー」
「えっ」
「何ですか……」
「別にー」
結局からかわれてしまい、いつもの流れになる。そして、そのまま話は仕事の内容になった。毎日のように同じ流れである。
「それで、今日の仕事内容は何ですか?」
「ガスケット」
「硝子の厚さは?」
「指示書見ようか」
「はーい」
そう言われて、二つの座席の間に挟まっているファイルを取り出し、内容を確認する。硝子の厚さは五ミリで、枚数が十二枚。大きさが約縦九百の横八百ミリ。この業界では九百角と呼ばれる硝子だ。それと、ガスケットはSWタイプの物になっている。他にも様々なタイプの物があるが、僕がやっている内装の工事ではこのタイプが多い。
「今日は早く終わりそうですね」
「まあ、一人仕事の量だね」
「そうですね」
本当ならばこの仕事量は、一人でこなすもの。だが、私が見習いの為一緒に行って覚える必要がある。そのため、ほとんどの仕事に問答無用で連れていかれる。とか、言うと語弊がありすぎるが、私も特にやることもないのでついていくのだ。
「珍しいね、今日は寝ないの?」
「いつも寝てるわけじゃないですよ」
「九割寝てるよね?」
「さあ? 何のことでしょう」
「誤魔化すの下手だね」
「悪かったですね」
「はいはい」
ぽんっと頭を撫でられ、胸が跳ねる。
「寂しかったんでしょ?」
「……そんなことないです」
「じゃあ、撫でるのやめよう」
「嫌です……」
「まったく、素直じゃないね」
寂しいとわかってて撫でられ、少しだけ悔しいのと嬉しいのが混ざりながら、大人しく撫でられる。こういうのは、ずるいと思う。
「ずるいです…… 今更ですけど」
「そうだね、俺はずるくて意地悪だよ」
「本当、その通りですよ……」
そう言い、頬を膨らます。それを、横から指でつつかれる。
「ほら、機嫌直して。それとも、俺のこと嫌い?」
「嫌いなわけないです」
「じゃあ、何?」
「言わなきゃですか?」
「別にいいけど?」
隣でニヤニヤしながら、そんな事を言う裕人さん。これは、言っても言わなくてもどちらにしろからかわれる。なら、言ってしまった方がいい。
「好きですよ、裕人さん。これで、満足ですか?」
「ありがと、まこちゃん」
ドキッとするような笑顔を浮かべ、そう返事が返ってくる。やっぱり、この人はずるいと思う。

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