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月夜に提灯、一花咲かせ

樫吾春樹

漆輪目 待雪草

寒さの中、私は目を覚まして布団から這い出る。
「うわ…… もうこんな時間」
スマホの画面で時間を確認して、そんな事をこぼす。立て続けにある仕事の、束の間の休日。それを、半日以上寝て過ごしてしまった。
「はあ、仕方ない。とりあえず、ご飯を食べてから小説とか書こう」
そう言って、お昼の支度をする。昨日の残りがあったのでそれを温めて、茶碗にご飯をよそう。キャベツと人参、豚肉に塩、胡椒をかけて、炒めた簡単なものをおかずに食べる。その傍らにノートとペンを置いて、食べながらノートにメモを残していく。
書いていると、玄関の鍵が開く音がした。僕の家の扉を開けられるとしたら、鍵を持っている先輩以外にいない。
「まこちゃん、起きてる?」
「起きてるよ、何?」
「最近仕事続きだったし、会いに来た」
出てきた言葉に面食らってしまい、誤魔化すようにため息を吐く。
「そんな恥ずかしいことを、よくさらっと言えるよね、裕人さん」
「まこちゃんの反応が楽しくて、ついね」
「遊ばないでよ……」
「好きな子にはいたずらしたくなるのさ」
「はあ……」
この人には毎回のごとく、振り回される。別に嫌というわけではないが。僕は開いていたノートを閉じ、食べ終わった食器を片付ける。
「小説、書いてたの?」
「久しぶりにね」
「本当、まこちゃんは色々やるよね。小説にイラストにレジンとか」
「そういうのが好きだから」
自分で言うのもなんだが、僕自身かなり多趣味ではある。裕人さんが言ったの以外に、編み物や読書など他にも色々ある。
洗い終わった食器を片付け、裕人さんの隣に座る。抱き寄せられて撫でられ、頭を肩に預ける。
「いいの、のんびりしてて。コンテストが近いんじゃなかった?」
「大丈夫。もうほとんど出来てるから」
「職人に作家にと、おつかれさま」
「ありがとう。こうしてのんびりできるだけでも、仕事をがんばれるよ」
作家に職人見習い。確かに多忙ではあるが、決して辞めたいとは思わない。特に作家の方は。それは、僕が中学から夢見続け、何度もその旅路で躓いたけど、やっと叶えられた悲願だから。
彼の膝の上で撫でられながら、僕は次の作品のネタを考える。推理物、恋愛物、学園物。どれもありきたりで、しっくりと来るものが思い付かない。そんなことを考えながら唸ってると、裕人さんに頬をつつかれた。
「そんなに唸ってどうした。また、ネタでも考えてるのか?」
「うん…… でも、なかなかいい感じのが思い付かなくて」
「俺はわからないけど、まこちゃんの書く物はいつも真っ直ぐで、どこか奥深くて。読んでて物語に入ってしまうと、俺は感じるよ。だから、自分の書きたいのを書けばいいと思う」
そう言われたことに驚いて、言葉が思い付かずに何度かまばたきを繰り返す。
「それと。いつか俺に物語を書いて欲しいな、なんて。無理せずにだよ、真琴先生」
続いた言葉には、口付けと笑顔を返す。
「いつもありがとう、裕人さん」
照れたのか、彼は顔を背けた。ほんのりと顔が赤い気がする。
「その笑顔はダメだと思うよ、まこちゃん……」
「なんのことでしょう」
わざととぼけて、知らないふりをする。
「なんのことでしょう、じゃないよ」
それも意味無く、彼は顎を掴んで顔を自分に向けて、僕の唇を奪っていった。

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