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月夜に提灯、一花咲かせ

樫吾春樹

玖輪目 雪桜

慌ただしく時間が過ぎ、気づけばもう年の暮れ。仕事は更に忙しさを増し、休みなど滅多に無いという状況になっていた。立て続けにマンションの新築工事が入り「年が開ける前にガラスを入れて欲しい」と言われたそうだ。
「まこちゃん、起きてるー?」
「んー……」
疲れてるせいもあり移動中に寝ることも増えてきて、起きるのにも時間がかかるようになってしまっていた。
「大丈夫?」
「だいじょうぶれふ……」
「まだ、寝ぼけてるね…… ほら、起きろー そろそろ現場だぞー」
「ふあーい……」
肩を揺すられ、やっと僕は目を覚ました。いつもより寝ぼけてた時間が長いと感じ、自分でも疲れていることがわかった。
「……おはようございます」
「おはよ、やっと起きたね」
「すいません……」
「疲れてるのはわかるけど、シャキッとね」
「はい……」
「さてと、着いたから準備するよ」
「はい」
先輩にそう言われながら、車から降りて荷物を下ろして手に持つ。立ち馬に脚立、自分達の道具を車から出していく。今日は二、三枚しかないので、仕事という量ではない。だが、誰かがやらなければ終了しない。
「今日はビートだから、ローラーと鋏ね」
「はい、わかりました」
現場に向かって歩いてる途中で、先輩とそんな会話をする。ごく普通のいつもの会話。だけど、今日は少しだけ胸騒ぎがする。こういう時は、嫌なことに勘が当たることが多い。何事もなければと思うが。だが、ジンクスからはそう簡単には逃げられなかった。


パリーン!


耳を裂く音がして、それがガラスが割れたことを知らせるものだと気づいた。それは搬入中の出来事で、重さが軽くなったのに気付いて僕が慌てて後ろを振り向くと、階段で先輩の倒れた姿が目に飛び込んできた。
「大丈夫ですか!?」
「……大丈夫、怪我はしてないよ。割れたけども……」
「怪我してないならよかったです…… ガラスはまた作ればいいっていつも言ってるじゃないですか……」
内心パニックになり思考が停止してたが、裕人先輩の無事な姿を見て安心した。そのまま、怪我でもして病院に行かなければならないということになったら、僕はどうしようかと思った。流石に他の女子よりも力があると言われるが、男性を運ぶのは僕とて無理がある。そんなことに、ならなくてよかったと思う。
確かにガラスは商品であり、割ってはいけないもの。だが、運んだり施工するのは人間であり機械ではない。だから、どうしてもこういったことは起こる。先輩はいつも、こう言っている。「何があっても、自分の身を優先しろ」と。
「まこちゃん。車から箒とちりとりを持ってきて、ここを掃除しといて。俺は工場に頼んで、至急作ってもらうから」
「わかりました、持ってきます」
車の鍵を借り、箒とちりとりを取りに戻る。
「やっぱり、当たっちゃったか……」
ポツリとそう呟いて、言われたものを片手に先輩の元へと戻った。

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