おままごとの演じ方
第二話 Seeing is believing
「死んだ人が電柱になるのはどうしてだろうか? 気になったことはないか」
ある日の昼食で、梨沙はそう言った。 
私はそんなこと考えたこともなかったので、何も言えなかった。 
「死んだ人が電柱になるのは……それはあくまで社会の摂理じゃない?」
「私は死んだ人間を目の前で見たことがないから知らないんだ。だから、どうして人間が死ぬと電柱になると明言出来るのかがイマイチピンとこない」
そう言われてみればそうだった。 
梨沙の言うとおり、私も人が死んでいく姿を目の前で見たことがない。 
見たことがないから、なんだというのだ――という話になるけれど、ともかく私は目の前で死んだ人間を見たことがない。
だからこそ、考えたことがないのかもしれない。 
――死んだ人間が、電柱になる。
その事実に。 
「……だから、私はそれを証明したい。けど、目の前に死ぬような人間なんて彷徨いていないのよね」
「じゃあ、どうするの?」
「思ったの。それじゃ、いっそ私が死んでみよう……って」
「は?」
それは予想外の言葉だった。
「でもあなたが死んだら証明なんて出来ないんじゃなくて?」 
「証明はあなたにして欲しいの。まあ、別にそれができてもできなくても世界の理なんか変わるわけがないのだけれど……ね」
「……やだよ」
唐突にそんなことを言われて、「はい」と言えるわけがない。
私のその言葉を聞いて、梨沙は目を細めて、頷く。 
「解っているよ、それくらい。そんな唐突に言われたって、決められっこないよね。解ってる」
梨沙は私を抱きしめた。ぎゅっと、その力が強まる。
「でもね、わたしは確かめたいの。きっと昔の人たちもそうしてきたことだろうけれど……私は実際にしないと納得できない。なんせそういう性格だから」
「でもそれじゃあなたが解決したってことには」
「だったら化けてでも出て、真実を知るよ」
「化けてでも、って……面白い話をするわね、あなた」
「なによ。冗談のつもりで言ったわけではないのに」
冗談じゃない――梨沙はそう言ったけれど、私はそれが冗談には感じ取れなかった。
まさか彼女は本当に――
「ねえ、あなた本当に消えないでしょうね?」
それを聞いて、梨沙は微笑んだ。
「さあ、どうでしょうね?」 
私はそれ以上、そのことに言及することは、どうしてか出来なかった。
そして、次の日。
その意味を嫌でも理解することになる。
その日もいつものように梨沙と食事をすることが出来て、なぜか私は安堵していた。どうしてかは解らない。彼女と昼食を一緒に取り始めたのはつい最近のことで、そこまで仲がいいというわけでもないのに。
「今日もいい天気ね」
梨沙がそういうのを、私は横目で見るだけだった。それと同時に何も変わっていない梨沙にほっと一息溜息を吐くだけであった。
「……ねえ、アヤ」
「うん?」
珍しく梨沙が私の名前を呼んだ。
「私がもし、本当に死んでしまったとしたら……どうする?」
「どうする、ってそんなこと証拠もないでしょ。先ずは探してみないと」
「みつからなかったら?」
「それは死んでないと同義だよ。というか、目の前にいるじゃない」 
「これが今、幽霊であるとすれば?」
「……解らないね。幽霊であってもそうでなくても、私はあなたの痕跡を探すと思う」
「どうして?」
梨沙が私に訊ねる。私は微笑んで、話を続ける。
「だってあなたは私に約束したじゃない。『死んだ人間が電柱になる』、その証明がしたい……って」
それを聞いて、梨沙は頷く。
「覚えていたんだね」
「覚えるもなにも、それはつい最近……いや、昨日の話しだよ。昨日のことを忘れるなんて相当幼稚な頭脳を持っているに違いないね」 
私の言葉を聞いて、梨沙はさらに頷く。
「やっぱり君に話してよかった。ほかの人だったら気違い扱いされていただろうからね」
「でも、私は少しはそう思っているよ? パーセンテージにして……二十パーセントくらい」
「傑作だ。それくらいの気持ちでいなくてはね」 
そう言って梨沙は歩き出した。
「どこへ?」
「決まっているだろ。私が死んだ場所だ」
――やっぱり、ホントに死んだのか。
私はそう思って、唾を飲み込んだ。ほんとはいろいろと聞きたいこともあったけれど、今ここでいう事でもないだろう。
そして、私は。
彼女の言葉に是と答えるように、彼女の後を追った。 
大学のことは、あとで考えることにしよう。
ある日の昼食で、梨沙はそう言った。 
私はそんなこと考えたこともなかったので、何も言えなかった。 
「死んだ人が電柱になるのは……それはあくまで社会の摂理じゃない?」
「私は死んだ人間を目の前で見たことがないから知らないんだ。だから、どうして人間が死ぬと電柱になると明言出来るのかがイマイチピンとこない」
そう言われてみればそうだった。 
梨沙の言うとおり、私も人が死んでいく姿を目の前で見たことがない。 
見たことがないから、なんだというのだ――という話になるけれど、ともかく私は目の前で死んだ人間を見たことがない。
だからこそ、考えたことがないのかもしれない。 
――死んだ人間が、電柱になる。
その事実に。 
「……だから、私はそれを証明したい。けど、目の前に死ぬような人間なんて彷徨いていないのよね」
「じゃあ、どうするの?」
「思ったの。それじゃ、いっそ私が死んでみよう……って」
「は?」
それは予想外の言葉だった。
「でもあなたが死んだら証明なんて出来ないんじゃなくて?」 
「証明はあなたにして欲しいの。まあ、別にそれができてもできなくても世界の理なんか変わるわけがないのだけれど……ね」
「……やだよ」
唐突にそんなことを言われて、「はい」と言えるわけがない。
私のその言葉を聞いて、梨沙は目を細めて、頷く。 
「解っているよ、それくらい。そんな唐突に言われたって、決められっこないよね。解ってる」
梨沙は私を抱きしめた。ぎゅっと、その力が強まる。
「でもね、わたしは確かめたいの。きっと昔の人たちもそうしてきたことだろうけれど……私は実際にしないと納得できない。なんせそういう性格だから」
「でもそれじゃあなたが解決したってことには」
「だったら化けてでも出て、真実を知るよ」
「化けてでも、って……面白い話をするわね、あなた」
「なによ。冗談のつもりで言ったわけではないのに」
冗談じゃない――梨沙はそう言ったけれど、私はそれが冗談には感じ取れなかった。
まさか彼女は本当に――
「ねえ、あなた本当に消えないでしょうね?」
それを聞いて、梨沙は微笑んだ。
「さあ、どうでしょうね?」 
私はそれ以上、そのことに言及することは、どうしてか出来なかった。
そして、次の日。
その意味を嫌でも理解することになる。
その日もいつものように梨沙と食事をすることが出来て、なぜか私は安堵していた。どうしてかは解らない。彼女と昼食を一緒に取り始めたのはつい最近のことで、そこまで仲がいいというわけでもないのに。
「今日もいい天気ね」
梨沙がそういうのを、私は横目で見るだけだった。それと同時に何も変わっていない梨沙にほっと一息溜息を吐くだけであった。
「……ねえ、アヤ」
「うん?」
珍しく梨沙が私の名前を呼んだ。
「私がもし、本当に死んでしまったとしたら……どうする?」
「どうする、ってそんなこと証拠もないでしょ。先ずは探してみないと」
「みつからなかったら?」
「それは死んでないと同義だよ。というか、目の前にいるじゃない」 
「これが今、幽霊であるとすれば?」
「……解らないね。幽霊であってもそうでなくても、私はあなたの痕跡を探すと思う」
「どうして?」
梨沙が私に訊ねる。私は微笑んで、話を続ける。
「だってあなたは私に約束したじゃない。『死んだ人間が電柱になる』、その証明がしたい……って」
それを聞いて、梨沙は頷く。
「覚えていたんだね」
「覚えるもなにも、それはつい最近……いや、昨日の話しだよ。昨日のことを忘れるなんて相当幼稚な頭脳を持っているに違いないね」 
私の言葉を聞いて、梨沙はさらに頷く。
「やっぱり君に話してよかった。ほかの人だったら気違い扱いされていただろうからね」
「でも、私は少しはそう思っているよ? パーセンテージにして……二十パーセントくらい」
「傑作だ。それくらいの気持ちでいなくてはね」 
そう言って梨沙は歩き出した。
「どこへ?」
「決まっているだろ。私が死んだ場所だ」
――やっぱり、ホントに死んだのか。
私はそう思って、唾を飲み込んだ。ほんとはいろいろと聞きたいこともあったけれど、今ここでいう事でもないだろう。
そして、私は。
彼女の言葉に是と答えるように、彼女の後を追った。 
大学のことは、あとで考えることにしよう。
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