男装の王太子と側近の国ー北の国リールの物語ー

ノベルバユーザー173744

異国からのお客人……たち?

 晴れ渡ってはいるが、冷たい風の吹く空の高いところを飛んでいるのは、

『あー寒いね~。私には良い季節だけどね~』

 巨大な生き物である。
 大きな翼に大きな身体、背中に人間は10人乗れる上に、生き物は魔法で浮かせている。
 ちなみに、乗っているのは4人、生き物は大小合わせて10頭程か?

「ねぇねぇ、ヴァーロ。もうすぐ着くんでしょ?」

 淡い色のマントのフードを深く被った、少年らしい声が響く。
 少し甘いハスキーな声をしている。

「どんなところかなぁ?俺、他の国に行ったことが無かったから嬉しいなぁ」
『アイドは、本当に無茶するんだから……それにセディまでくっついてきて……知らないよ?』
「大丈夫、大丈夫。僕たちがいなくても、身代わり残してきたから」

 楽しげに笑うのは、こちらは濃い色のマントの少年である。

「あぁ~‼ヴァーロさま‼何でそんなに甘いんですか?あぁぁ、俺が、兄貴と副リーダーに殺される‼」
「パパぁ‼」

 顔色の悪い父の膝に乗っていた、クリクリおめめの6才位の少年は、

「ねぇねぇ‼パパぁ。この子、本当に僕の?」

 大きなぬいぐるみを、嬉しそうにだっこしている。
 その愛くるしい姿に、父、ミューゼリックはデレっとなる。
 彼は、最愛の妻に瓜二つの長男デュアンリールを、目に入れても痛くない程溺愛している。
 ちなみに、顔立ちと淡いグリーンの瞳は母親に似ていて、フワフワとした落ち着きのないプラチナブロンドは父親に似ている。
 性格は余りしゃべることもなく、おっとりしているが、生き物が大好きで、今日も巨大な生き物……暝海うみを隔てたシェールドのみに生息するドラゴンに乗せて貰い、その上、

「そう。シェールドの王太子殿下から直々に譲られた子だから、仲良くするんだぞ?」
「うん‼じゃぁね、じゃぁね……アレクサンダー‼」
「それ却下‼」

ミューゼリックは即ダメだしをする。

「何で?」
「シェールドの現在の国王がアレクサンダー2世陛下。不敬に当たるから」
「フケイ……?」

 首を傾げるデュアンリールの腕の中のぬいぐるみ……いや、小犬も首を傾げる。

「えーと、一応あれでも国王だから、失礼に当たる場合もあるんだよ。それに、生理的にあいつ嫌い……」
「うーん……お兄ちゃん~‼一緒にお名前考えて?」

 近づいてきた二人の少年。
 濃い色のマントの少年は、

「デュアン。ゴメーン‼セディお兄ちゃんは苦手なんだ~‼アイドに聞いて」
「あ、お前。いつもいつも……あ、うーんと、あ、朝早かったから月が見える」

アイドは遠くの山々の周囲にまとわる朝もやの中、白く西の空に沈んでいく月を示す。

「あ、そうだ。眉のような月を『三日月』ってグランディアでは言うんだよ。それにね?真ん丸な月を『望月』『満月』って言うんだよ。で、満月の翌日の月を『十六夜いざよい』」
「『いじゃよい』……『いじゃよい』、いい、『十六夜』‼言えた‼『ミカジュキ』……『三日月』‼」
「わぁぁ、上手。グランディアの言葉言えたね。『十六夜』は、十六番目の夜の月って言う意味なんだ。で、『三日月』は三日目の月。でも、『十六夜』は言いにくいし、『三日月』はどう?」

 アイドは優しく告げる。

「『三日月』だったら、縮めてミカって呼べるでしょ?この子はデュアンリール大好きだから、沢山名前を呼んであげたらもっと喜ぶよ。ミカって呼んであげて?」
「ミカ……ミ、カ?」

 声をかけるが首を傾げる。
 デュアンリールはちょっと考え、目を合わせる。

「あのね?僕はデュアンリールだよ。デュアン」

 自分の方に指を指して、自己紹介をする。

「僕はデュアン。でね?君は『三日月』。『ミ、カ、ヅ、キ』。でも、僕のデュアンみたいに『三日月』のことをミカって呼ぶね?ミカだよ?ミ、カ」
『……ミカ……ミ、カ?お名前?』

 コロコロと鈴が鳴るように響く『声』。

『ミカ。ボク、ミカ。デュアン、大好き‼』
「わぁぁ、ミカとお話しできた‼パパぁ‼ミカ、だいしゅきって‼」
「良かったな。デュアン」

 よしよしと頭を撫でる。

 と、

『おーい、4人共。ここで一旦降りるよ。じゃないとここら辺は、私のように大きい生物いないでしょ?未確認飛行物体とか、私嫌だし』
「ヴァーロが、未確認飛行物体‼」

 あはは‼
面白がるのはセディである。

『面白がるのはやめて欲しいんだけど。ほら、今から私は姿を変えるから、皆は自分達の乗獣に乗って。で、ランス』

 一頭の生物が見る。
 毛色はアイドが乗る乗獣と同じ漆黒。瞳は淡いブルーである。

『ランス。私がお前に乗ったふりをするから、レイ・ロ・ウと速度を合わせて飛んで?良いね?』

 ウンウン頷く。

『よし、ミューゼリック?デュアンリールを乗せたね?』
「はい、大丈夫ですが、6頭は?」
「あ、大丈夫だよ、ミューゼリック兄さん。アイドが言ったら従うから」

 セディの一言に、すでに集めていたアイドは、

「じゃぁ、ヴァーロ。大丈夫だよ。術といて」
『いやいや、アイド。私はブルードラゴンだよ?術はかけるの』

軽口を叩いたアシエルで唯一の純血のブルードラゴン、ヴァーソロミューは大きく一度羽ばたき、そしてその大きな体積が折り畳まれるように小さくなっていき、ミューゼリックより背の高い青年の姿に変化する。
 ランスの上に『乗り』、他の生き物たちが風に乗るのを確認すると、

「さぁ、行こうか。もうすぐだから、寒くても我慢して」
「うひゃぁぁ‼寒っ‼ヴァーロの風の術はすごいなぁ」
「それはセディの勉強不足だよ。もっと集中すれば良いんだよ。逆にエディは集中しすぎて暴発だからね」

と、話ながら次第に近づきつつある城に町に思いを馳せたのだった。

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