男装の王太子と側近の国ー北の国リールの物語ー

ノベルバユーザー173744

殿下と側近の正装は?

 エレメンティアに着いていったカイルは、無駄にギラギラとした暑苦しい軍団……いや、鼻息の荒い女官達がメジャーを手にスタンバイしているのを見て、引いた。
 普通に接していたら、大丈夫かもしれないが、獲物を見つけてゲットオン‼ ではあるまいし、仕事の合間に来ていると言うのに、何故か……。
 ついでに、今日は『嫁だった女に浮気』された男とレッテルが張られているのに……。
 どこぞの女傑かアマゾネスか?

 後ずさりかけたカイルに、振り返ったエレメンティアは、

「どうした? カイル。まずは明日の衣装を選ぶんだ。作っている暇はない。彼女たちに選んで貰っている。オレは小さいから、ある程度合うのを選んで補正するが、お前はここになければ早急に仕立てて貰う。明日はお前だけでいいが、明後日からはワーズとナイアを交渉に参加させるから、二人もここに送り込むつもりだ。が、二人はこの国の平均身長だが、お前は無駄に高いな……」
「すみませんね。190越えてまして。ですが、ミューゼリック卿も私位ですよ。あの方はシェールドで名誉騎士ではなく、本当に留学して騎士になられてますから。お子さんのデュアンリール卿もまだお小さいですが、騎士になると」
「よく知ってるな」

 言いながら、ボロボロのドレスを思いきりよく脱ぎ捨てた。
 ぎょっとして後ろを向こうとするが、

「エレメンティアさま‼ お可哀想に‼ お辛いでしょうに……」
「我慢なさいましたね、姫様……」

 一様に涙ぐむアマゾネス……ではなく女官達。

「ありがとう。皆。皆が助けてくれたお陰で、離婚決定‼ その上王太子決定だ。皆の為にも頑張るから、これからも支えてほしい。それに、悪いところや直した方がいい部分は、指摘して欲しい。オレと外では自分を呼ぶが、私はこの国の次の王として、皆が恥じる王にならないようにする‼ 約束だ。だからよろしく頼む」
「エレメンティアさま‼ 」
「さすがは私たちの王太子さまですわ‼ 」
「貴方様は私たちの誇り‼ 」
「そう言っていただけて、私たちは嬉しゅうございます……」

 きゃぁぁ‼

と悲鳴や、泣き出す女官の姿に、感心する。

 自分の主は、先程の義兄弟たちもそうだったが、カリスマ性のある女性なのだ。
 自分は女性であることを否定しているが、町の人々には慈悲ある王女であり、部下には的確な指示が与えられる指揮官、周囲には優しく気を使える主……。
 女王でも……充分やっていけるではないかと思う。
 しかし、この国は女王は認められていない。
 だから、エレメンティアは王女をやめ、王子として王太子の道を選んだ。

「……勿体無い」
「何がですか~? 寝取られ男」

 真横からのにこにこ刺々しい声に、一気に疲れる。

「ミィ。悪いけれど、いちいち突っかからないでくれないか? 今言ったのは、エレメンティアさまが、これだけ素晴らしい知識と才能とカリスマ性の持ち主だと言うのに、何故周囲はその努力を認めないのかと言うことだ」
「あらぁ? 貴方でも解りますの~? 私たちのエレメンティアさまのこと」
「……一応、これでもシェールドにいたことがある。元々の私の実家は、取り潰されているからな。先王陛下の逆鱗に触れて」
「あらぁ~? 」

 目を見開く。
 唖然とする顔に、苦笑する。

「両親と長兄は自害。次兄は逃亡。残された私は父の知人のクリストフ卿に引き取られ、しばらくほとぼりが覚めるまでとルーズリアとシェールドに。今の陛下になって父と長兄の汚名は晴らされ、戻ってきた次兄が返して貰った爵位と土地を。で、私は縁遠くなりました。一回奪われた爵位を取り戻した兄はそれを守ろうと……それが正しいことなのか解っている筈なのに、大臣方に躍起になって取り入り、自分は結婚しているからと、私を人身御供に差し出しました。愛情など……解りませんね。ただ、仕方なしに兄の命令と、位の高いことを自慢するだけで何の厚みもない、虚栄心の固まりと結婚する羽目に……3年間我慢して、損をしました」
「その分を取り返す為に、オレはお前を側近に選んだ‼ 今まで隠してきた才能を用いてオレの片腕として生きろ‼ 約束だ‼ お前にも言っておく」

 エレメンティアは小柄だが、ふんぞり返るように見上げると、告げる。

「オレはいつだって忙しい‼ だが、オレは仲間だと思ったら、そいつの為にできる限りのことをする。まぁ、女性問題とかそういうものには関わらん‼ 自分で解決しろだが、お前はオレの側近であり仲間だ。安心しろ。お前が昔のことを忘れる位仕事が溜まってるんだ。数日不眠不休で働いてくれてもいいぞ? その為にお前の部屋を用意してやったんだ。いい主だろう? 」

 にやっと笑う小憎らしい17才のエレメンティアに、首をすくめ、

「殿下のいたわりのお言葉、本当に心から私を過労死させるおつもりですか? これでも21なんですよ? 」
「ほぉ?老けてるな」
「殿下は年齢に見えない童顔ですね」

 二人はムッとにらみ合う。

「何がだ‼ 童顔で悪いか‼ これでも、努力したんだぞ‼ 」
「こちらも申し訳ないのですが、ナイアが20で、次が私、ワーズは23、タイムが24、スートは25です。覚えましたか? 殿下? 」
「おっさんの年を覚えて何が嬉しい‼ 」
「一応、タイムとワーズはおっさんと言われるとショックを受けるのでやめてやって下さい。スートにどうぞ。ナイアはおっさんとは違う部類です……」

 ちなみに、ナイアは性別不詳に見える童顔華奢。その兄のタイムもそこそこの無表情美男。
 ワーズは年齢に見あった穏やかな優しい顔立ちで、スートはやんちゃ坊主が成人しましたの顔である。

「それに、さっきから気になっていたのですが……殿下。痛々しくて見ていられません。お願いですから、髪を揃えませんか? 」
「は? 髪? 」
「その姿で明日出るんですか? と言うよりも、本当に咄嗟にナイフでザクザクと切り刻んだんですね……これから揃えましょう。お願いですから」

 カイルは訴える。

「このままにしておくと、本当にミィや皆が心配します。髪を整えて合う衣装を選んで下さい。殿下はこの地域に珍しい銀の髪ですから、パステル調の上下にマントはこの国の白。マントの飾りにピアスにボタンピンは金。石はサファイア。ピアスの飾りは女性ものでも構いません。これが最近の流行です」
「……流行って、お前、男を装う趣味……」
「違いますよ。シェールドで学校に入っていて、その時々のファッションチェックの授業があるんです。先輩騎士の姉上が世界的に有名なデザイナーで、髪型や行事似合った服装をと、びしびししごかれるんです。時には潜入の為の女装の授業もありますよ」
「じょ、女装‼ 」
「えぇ。マルムスティーン家の方が潜入やパーティなどで情報収集するので、よく女装していました。これがよくお似合いで……私は、最初潜入に配属されたのですが一気に身長が伸びて、外されました。化粧もしましょうか? あ、髪を整えましょうか? 」

 手早くハサミと櫛を借り、エレメンティアの髪を整える。
 少し長めに切っていたのが効を奏したのか、肩位の長さで切り揃えられる。
 しかし、天然パーマの為にクルンクルンと踊っている。

「まぁ、明日オイルで軽く髪をくしゃくしゃっとしておくのもいいと思いますよ。それに、眉だけは整えて下さい。エレメンティアさまは目が大きいので、幼く見えます。こうやって眉を書いてぼやかすんです。そのままだとそちらに目が行くでしょう? で、目尻にアイラインではなくアイブローをこう入れておくとキリッと見えますよ」
「……オレをおもちゃにすんな」

 不満げにエレメンティアは文句をいうが、女官達はカイルの意外な才能に、興味津々で見いっている。

「逆に大人びた印象の瞳は、まぶたの上にパステルピンク系のチークを使って見せるといいんです。それに眉は細すぎるときついので少し太めに、ちょっと端を目尻に近く下げると良いです。ハッキリとさせると余計に強調させるので、ぼやかしてほんわりと見せると女性らしいですよ」
「お前は先生か‼ 」
「いえ、殿下の為にそして殿下のお側にいる女官の皆さんの為に、似合う衣装や化粧の提案です」

 ニッコリと笑う。

「シェールドでは、本当に、美形をこれでもかと見てきましたので、それに負けない程の皆さんにもっと綺麗にと」
「美形? どんな方だ? 」
「マルムスティーン侯爵シルベスター卿に、その奥方のエリオニーレさま。お子さんのルエンディードさまに、あぁ、王太子殿下のアルドリー殿下は美貌中の美貌です。落ちてました」
「アルドリー殿下……」
「あ、カズール伯爵家の姫、アエラ姫は無邪気で可愛らしい方でした。殿下に似てましたね」

 その言葉に寒気を起こす。

「うわっ、うわっ‼ 寒い‼ オレは王太子だ‼ 可愛い姫と一緒にするな‼」
「あれ? そうなんですか? 残念ですね……」
「キッモー‼ 」

 腕をさするエレメンティアに、カイルは、

「せっかく誉めたのに、失礼ですよ。じゃぁ、皆さん、殿下に似合う衣装をよろしくお願いいたします」
「ちょっと逃げんな‼ 皆‼ こいつに明日の正装一式を頼む‼ 」
「解りました‼ 」

 女官……カイルからするとアマゾネス……たちは、追い詰め、あれこれと衣装を見繕い、

「殿下が柔らかいパステル調ですから、カイル殿には濃い目のお衣装にさせていただきましたわ」

と満足そうに言ってのけられた時には、疲れて言葉もなかったカイルだった。

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