男装の王太子と側近の国ー北の国リールの物語ー
王太子殿下の衣装とカイルの部屋
国王に連絡のあと、カイルは回り道をして、幼馴染と学校で競った友人数人に声をかけに行くことにした。
でなければ、あの王太子の部屋は片付かず、明日に間に合わない。
それに、王太子のエレメンティアは仕事に忙殺しているのに、逆に下級官吏だからと仕事を与えず雇い続けて何の意味があるのだ。
この国は身分制にこだわりすぎている。
しばらく歩き、ボロボロの掘っ立て小屋のような建物にはいると、そこにはバーカウンターのない、テーブルと椅子が並ぶ場所になっていて、コインを賭けてカードをしている。
「おい、スート、タイム。悪いが手を貸してくれないか」
集まってこそこそ話していた同僚を殴り付けていたスートは、続いて絞め技に転じ、にやっと笑う。
「よぉ‼ 寝とられ男‼ 」
「……解った。スートは除外。タイム、来てくれ」
「ちょおまった‼ 待ってくれ‼ 待ってください‼ カイルさま‼ 」
「うるさいわ‼ タイム。緊急の重要な仕事を伝える。王太子殿下より直々のご命令だ」
その言葉にざわつく。
「おーい、カイルさま? 王太子殿下ってお前の嫁……」
「タイム。王太子殿下の警護と、明日来るお客人の……」
「オラァ‼ 王太子って、お前の嫁を寝とったサラかよ? それくらい教えやがれ‼ 」
「お前に教えてない。タイム……」
無視をし、タイムと言う青年に話しかけるカイルに、
「ちょお待ってや‼ 聞かせてや‼ 王太子殿下って誰やねん‼ 」
スートの声に、カイルは、
「国王陛下は、サラを廃嫡にして、エレメンティア殿下を王太子にと宣言された。明日、ルーズリア王国の国王陛下リスティルさまの代理としてラルディーン公爵閣下とご令息が来られる。その接待と警護、そして溜まりにたまった書類の処断のできる人間を探している。俺は急ぐんだ。お前とタイムでよろしく頼んだ。お前達が王太子殿下の警備に当たるんだ‼ 阿呆な真似はするなよ⁉ 」
「え、エェェェ? この、クズレ部隊がか? 」
「暇ならやれ‼ 即、王宮に向かい、俺の名で呼び出されたことを殿下の筆頭女官のミィに伝えろ。行け‼ ここでカードゲームで腐ってるなら、やれ‼ 俺は、ワーズとナイアを引きずり出す‼ 早くしろ‼ 時間がない‼ 」
「わ、解った。おい、てめぇら‼ 行くぞ‼ なんか面白そうだ‼ 行って、俺たちの主に足るか、王太子殿下のご尊顔を見せていただこうぜ‼ 」
スートの声に周囲は腕をあげて答える。
「おい、一応王太子殿下の警備に当たるんだ。最低限のマナーは持て‼ あ、タイム。悪いが、ナイアを引きずり出すために来てくれないか? 」
「……あぁ」
スートとは逆に口数が少なく無表情のタイムは、頷く。
わいわいと王宮の方向に向かっていくスート達一団をちらっと見て、
「ミィに殺されるかもな……それよりも、ワーズとナイアは? 」
「……ナイアが……」
ため息をつく。
ちなみに、タイムとナイアは兄弟で、タイムは無口で、ナイアは変人である。
ワーズはナイアに真っ当な仕事をさせようとしているが駄目らしい。
「どんな方だ? 」
「ん? あぁ、殿下か? スート並みに口が悪く、お前のように意思貫徹で、ナイアのように変わり者でワーズのように苦労性だ」
「……お前ににている」
「俺が? そんなわけはない。あの殿下の気の強さは本当に折り紙つきだ。見ていてスカッとするな」
再びしばらく歩き、二人を回収して戻ると、
「なんですの~‼ その格好‼ 身だしなみは‼ 配給されませんでしたの~‼ 」
とミィの珍しく怒鳴り声が聞こえてくる。
「最悪ですわ‼ あの逃亡男、こんなのを身代わりにとんずらですわ~‼ エレメンティアさまぁぁ‼ 」
「何だ? あぁ、お前達か。で、どうした? なんかネタでも持ってきたか? 」
「う、うぇぇぇぇ‼ お前が、王太子殿下? 」
「何が、お前ですの~‼ 私のエレメンティアさまをぉぉぉ~‼ 」
ミィがギャンギャン騒いでいるのを聞きつつ近づいていったカイルは、
「帰りが遅くなりまして、申し訳ございません。殿下」
「あぁ、ようやく来たか。これから衣装の準備にはいるんだ。カイル。オレはどんな格好でも着こなして見せるが、お前がどんな格好で明日を迎えるか楽しみだな」
はははっ!
楽しげに笑う。
「それに、クズレとは呼ばれてるが、町の中の巡回や一番国民に近い部隊の隊長と副隊長。で、こっちは内政の将来のトップのワーズとナイアじゃないか。ご苦労。申し訳ないが、ナイア。この部屋の入って右の棚に並べている書類が、上のバカが放置している緊急性の高い耕作放棄地についてや、この寒い国でも育ちやすいと言われている苗などの書物。見て考えてくれないか。よろしく頼む」
「寒冷地で育てやすい苗? 」
キラーンっと目を輝かせるナイア。
「あるのですか? 」
「あぁ、カタログと言うか、図鑑に近いが、地図と共にどこに植えていくか考えてくれないか」
「苗~‼ 」
「すみません‼ あいつはいつもあぁで……」
ぺこぺこ頭を下げる。
「構わない。ワーズも手数だが、左の棚に、商業の活性化に関する書類がある。明日からしばらくその書類が必要なんだ。悪いが、オレに手を貸してくれ‼ 頼む‼ 」
「解っております。殿下のお言葉とあれば……」
温厚に微笑みを浮かべ……しかし黒さはない……ワーズも室内に消えていく。
「ミィ。着替えとか準備を頼む。それにクズレと言うのも情けないな……オレの側近になったんだ……うーん。『紅竜騎士団』と呼ぼう。炎の精霊の別名だ。それにこちらにはいないがシェールドには深紅の竜族がいると言う。他の竜に比べ体は小さいが、素早く戦闘能力は優れていると言う。私の騎士団だ‼ 他に劣ることはない‼ 明日はしっかりと揃いの衣装で決めたいものだな‼ 」
「ですが、俺たちは揃いの衣装は……」
珍しくスートが口ごもる。
エレメンティアはスートに、
「他の騎士団……そう、サラにすり寄っていた騎士団を潰せ。そして、追い出したらそこがお前達の訓練所であり待機場所となる。即成せ。そこならば着ていない制服や武器、鎧も揃っている。お前達の腕を見込んでいる。……身分で人を見るのではない、力とお前達の影ながらの熱意をオレは認めている。やってこい‼ お前達はオレの騎士団だ‼ 」
その言葉に、スートは目を見開き、そして右手を左胸に当てて頭を下げた。
「我らが王太子殿下の命に、従います。では、タイム、殿下を頼んだ。俺……私たちが行ってくる‼ 」
「解った。頼んだ。殿下の顔に泥を塗るような卑怯なことはするな」
「あぁ‼ では殿下‼ 」
騎士団の面々は一列に揃い、団長と同じように頭を下げる。
「殿下の命令を忠実に従います。行って参ります」
「あぁ、行ってこい‼ お前達はオレの自慢の騎士達だ‼ 」
見送り、送り出すと、
「さーて、お着替えの時間だ。カイル、無様な格好はするなよ」
「殿下もご注意ください。衣装に負けて明日が駄目になりませんように」
「言ったな‼ 覚えてろ‼ 」
「ノータリン男~‼ エレメンティアさまに何てことを~‼ 」
ミィに、慌ててタイムが声をかける。
「すまない、ミィどのだったか……私は副団長のタイムと申します。殿下のお住まいの近辺に我々が待機できる場所はありませんか? 大切な用事のあとで構いませんので、出来れば……」
「あらぁ~‼ ご丁寧にありがとうございます~副団長どの。ではあとで、ご案内いたしますわ~」
「ミィ。行くぞ。カイルも来ないのか? 」
先を歩く王太子を追いかける二人の背中を見て、ため息をつくタイムであった。
でなければ、あの王太子の部屋は片付かず、明日に間に合わない。
それに、王太子のエレメンティアは仕事に忙殺しているのに、逆に下級官吏だからと仕事を与えず雇い続けて何の意味があるのだ。
この国は身分制にこだわりすぎている。
しばらく歩き、ボロボロの掘っ立て小屋のような建物にはいると、そこにはバーカウンターのない、テーブルと椅子が並ぶ場所になっていて、コインを賭けてカードをしている。
「おい、スート、タイム。悪いが手を貸してくれないか」
集まってこそこそ話していた同僚を殴り付けていたスートは、続いて絞め技に転じ、にやっと笑う。
「よぉ‼ 寝とられ男‼ 」
「……解った。スートは除外。タイム、来てくれ」
「ちょおまった‼ 待ってくれ‼ 待ってください‼ カイルさま‼ 」
「うるさいわ‼ タイム。緊急の重要な仕事を伝える。王太子殿下より直々のご命令だ」
その言葉にざわつく。
「おーい、カイルさま? 王太子殿下ってお前の嫁……」
「タイム。王太子殿下の警護と、明日来るお客人の……」
「オラァ‼ 王太子って、お前の嫁を寝とったサラかよ? それくらい教えやがれ‼ 」
「お前に教えてない。タイム……」
無視をし、タイムと言う青年に話しかけるカイルに、
「ちょお待ってや‼ 聞かせてや‼ 王太子殿下って誰やねん‼ 」
スートの声に、カイルは、
「国王陛下は、サラを廃嫡にして、エレメンティア殿下を王太子にと宣言された。明日、ルーズリア王国の国王陛下リスティルさまの代理としてラルディーン公爵閣下とご令息が来られる。その接待と警護、そして溜まりにたまった書類の処断のできる人間を探している。俺は急ぐんだ。お前とタイムでよろしく頼んだ。お前達が王太子殿下の警備に当たるんだ‼ 阿呆な真似はするなよ⁉ 」
「え、エェェェ? この、クズレ部隊がか? 」
「暇ならやれ‼ 即、王宮に向かい、俺の名で呼び出されたことを殿下の筆頭女官のミィに伝えろ。行け‼ ここでカードゲームで腐ってるなら、やれ‼ 俺は、ワーズとナイアを引きずり出す‼ 早くしろ‼ 時間がない‼ 」
「わ、解った。おい、てめぇら‼ 行くぞ‼ なんか面白そうだ‼ 行って、俺たちの主に足るか、王太子殿下のご尊顔を見せていただこうぜ‼ 」
スートの声に周囲は腕をあげて答える。
「おい、一応王太子殿下の警備に当たるんだ。最低限のマナーは持て‼ あ、タイム。悪いが、ナイアを引きずり出すために来てくれないか? 」
「……あぁ」
スートとは逆に口数が少なく無表情のタイムは、頷く。
わいわいと王宮の方向に向かっていくスート達一団をちらっと見て、
「ミィに殺されるかもな……それよりも、ワーズとナイアは? 」
「……ナイアが……」
ため息をつく。
ちなみに、タイムとナイアは兄弟で、タイムは無口で、ナイアは変人である。
ワーズはナイアに真っ当な仕事をさせようとしているが駄目らしい。
「どんな方だ? 」
「ん? あぁ、殿下か? スート並みに口が悪く、お前のように意思貫徹で、ナイアのように変わり者でワーズのように苦労性だ」
「……お前ににている」
「俺が? そんなわけはない。あの殿下の気の強さは本当に折り紙つきだ。見ていてスカッとするな」
再びしばらく歩き、二人を回収して戻ると、
「なんですの~‼ その格好‼ 身だしなみは‼ 配給されませんでしたの~‼ 」
とミィの珍しく怒鳴り声が聞こえてくる。
「最悪ですわ‼ あの逃亡男、こんなのを身代わりにとんずらですわ~‼ エレメンティアさまぁぁ‼ 」
「何だ? あぁ、お前達か。で、どうした? なんかネタでも持ってきたか? 」
「う、うぇぇぇぇ‼ お前が、王太子殿下? 」
「何が、お前ですの~‼ 私のエレメンティアさまをぉぉぉ~‼ 」
ミィがギャンギャン騒いでいるのを聞きつつ近づいていったカイルは、
「帰りが遅くなりまして、申し訳ございません。殿下」
「あぁ、ようやく来たか。これから衣装の準備にはいるんだ。カイル。オレはどんな格好でも着こなして見せるが、お前がどんな格好で明日を迎えるか楽しみだな」
はははっ!
楽しげに笑う。
「それに、クズレとは呼ばれてるが、町の中の巡回や一番国民に近い部隊の隊長と副隊長。で、こっちは内政の将来のトップのワーズとナイアじゃないか。ご苦労。申し訳ないが、ナイア。この部屋の入って右の棚に並べている書類が、上のバカが放置している緊急性の高い耕作放棄地についてや、この寒い国でも育ちやすいと言われている苗などの書物。見て考えてくれないか。よろしく頼む」
「寒冷地で育てやすい苗? 」
キラーンっと目を輝かせるナイア。
「あるのですか? 」
「あぁ、カタログと言うか、図鑑に近いが、地図と共にどこに植えていくか考えてくれないか」
「苗~‼ 」
「すみません‼ あいつはいつもあぁで……」
ぺこぺこ頭を下げる。
「構わない。ワーズも手数だが、左の棚に、商業の活性化に関する書類がある。明日からしばらくその書類が必要なんだ。悪いが、オレに手を貸してくれ‼ 頼む‼ 」
「解っております。殿下のお言葉とあれば……」
温厚に微笑みを浮かべ……しかし黒さはない……ワーズも室内に消えていく。
「ミィ。着替えとか準備を頼む。それにクズレと言うのも情けないな……オレの側近になったんだ……うーん。『紅竜騎士団』と呼ぼう。炎の精霊の別名だ。それにこちらにはいないがシェールドには深紅の竜族がいると言う。他の竜に比べ体は小さいが、素早く戦闘能力は優れていると言う。私の騎士団だ‼ 他に劣ることはない‼ 明日はしっかりと揃いの衣装で決めたいものだな‼ 」
「ですが、俺たちは揃いの衣装は……」
珍しくスートが口ごもる。
エレメンティアはスートに、
「他の騎士団……そう、サラにすり寄っていた騎士団を潰せ。そして、追い出したらそこがお前達の訓練所であり待機場所となる。即成せ。そこならば着ていない制服や武器、鎧も揃っている。お前達の腕を見込んでいる。……身分で人を見るのではない、力とお前達の影ながらの熱意をオレは認めている。やってこい‼ お前達はオレの騎士団だ‼ 」
その言葉に、スートは目を見開き、そして右手を左胸に当てて頭を下げた。
「我らが王太子殿下の命に、従います。では、タイム、殿下を頼んだ。俺……私たちが行ってくる‼ 」
「解った。頼んだ。殿下の顔に泥を塗るような卑怯なことはするな」
「あぁ‼ では殿下‼ 」
騎士団の面々は一列に揃い、団長と同じように頭を下げる。
「殿下の命令を忠実に従います。行って参ります」
「あぁ、行ってこい‼ お前達はオレの自慢の騎士達だ‼ 」
見送り、送り出すと、
「さーて、お着替えの時間だ。カイル、無様な格好はするなよ」
「殿下もご注意ください。衣装に負けて明日が駄目になりませんように」
「言ったな‼ 覚えてろ‼ 」
「ノータリン男~‼ エレメンティアさまに何てことを~‼ 」
ミィに、慌ててタイムが声をかける。
「すまない、ミィどのだったか……私は副団長のタイムと申します。殿下のお住まいの近辺に我々が待機できる場所はありませんか? 大切な用事のあとで構いませんので、出来れば……」
「あらぁ~‼ ご丁寧にありがとうございます~副団長どの。ではあとで、ご案内いたしますわ~」
「ミィ。行くぞ。カイルも来ないのか? 」
先を歩く王太子を追いかける二人の背中を見て、ため息をつくタイムであった。
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