魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~
68 出発の朝
キャロット西門。第二居住区を抜けた先にあるその門に早朝、俺たちは来ていた。
まだ夜が明けたばかりで空はやや暗い。
北の居住区とほぼ同規模の第二居住区だが、早朝ではまだ人気は少ない。中央区に向かって眠そうに歩く人がちらほら見える。
「まだ朝は寒いね」
「魔法を使おうか?」
「ううん、大丈夫」
セレーナが寒いと言って俺の腕に抱きつく。
今は水の月の初旬。確かに朝はまだ少し寒い。
そう言えば、今月の末がセレーナの誕生日だ。
魔皇教団はそれまでに片付けて、セレーナの誕生日は盛大に祝いたいな。
俺は中央区に目を向けて、カタカタと音を立てながらこちらへ近づいて馬車を見る。
その豪華な馬車の周りには兵士が10名ほど護衛している。馬車の中にいる人物を考えれば、それでも少ないのではと思ってしまう。
馬車が俺たちの前に止まる。扉が開き、馬車から一人の男と一人の少女が降りてきた。
「おはようございます。ユーリ様」
「おはようございます。王女様」
先日の服装とは違って、動きやすいピッタリとしたパンツスタイルだ。上も革鎧のようなものを着ていて、軽装と言った感じ。
それでも華やかで、凛とした雰囲気を感じさせるのは王女様のオーラのようなものがそうさせるのかもしれない。
執事のスチュワードさんはいつもの燕尾服を着ている。目が合ったので会釈をすると、スチュワードさんは丁寧にお辞儀を返してくれた。
「ユーリ様、あの……失礼ではございますが、そちらの女の子はどちら様ですか?」
「あ、紹介が遅れましたが――」
「――相棒のアカネ」
アカネに気がついた王女様が俺に尋ねる。
ずっと影に隠れていたためアカネの紹介する機会を逃していた。そのため、紹介しようと思ってアカネに影から出てもらっていたことを思い出す。
しかし、紹介しようとしたところでアカネに言葉を遮られた。
「……伴侶ですか?」
「ん、パートナー」
アカネの言葉に、やや困惑した様子の王女様はアカネと俺を忙しなく交互に見ている。
それに対して、なぜか堂々と肯定するアカネ。
ん? 王女様の俺を見る目が心なしか不審なものに……パートナー……伴侶と勘違いしてる? それは誤解です! 王女様!
俺は慌てて弁解する。
「な、仲間って意味ですよ!?」
「っ!? そ、そういうことですね」
「相棒は相棒」
アカネは相変わらず愛想がない顔で王女様をじっと見ている。
視線を感じて、アカネを見返す王女様。その表情は微笑ましいものに変わっていた。
「殿下、そろそろ出発いたしましょう」
「ええ、そうね」
後ろに控えていたスチュワードさんが王女様に近づいて出発を催促する。
それに王女様は頷く。
「ユーリ様、出発したいと思いますがご準備のほどはよろしいですか?」
「はい。いつでも」
俺が答えると、王女様は改まった顔つきになる。
「ユーリ様、重ね重ねの確認になってしまいますが、本当に馬車には……」
「はい、乗りません。護衛も兼ねていますし、俺たちは徒歩で行きます」
「そうですか……わかりました」
やや残念そうな表情を見せる王女様。先日の打ち合わせで伝えたときも同じような表情をしていた。
護衛をするなら外にいた方が情報をたくさん得られるし、それに馬車の中で何を話したらいいかわからないしな。王女様には悪いけど、俺たちは徒歩で行かせてもらおう。
王女様、スチュワードさんと進路の最終確認をして、二人はそのまま馬車に戻る。
護衛の兵士が整列し直し、いつでも出発できる状態となった。
馬車の窓から王女様が顔を出す。
「それでは参りましょう」
「はい」
御者が馬に指示を出し、馬車がカタカタと進み始める。それに合わせて兵士たちも歩き出す。
馬車の速度は人が歩く速さよりやや遅いくらいで、決して速くはない。
正直、魔法を使えばもっと速くすることは可能なのだが、この国の魔術師が使える魔法を軽く超えてしまう。
色々な追及をされてしまうと面倒だ。何かあったときには使うかもしれないが、極力目立ちそうな魔法は控えよう。
馬車が門を抜ける。俺たちも歩き始めよう。
「よし、俺たちも行こう」
「うん」
「はい!」
「ん」
門を抜け、振り返ると朝日が建物の隙間から微かに見える。朝日に照らされたキャロットはとても綺麗だと思った。
キャロットでも色々あったけど、楽しかったな。やるべきことが終わったらまた来よう。
こうして、俺たちは王女様と共に西の大都市リーキに向けて都市キャロットから旅立った。
読んでいただきありがとうございます!
あけましておめでとうございます!
年明けの更新となってしまい、ごめんなさい。大変お待たせいたしました……。
今年も描い転にお付き合いいただければ幸いです!
まだ夜が明けたばかりで空はやや暗い。
北の居住区とほぼ同規模の第二居住区だが、早朝ではまだ人気は少ない。中央区に向かって眠そうに歩く人がちらほら見える。
「まだ朝は寒いね」
「魔法を使おうか?」
「ううん、大丈夫」
セレーナが寒いと言って俺の腕に抱きつく。
今は水の月の初旬。確かに朝はまだ少し寒い。
そう言えば、今月の末がセレーナの誕生日だ。
魔皇教団はそれまでに片付けて、セレーナの誕生日は盛大に祝いたいな。
俺は中央区に目を向けて、カタカタと音を立てながらこちらへ近づいて馬車を見る。
その豪華な馬車の周りには兵士が10名ほど護衛している。馬車の中にいる人物を考えれば、それでも少ないのではと思ってしまう。
馬車が俺たちの前に止まる。扉が開き、馬車から一人の男と一人の少女が降りてきた。
「おはようございます。ユーリ様」
「おはようございます。王女様」
先日の服装とは違って、動きやすいピッタリとしたパンツスタイルだ。上も革鎧のようなものを着ていて、軽装と言った感じ。
それでも華やかで、凛とした雰囲気を感じさせるのは王女様のオーラのようなものがそうさせるのかもしれない。
執事のスチュワードさんはいつもの燕尾服を着ている。目が合ったので会釈をすると、スチュワードさんは丁寧にお辞儀を返してくれた。
「ユーリ様、あの……失礼ではございますが、そちらの女の子はどちら様ですか?」
「あ、紹介が遅れましたが――」
「――相棒のアカネ」
アカネに気がついた王女様が俺に尋ねる。
ずっと影に隠れていたためアカネの紹介する機会を逃していた。そのため、紹介しようと思ってアカネに影から出てもらっていたことを思い出す。
しかし、紹介しようとしたところでアカネに言葉を遮られた。
「……伴侶ですか?」
「ん、パートナー」
アカネの言葉に、やや困惑した様子の王女様はアカネと俺を忙しなく交互に見ている。
それに対して、なぜか堂々と肯定するアカネ。
ん? 王女様の俺を見る目が心なしか不審なものに……パートナー……伴侶と勘違いしてる? それは誤解です! 王女様!
俺は慌てて弁解する。
「な、仲間って意味ですよ!?」
「っ!? そ、そういうことですね」
「相棒は相棒」
アカネは相変わらず愛想がない顔で王女様をじっと見ている。
視線を感じて、アカネを見返す王女様。その表情は微笑ましいものに変わっていた。
「殿下、そろそろ出発いたしましょう」
「ええ、そうね」
後ろに控えていたスチュワードさんが王女様に近づいて出発を催促する。
それに王女様は頷く。
「ユーリ様、出発したいと思いますがご準備のほどはよろしいですか?」
「はい。いつでも」
俺が答えると、王女様は改まった顔つきになる。
「ユーリ様、重ね重ねの確認になってしまいますが、本当に馬車には……」
「はい、乗りません。護衛も兼ねていますし、俺たちは徒歩で行きます」
「そうですか……わかりました」
やや残念そうな表情を見せる王女様。先日の打ち合わせで伝えたときも同じような表情をしていた。
護衛をするなら外にいた方が情報をたくさん得られるし、それに馬車の中で何を話したらいいかわからないしな。王女様には悪いけど、俺たちは徒歩で行かせてもらおう。
王女様、スチュワードさんと進路の最終確認をして、二人はそのまま馬車に戻る。
護衛の兵士が整列し直し、いつでも出発できる状態となった。
馬車の窓から王女様が顔を出す。
「それでは参りましょう」
「はい」
御者が馬に指示を出し、馬車がカタカタと進み始める。それに合わせて兵士たちも歩き出す。
馬車の速度は人が歩く速さよりやや遅いくらいで、決して速くはない。
正直、魔法を使えばもっと速くすることは可能なのだが、この国の魔術師が使える魔法を軽く超えてしまう。
色々な追及をされてしまうと面倒だ。何かあったときには使うかもしれないが、極力目立ちそうな魔法は控えよう。
馬車が門を抜ける。俺たちも歩き始めよう。
「よし、俺たちも行こう」
「うん」
「はい!」
「ん」
門を抜け、振り返ると朝日が建物の隙間から微かに見える。朝日に照らされたキャロットはとても綺麗だと思った。
キャロットでも色々あったけど、楽しかったな。やるべきことが終わったらまた来よう。
こうして、俺たちは王女様と共に西の大都市リーキに向けて都市キャロットから旅立った。
読んでいただきありがとうございます!
あけましておめでとうございます!
年明けの更新となってしまい、ごめんなさい。大変お待たせいたしました……。
今年も描い転にお付き合いいただければ幸いです!
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コメント
ノベルバユーザー601714
ランキングから拝見しました。魔法陣を描いて転生するのが斬新で、とても良かったです。