魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~
53 転移師テーレ
転移師テーレ。転移系能力の魔書をもつ冒険者。あと、イケメン……。
テーレの後ろには観光区で見た仲間らしき男女2人もいる。男は中肉中背の剣士風、女は片目に眼帯をつけ弓を背負っていた。
「テーレ様、いきなりいらっしゃると驚きます」
「あぁ、失礼。ドアから入る習慣がなくてね」
ハハハ、とテーレが笑う。
いや、転移は便利だけど、さすがにそれは……と思ったのは秘密だ。
「ユーリ様、先程お話したもう1組の冒険者の方々というのが、こちらにいらっしゃるテーレ様御一行です」
「そう言うわけで、よろしく頼むよ」
テーレが爽やかな笑顔を見せる。
それが嘘っぽく見えてしまうのは、単なる俺の妬みかそれともテーレという人間の本性か……。
セレーナが俺の手を握る。
〈大丈夫?〉
〈……うん。でも、手は握っててもいい?〉
〈うん、しっかり握ってて〉
言葉ではわからないが、思念魔法からセレーナが怖がっていることが伝わってきた。
理由はわからないけどセレーナが怖がっている。
それなら早くセレーナを安心させたい。
今の俺にできることはないかと、考えを巡らせる。その視界の端にテーレが見えた。
テーレがセレーナを見る。
その口角が一瞬上がったような気がした。
……ッ!?
テーレの魔力が動く。
指輪が変化して魔書が本来の形に戻ると、魔書はひとりでにページを捲る。
魔書の能力が発動する。
対象はセレーナだった。
「…………ん?」
テーレの澄ました顔が訝しげなものに変わる。
「一つだけ言っておきます」
俺はテーレの顔を射るように睨み、言い放つ。
「俺の大切な人に手を出す奴は――許さない」
テーレがわずかに後ずさる。
そして俺が妨害したことを理解したのか、目に角を立てるテーレ。
その目から俺は目を逸らすことなく、睨み返し続ける。
正直、かなり頭にきている。
今すぐに拘束魔法で縛り付けて謝らせたいが、それは得策ではない。
俺は何とか怒りを抑えつける。
すると、今までの表情が嘘だったかのようにテーレの顔が爽やかな笑顔に戻る。
「フフ……軽い冗談さ。君の実力はわかった。気分を害してしまったなら謝ろう。ボクたちはこれからチームを組むのだから、仲良くしよう」
手のひらを返したようなその発言に、俺は正直困惑してしまう。
何がしたいんだ?
テーレは俺に近づくと、右手を差し出して「握手をしよう」と平然と笑いかける。
俺はテーレへの警戒を解くことなく、その目を見続ける。
何が目的だ。そう目で訴えかけるように。
一向に手を出さない俺に、テーレは諦めて背を向けると仲間のそばへと戻る。
そのまま振り返らず、テーレは魔書を開く。
「君に彼女は守れない」
ただその一言だけを残してテーレたちはどこかへ転移した。
セレーナが怖がっていた意味が何となくわかった。
あの男は何か裏がある。警戒した方がいい。
転移師テーレ……。
応接室にしばらく静寂が続く。
何が目的だ? なぜセレーナを狙う?
もしかして……龍帝国の手先なのか?
わからない。
「失礼ですが、ユーリ様はテーレ様とお知り合いでしたか?」
「……今日、初めて会いました。今のが2回目です。喋ったのは今が初めてです」
「左様でございますか」
ゴードンさんは一瞬何かを考えるそぶりを見せる。
「ギルドとしては冒険者間の問題に関与することはできませんが、今回の依頼に関してチームを取りやめることはできます。如何されますか?」
チームでの調査は、何かと不慣れな俺たちにとっては助かることだが……今回は組む相手が危険だ。
それに、チームを組むことによって動きづらくなるというデメリットもある。
一番はテーレという男の目的がわからないことに尽きるけれど。
〈チームの件は断るけど、いいよね?〉
〈はい! ユーリ様のお力があれば何も問題はありません!〉
それは過大評価というやつだ、リリー。
俺にもできないことはある。
それからセレーナの不安そうな思念が伝わる。
〈……わたしのせい?〉
〈違うよ、セレーナ。確かにセレーナが怖がっているというのもあるけど、それ以上にあのテーレという男は危険だ〉
〈……?〉
〈詳しくはまた後で話すけど、テーレはセレーナに対して魔書の力を使った。俺が妨害したから未遂ではあるけれど、それは許されない行為だ〉
〈っ!? ……そうだったんだ。助けてくれてありがとう、ユーリくん〉
「うん、何があってもセレーナは俺が守るから」
俺は繋いでいる手をぎゅっと握りしめる。
「ユーリくんっ!」
セレーナが俺の手を握り返す。
「ユーリ様、セレーナさん……声が出てます」
「あ……すみません」
「すみません!」
俺はゴードンさんに頭を下げる。
セレーナも顔を真っ赤にして、慌てて頭を下げる。
ゴードンさんは「いえ」と言って苦笑していた。
チームについて話している時に何を言い出しているんだと、ゴードンさん的には思っていることだろう。
「チームの件ですが……すみません、組むことはできません」
「畏まりました。先方には私からお話しておきます」
「ありがとうございます」
俺はゴードンさんにもう一度頭を下げる。
「チームは組めませんが、依頼は受けますので」
俺がそう言うと、次はゴードンさんが頭を下げて「ありがとうございます」と言う。
それからゴードンさんに調査依頼の詳細を教えてもらい俺たちはギルドを出る。
依頼は明日からでいいとのことだったので、今日のところは休むことにした。
都市キャロットは龍帝国の侵攻を受けているのか現状はわからない。
土地痩せや、テーレのことも含めキャロットの調査を油断せず取り組もう。
読んで頂きありがとうございます!!
気がつけばもうすぐ初投稿から3年……。
感謝の気持ちは3周年の時にお伝えしたいと思います!
3年経つけど……完結まで後どれくらいかかるのかな?(遠い目)
テーレの後ろには観光区で見た仲間らしき男女2人もいる。男は中肉中背の剣士風、女は片目に眼帯をつけ弓を背負っていた。
「テーレ様、いきなりいらっしゃると驚きます」
「あぁ、失礼。ドアから入る習慣がなくてね」
ハハハ、とテーレが笑う。
いや、転移は便利だけど、さすがにそれは……と思ったのは秘密だ。
「ユーリ様、先程お話したもう1組の冒険者の方々というのが、こちらにいらっしゃるテーレ様御一行です」
「そう言うわけで、よろしく頼むよ」
テーレが爽やかな笑顔を見せる。
それが嘘っぽく見えてしまうのは、単なる俺の妬みかそれともテーレという人間の本性か……。
セレーナが俺の手を握る。
〈大丈夫?〉
〈……うん。でも、手は握っててもいい?〉
〈うん、しっかり握ってて〉
言葉ではわからないが、思念魔法からセレーナが怖がっていることが伝わってきた。
理由はわからないけどセレーナが怖がっている。
それなら早くセレーナを安心させたい。
今の俺にできることはないかと、考えを巡らせる。その視界の端にテーレが見えた。
テーレがセレーナを見る。
その口角が一瞬上がったような気がした。
……ッ!?
テーレの魔力が動く。
指輪が変化して魔書が本来の形に戻ると、魔書はひとりでにページを捲る。
魔書の能力が発動する。
対象はセレーナだった。
「…………ん?」
テーレの澄ました顔が訝しげなものに変わる。
「一つだけ言っておきます」
俺はテーレの顔を射るように睨み、言い放つ。
「俺の大切な人に手を出す奴は――許さない」
テーレがわずかに後ずさる。
そして俺が妨害したことを理解したのか、目に角を立てるテーレ。
その目から俺は目を逸らすことなく、睨み返し続ける。
正直、かなり頭にきている。
今すぐに拘束魔法で縛り付けて謝らせたいが、それは得策ではない。
俺は何とか怒りを抑えつける。
すると、今までの表情が嘘だったかのようにテーレの顔が爽やかな笑顔に戻る。
「フフ……軽い冗談さ。君の実力はわかった。気分を害してしまったなら謝ろう。ボクたちはこれからチームを組むのだから、仲良くしよう」
手のひらを返したようなその発言に、俺は正直困惑してしまう。
何がしたいんだ?
テーレは俺に近づくと、右手を差し出して「握手をしよう」と平然と笑いかける。
俺はテーレへの警戒を解くことなく、その目を見続ける。
何が目的だ。そう目で訴えかけるように。
一向に手を出さない俺に、テーレは諦めて背を向けると仲間のそばへと戻る。
そのまま振り返らず、テーレは魔書を開く。
「君に彼女は守れない」
ただその一言だけを残してテーレたちはどこかへ転移した。
セレーナが怖がっていた意味が何となくわかった。
あの男は何か裏がある。警戒した方がいい。
転移師テーレ……。
応接室にしばらく静寂が続く。
何が目的だ? なぜセレーナを狙う?
もしかして……龍帝国の手先なのか?
わからない。
「失礼ですが、ユーリ様はテーレ様とお知り合いでしたか?」
「……今日、初めて会いました。今のが2回目です。喋ったのは今が初めてです」
「左様でございますか」
ゴードンさんは一瞬何かを考えるそぶりを見せる。
「ギルドとしては冒険者間の問題に関与することはできませんが、今回の依頼に関してチームを取りやめることはできます。如何されますか?」
チームでの調査は、何かと不慣れな俺たちにとっては助かることだが……今回は組む相手が危険だ。
それに、チームを組むことによって動きづらくなるというデメリットもある。
一番はテーレという男の目的がわからないことに尽きるけれど。
〈チームの件は断るけど、いいよね?〉
〈はい! ユーリ様のお力があれば何も問題はありません!〉
それは過大評価というやつだ、リリー。
俺にもできないことはある。
それからセレーナの不安そうな思念が伝わる。
〈……わたしのせい?〉
〈違うよ、セレーナ。確かにセレーナが怖がっているというのもあるけど、それ以上にあのテーレという男は危険だ〉
〈……?〉
〈詳しくはまた後で話すけど、テーレはセレーナに対して魔書の力を使った。俺が妨害したから未遂ではあるけれど、それは許されない行為だ〉
〈っ!? ……そうだったんだ。助けてくれてありがとう、ユーリくん〉
「うん、何があってもセレーナは俺が守るから」
俺は繋いでいる手をぎゅっと握りしめる。
「ユーリくんっ!」
セレーナが俺の手を握り返す。
「ユーリ様、セレーナさん……声が出てます」
「あ……すみません」
「すみません!」
俺はゴードンさんに頭を下げる。
セレーナも顔を真っ赤にして、慌てて頭を下げる。
ゴードンさんは「いえ」と言って苦笑していた。
チームについて話している時に何を言い出しているんだと、ゴードンさん的には思っていることだろう。
「チームの件ですが……すみません、組むことはできません」
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「ありがとうございます」
俺はゴードンさんにもう一度頭を下げる。
「チームは組めませんが、依頼は受けますので」
俺がそう言うと、次はゴードンさんが頭を下げて「ありがとうございます」と言う。
それからゴードンさんに調査依頼の詳細を教えてもらい俺たちはギルドを出る。
依頼は明日からでいいとのことだったので、今日のところは休むことにした。
都市キャロットは龍帝国の侵攻を受けているのか現状はわからない。
土地痩せや、テーレのことも含めキャロットの調査を油断せず取り組もう。
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