魔法陣を描いたら転生～龍の森出身の規格外魔術師～
５０ キャロット支部
テーレと呼ばれた男が仲間らしき男女２人をつれて歩いてくる。
肩まで伸びた翡翠色の髪が揺れる度に黄色い声が大通りに響く。
テーレはわかりやすく美男子と言った風貌で、自信に満ちた表情を見せながら大通りのど真ん中を歩いてくる。
あの人がテーレか。さっき転移師とか聞こえたけど……。
テーレが俺たちの正面に来ると突然、立ち止まる。
そして、表情を真面目なものに変えて俺たち……というより俺を見た。
テーレと目が合う。
……え？ 何？ 俺、何かしちゃった？
仲間の２人が不審そうに俺とテーレを交互に見る。
とにかく気まづい。
俺が「いい天気ですね」と言い出すかどうか迷っていると、テーレは再び前を向いて歩き始めた。
一瞬、静寂になっていた大通りに黄色い声が戻り、それも段々と小さくなっていく。
何だったんだ？
テーレが近くに来たと同時に背中に隠れてしまったセレーナが、大通りに向かって顔を覗かせる。
「……もう行った？」
「どうしたの？」
いつもの明るさとは違って、セレーナは少し怯えているように見える。
「あの人……何だか怖い」
「テーレって人のこと？」
「うん……」
セレーナが他人に対して怖がるなんて……そんなことあったか？ 何か魔法を使われた感じはしなかったけど……。
俺はセレーナの頭をポンポンっと軽く撫でる。
「大丈夫。俺が守る」
「うんっ」
セレーナはパッと顔を明るくさせ、ひまわりのような笑顔で俺に抱きつく。
そんなセレーナを愛おしく想いつつ、何があっても俺が守ってみせると決意を固くする。
「…………」
「あのぉ……ユーリ様」
ジト目のアカネと、周りをチラチラと見ているリリーが俺を呼ぶ。
「ん？ ……あ」
リリーと同じように周りを見ると、俺とセレーナのことを妙に温かい眼差しで見る人たちがたくさんいた。
頬が急激に熱くなる。
「微笑ましいわねぇ」
「若いっていいわぁ〜」
「少年！ その娘を大切にするんだよ！」
お姉様方の冷やかしで更に恥ずかしさが増す。
どうやらセレーナも状況を理解したようで、赤面しながら俺から離れる。
「と、とりあえずここから移動しよう……」
「そ、そうだねっ」
「…………」
「はい」
俺たちは温かい眼差しから逃げるように中心部へと大通りを進んだ。
＊＊＊
目の前にそびえ立つ威風堂々とした建物。目測５階建のそれは、都市キャロットの中央区（統制区）に位置する冒険者ギルド・キャロット支部だ。
外観だけで、パンプキン支部の２、３倍の規模はあるように見える。パンプキン支部でもすごかったのに……。
「遠くから見ても大きいとは思いましたが、間近で見ると圧倒されてしまいますね」
「だなぁ……」
「首が痛くなるね」
「……登ってみたい」
「それはダメだろ……俺も登ってみたいけど」
ギルドの前で全員が顔を上げて、眺めているという完全にお上りさん状態だった。
通行人が俺たちの近くを通る度にクスクスと笑うので、いい加減ギルドの中へ入る。
中に入ると、やっぱりギルド内もすごかった。
高級ホテルのエントランスのような造りの内装は、どこを見ても人がいる。
広いはずのギルドがやや狭く感じるくらいに人で溢れかえっていた。
「すごい人の数だね！」
「……影に入りたい」
ワクワクとした表情のセレーナに対し、人見知りなところがあるアカネはギブアップを訴えるように俺の背に隠れる。
「いや、今は我慢してくれ」
「アカネさん、これなら周りに見られず魔法を使えます」
そう言ってリリーは自分のローブを脱ぎ、アカネを隠すように覆う。
意図を読み取ったアカネはそれからすぐに俺の影へ潜る。
〈……ありがとう、リリー〉
「わっ！ 頭の中に！？ ……そ、そうか、思念魔法ですね」〈……どういたしましてです！〉
俺を介して思念を共有する２人。
今みたいにリリーは状況を見て、機転を利かせることができる。それは魔術師としての武器になる。
戦いとは常に変化するものであり、魔術もまた変化するものだ。
それに対応し、自分は何ができるか、どんな魔法を使うのかを常に考える。それが魔術師には必要で、リリーはそれができる。
弟子の良い所が見れて嬉しい。
「ありがとな、リリー」
俺がそう言うと、リリーは顔をパッと輝かせて嬉しそうにする。
「僕、役に立てましたか？」
「うん、すごく」
「やった！ ユーリ様の役に立てた！」
子供らしく無邪気に喜ぶリリーが微笑ましく思う。
いつもは落ち着いているけど、こうやってみるとやっぱり子供らしい一面があるだな。
そんなことを考えていると、後ろからやってきた男がリリーを突き飛ばして歩いてくる。
「わっ！」
突き飛ばされたリリーを俺は受け止める。
「おい、邪魔だ！ ここはガキの遊び場じゃねぇぞ！ どっか行きやがれ！」
戦斧を背負ったその男は俺たちを睨みつけると、そのまま受付の方へ人を押し退けて進んでいく。
「怪我はない？」
「……はい、何ともありません」
そう言ったリリーの表情は、言葉と違って少し怯えているように見えた。
大切な弟子を突き飛ばしたあの男が、どうしようもなく腹立たしい。
頭に血が上っていくような感覚と、それに合わせて魔力が荒ぶっていくのがわかる。
「ユーリ様、僕は大丈夫です。ユーリ様があんな人に力を使う必要はありません」
立ち直ったリリーがいつもの大人びた表情でそう言う。
リリーの目は真っ直ぐ俺を見ていた。
その目を見たら、俺の怒りが何だかちっぽけなものに感じて、怒りは少しずつ収まっていった。
魔力も静かになる。
「ひどいよ……」
セレーナが悲しそうに言う。
〈……ユーリ、やり返す？〉
淡々とした口調だが、アカネも怒っているのが思念から伝わる。
〈気持ちはわかるけど、やり返すのはダメだ〉
俺もさっきまでは怒りでいっぱいだったけど、リリーのおかげで冷静になれた。
ここで殴り合いになれば、俺たちは目立ってしまう。目立ってしまっては調査任務に影響が出る。
それに力で解決するのは簡単だけど、それは本当の意味での解決にはならないと思う。
森の中と、人の社会は違うんだ。
俺は弱肉強食の世界に馴染みすぎてしまっているかもしれない。
「仕切り直して、まずは依頼を探してみよう」
「はい！」
「うんっ」
「ん」
読んで頂きありがとうございます！！
低速執筆の駄眼鏡 洸です。
いや、堕眼鏡ですかね？（どうでもいい！）
５Ｇ（回線）に合わせて、作者の執筆速度も上がらないかな……。
肩まで伸びた翡翠色の髪が揺れる度に黄色い声が大通りに響く。
テーレはわかりやすく美男子と言った風貌で、自信に満ちた表情を見せながら大通りのど真ん中を歩いてくる。
あの人がテーレか。さっき転移師とか聞こえたけど……。
テーレが俺たちの正面に来ると突然、立ち止まる。
そして、表情を真面目なものに変えて俺たち……というより俺を見た。
テーレと目が合う。
……え？ 何？ 俺、何かしちゃった？
仲間の２人が不審そうに俺とテーレを交互に見る。
とにかく気まづい。
俺が「いい天気ですね」と言い出すかどうか迷っていると、テーレは再び前を向いて歩き始めた。
一瞬、静寂になっていた大通りに黄色い声が戻り、それも段々と小さくなっていく。
何だったんだ？
テーレが近くに来たと同時に背中に隠れてしまったセレーナが、大通りに向かって顔を覗かせる。
「……もう行った？」
「どうしたの？」
いつもの明るさとは違って、セレーナは少し怯えているように見える。
「あの人……何だか怖い」
「テーレって人のこと？」
「うん……」
セレーナが他人に対して怖がるなんて……そんなことあったか？ 何か魔法を使われた感じはしなかったけど……。
俺はセレーナの頭をポンポンっと軽く撫でる。
「大丈夫。俺が守る」
「うんっ」
セレーナはパッと顔を明るくさせ、ひまわりのような笑顔で俺に抱きつく。
そんなセレーナを愛おしく想いつつ、何があっても俺が守ってみせると決意を固くする。
「…………」
「あのぉ……ユーリ様」
ジト目のアカネと、周りをチラチラと見ているリリーが俺を呼ぶ。
「ん？ ……あ」
リリーと同じように周りを見ると、俺とセレーナのことを妙に温かい眼差しで見る人たちがたくさんいた。
頬が急激に熱くなる。
「微笑ましいわねぇ」
「若いっていいわぁ〜」
「少年！ その娘を大切にするんだよ！」
お姉様方の冷やかしで更に恥ずかしさが増す。
どうやらセレーナも状況を理解したようで、赤面しながら俺から離れる。
「と、とりあえずここから移動しよう……」
「そ、そうだねっ」
「…………」
「はい」
俺たちは温かい眼差しから逃げるように中心部へと大通りを進んだ。
＊＊＊
目の前にそびえ立つ威風堂々とした建物。目測５階建のそれは、都市キャロットの中央区（統制区）に位置する冒険者ギルド・キャロット支部だ。
外観だけで、パンプキン支部の２、３倍の規模はあるように見える。パンプキン支部でもすごかったのに……。
「遠くから見ても大きいとは思いましたが、間近で見ると圧倒されてしまいますね」
「だなぁ……」
「首が痛くなるね」
「……登ってみたい」
「それはダメだろ……俺も登ってみたいけど」
ギルドの前で全員が顔を上げて、眺めているという完全にお上りさん状態だった。
通行人が俺たちの近くを通る度にクスクスと笑うので、いい加減ギルドの中へ入る。
中に入ると、やっぱりギルド内もすごかった。
高級ホテルのエントランスのような造りの内装は、どこを見ても人がいる。
広いはずのギルドがやや狭く感じるくらいに人で溢れかえっていた。
「すごい人の数だね！」
「……影に入りたい」
ワクワクとした表情のセレーナに対し、人見知りなところがあるアカネはギブアップを訴えるように俺の背に隠れる。
「いや、今は我慢してくれ」
「アカネさん、これなら周りに見られず魔法を使えます」
そう言ってリリーは自分のローブを脱ぎ、アカネを隠すように覆う。
意図を読み取ったアカネはそれからすぐに俺の影へ潜る。
〈……ありがとう、リリー〉
「わっ！ 頭の中に！？ ……そ、そうか、思念魔法ですね」〈……どういたしましてです！〉
俺を介して思念を共有する２人。
今みたいにリリーは状況を見て、機転を利かせることができる。それは魔術師としての武器になる。
戦いとは常に変化するものであり、魔術もまた変化するものだ。
それに対応し、自分は何ができるか、どんな魔法を使うのかを常に考える。それが魔術師には必要で、リリーはそれができる。
弟子の良い所が見れて嬉しい。
「ありがとな、リリー」
俺がそう言うと、リリーは顔をパッと輝かせて嬉しそうにする。
「僕、役に立てましたか？」
「うん、すごく」
「やった！ ユーリ様の役に立てた！」
子供らしく無邪気に喜ぶリリーが微笑ましく思う。
いつもは落ち着いているけど、こうやってみるとやっぱり子供らしい一面があるだな。
そんなことを考えていると、後ろからやってきた男がリリーを突き飛ばして歩いてくる。
「わっ！」
突き飛ばされたリリーを俺は受け止める。
「おい、邪魔だ！ ここはガキの遊び場じゃねぇぞ！ どっか行きやがれ！」
戦斧を背負ったその男は俺たちを睨みつけると、そのまま受付の方へ人を押し退けて進んでいく。
「怪我はない？」
「……はい、何ともありません」
そう言ったリリーの表情は、言葉と違って少し怯えているように見えた。
大切な弟子を突き飛ばしたあの男が、どうしようもなく腹立たしい。
頭に血が上っていくような感覚と、それに合わせて魔力が荒ぶっていくのがわかる。
「ユーリ様、僕は大丈夫です。ユーリ様があんな人に力を使う必要はありません」
立ち直ったリリーがいつもの大人びた表情でそう言う。
リリーの目は真っ直ぐ俺を見ていた。
その目を見たら、俺の怒りが何だかちっぽけなものに感じて、怒りは少しずつ収まっていった。
魔力も静かになる。
「ひどいよ……」
セレーナが悲しそうに言う。
〈……ユーリ、やり返す？〉
淡々とした口調だが、アカネも怒っているのが思念から伝わる。
〈気持ちはわかるけど、やり返すのはダメだ〉
俺もさっきまでは怒りでいっぱいだったけど、リリーのおかげで冷静になれた。
ここで殴り合いになれば、俺たちは目立ってしまう。目立ってしまっては調査任務に影響が出る。
それに力で解決するのは簡単だけど、それは本当の意味での解決にはならないと思う。
森の中と、人の社会は違うんだ。
俺は弱肉強食の世界に馴染みすぎてしまっているかもしれない。
「仕切り直して、まずは依頼を探してみよう」
「はい！」
「うんっ」
「ん」
読んで頂きありがとうございます！！
低速執筆の駄眼鏡 洸です。
いや、堕眼鏡ですかね？（どうでもいい！）
５Ｇ（回線）に合わせて、作者の執筆速度も上がらないかな……。
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