魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

45 六柱龍の神殿3

『終わりました』

「……はい」

 不思議な感じだ。

 魔力が前よりもはっきりと感じ取れる。自分の手足のように魔力が動かせる。

 すごい……。

 これが『水柱龍の加護』。

『その力を使いこなすには、まず水を受け入れることです。そして、水の意思を感じ取るのです』

「水の意思……」

『そうすれば水はあなたの力となる』

 突然、クヴェル様の足下から大量の水が噴き出す。

「えッ!?」

 水しぶきがわたしの頬を濡らす。

 本物の水だ!

 何で急に水が?

 そんなことより、クヴェル様は……。

 わたしは目の前の光景に開いた口が塞がらなかった。

『水を受け入れて……そして水の意思を感じ取るのです』

 クヴェル様の言葉を体現するように、水はクヴェル様を包み込み球をつくる。やがて水は大蛇のようになって、クヴェル様の周りをグルグルと回り始める。

 クヴェル様が一度、パンッと手を打つ。

 水は音を理解しているかのように、それに反応して空へと上昇する。

 わたしの目でギリギリ見える高さまで行くと、その場で弾けて雨となった。

 クヴェル様とわたしに雨が降り注ぐ。

『最後にもう一つ大事なことがあります』

 一拍の静寂の後に、クヴェル様は言う。

『それは強い想いです。この力はあなたの強い想いによって、より強くなる』

「強い想い……」

『あなたはそれを知っている。大丈夫、あなたの信じる道を……』

「クヴェル様!?」

 突如、クヴェル様が薄い光に包み込まれ、そして徐々に光の粒へと変わっていってしまう。

『頑張……です……セレーナ』

 最後にそう言い残すと、クヴェル様は完全に消え去ってしまった。

「行っちゃった……」

 クヴェル様がいなくなった場所をぼーっと見つめる。

 クヴェル様の加護はわたしの中にあるんだよね……。

 あまり実感はわかなかった。

 けれど、この力でわたしはユーリくんの隣に立ちたい。

 そう決意を胸にしたその時、広間がクヴェル様と同じように光の粒へ変わっていってしまう。

「ど、どうしよう!?」

 来た道を戻ろうと後ろを振り返ったが、道が塞がっていた。

「道が消えてる!?」

 わたしは徐々に迫り来る光の粒から逃げるように、広間の中央へと寄っていく。

 ついに広間の中央にやって来たわたしは、完全に追い詰められていた。

「く、クヴェル様ぁ!」

 わたしは必死に叫ぶ。

 しかし、クヴェル様が助けてくれる気配はない。

 光の粒はすぐ足元までやって来ていた。

 広間は跡形もなく消えていて、真っ黒な世界が広がっている。

 もうダメ――ッ!

「ユーリくーんっ!」

 わたしは目を瞑り、愛する大切な人の名前を叫んだ。





 ***



「…………な」

 誰の声?

「……れ……ナ」

 この声は……。

「セレーナ!」

「……ユーリくん?」

「よかった……」

 ユーリくんはわたしを抱きかかえたまま優しい笑顔を見せる。

 わたし……何してたんだっけ?

「ここは……」

「六柱龍の神殿の中だよ」

「石碑の前に来たら、突然セレーナさんが倒れてしまったんです!」

 優しく答えてくれるユーリくん。それと、リリーちゃんが慌てた様子で教えてくれる。

 わたし気を失ってたんだ。

 何か夢を見ていたような気がするんだけど……。

「心配かけてごめんね、ユーリくん」

「それは全然いいんだ。それより何か具合の悪いところはない?」

 わたしはユーリくんの手を借りながら立ち上がる。

「大丈夫だよ。むしろ力が湧いてくるような……あれ? 本当に魔力が溢れ出ちゃいそう」

 ユーリくんが真剣な眼差しでじっとわたしのことを見つめる。

 え、え、きゅ、急にどうしちゃったの?

 そんなに真っ直ぐ見つめられたら、ドキドキして……わたし……(プスーッ)

 わたしの思考が停止する。

 顔から火が出てるみたいに熱い。

「魔力の量というより、質が変化してる。これは……」

 ユーリくんはそう言うと、ブツブツと独り言を呟きながら考え込んでしまった。

 うん、いつものユーリくんだ。

 でも、本当にどうして魔力が変化しちゃったのかな?

 何か大事なことを忘れているような……。


『頑張るのですよ、セレーナ』


「え? 誰の声?」

「……セレーナ?」

「あ、いや、何でもないよ。多分気のせい」

 何だろう、さっきの声。

 どこか聞き覚えのある声のような気がする。

 美しく、力強い女の人の声。

「この先は何もないみたいだし、ひとまずここから出ようか」

「そうだね」

「はいっ!」

「……ん」

 わたしたちは来た道を戻って神殿を出た。

 空を見上げると、だいぶ日が傾き始めていた。

 不思議な場所だったなぁ……。

 わたしは振り返り、神殿の入口を見た。

 同じ入口のはずなのに、来た時とは違って特別な感情が湧いてくる。本当に不思議。

 それからわたしたちは、日が落ちるギリギリまで空の旅を続けた。



 読んで頂きありがとうございます!!

 神殿のお話はこれで終わりです。
 セレーナのパワーアップ回でした。
 次は都市に入れるのではないかと……。

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