魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~
35 ギルド試験・冒険の部
「今回、試験官を担当する二級冒険者のガイドだ」
2メートルはありそうな大柄な男。綺麗に切り揃えられた口髭が特徴的で、歳で言えば初老くらいだが、どことなく若々しい。
二級冒険者とは、冒険者を階級に分けた時に上から3番目に当たる階級のことだ。
冒険者の階級は上から特級、一級、二級、三級、初級と分けられている。特級から二級までを上級冒険者、三級と初級を下級冒険者と分けることもある。
「試験を受けるのは誰だ?」
「俺です」
一歩前に進んで答える。
セレーナ、アカネ、リリーは試験を受けない。色々な理由はあるが、冒険者ギルドに身を置くと制限が多くなるというのが主な理由だ。
俺の場合は仕方がないので、諦めて試験を頑張ろうと思う。
「名前は?」
見定めるように俺を見ていたガイドさんが問う。
「ユーリです」
「ユーリ、お前は何故冒険者になりたい?」
え、何故って……
「お金がほしいからです」
俺は開き直って正直に言った。
誤魔化したって仕方がないし、お金が無くて困ってるのは本当なんだ。
「ガハハハッ、そうか! 金がほしいか! 潔し、見込みあるぞユーリ」
「あ、ありがとうございます……」
突然笑い出し、何故か褒められた。
軽蔑されるよりはいいけど、これはこれで反応に困る。
「先輩冒険者としてアドバイスするが、冒険者として長生きしたければ、『冒険する理由』を見つけることだ」
冒険する理由……。
「冒険者は死と隣り合わせになることがたくさんある。理由はなんだっていい。お金のため、あるいは大切な人のためとかな」
そう言ったガイドさんの言葉には、その言葉の意味以上に重みがあるような気がした。
「まっ、まだ冒険者でもないのにこんなこと言われてもピンとこないか」
笑うガイドさんから視線を変えてセレーナたちを見る。
大切な人のため……それならよくわかる気がした。
セレーナたちのためなら俺はどんなことでも頑張れる。きっとそういうことなのだと思う。
「話がそれたが、それじゃ試験を説明する」
ガイドさんが真面目な顔に戻って説明を始める。
簡潔に言うと試験は2部制で行われる。1つは冒険者としての資質・適性が試される冒険の部。もう1つは純粋な戦闘能力が試される模擬戦の部というものだ。
冒険の部では実際の依頼に近い形式で試験を行い、試験官に指示された素材を入手して納品するというものが一般的らしい。模擬戦の部は名前から想像できるとおり、試験官と一対一で模擬戦を行うとのことだ。
俺の予想では模擬戦だけだと思っていたので、かなりしっかりとした試験なのだと印象を改めさせられた。
「まずは冒険の部から始める。依頼はランタン山に生えている『ホシキノコ』を1つ納品することだ」
後からリリーに聞いたのだが、ホシキノコは五芒星の形をした傘が特徴的なキノコらしい。
薬の材料として使われることが多いが、希少性が高くギルドでは常に採取依頼が出ているほどだという。
「制限時間は日没までだ。情報収集を始め、達成方法は任せる」
今が昼前くらいだから割と時間はありそうだ。
「俺はギルドで待ってる。ユーリ、期待してるぞ」
「はいっ」
ガイドさんは手を振ってギルドの方へ戻って行った。
「それじゃ、俺たちも行こうか」
「はーい」「はいっ」「……ん」
***
ランタン山はリリーの家と町を一直線に結んだ丁度中間の地点に存在する大きな山だ。
規模で言えば集落周辺の山々にも及ばないが、町周辺の山の中では最も大きな山である。
俺たちは町を出て、早速転移魔法で山の麓まで来た。
「ユーリ様、ホシキノコは4人で手分けして探したとしても運が良くて1つ見つかるかどうか、それほど希少なキノコです」
眉を下げ、どうしましょうと困った風にリリーが言う。
「リリーはホシキノコを見たことはある?」
「山で見たことはないですが、町でなら見かけたことがあります」
「それなら簡単に手に入る方法がある」
「え、それはどんな魔法なんですかっ?」
興奮した様子でリリーが尋ねる。
「まぁまぁ、実際にやってみせるから。それとリリーの協力も必要だからよろしくね」
それを聞いた途端、リリーは「えぇぇ!?」と深刻そうな顔で俺に訴える。
「僕、魔法なんか1つも使えませんよ!」
「魔法を使うのは俺だから、そうじゃなくてリリーにしてもらいたいのはホシキノコを思い浮かべて欲しいんだよ。できるだけ鮮明にね」
?を浮かべるリリー。代わりにセレーナが俺に聞く。
「ユーリくん、何をするの?」
「簡単に言うと、リリーの記憶の中にあるホシキノコを俺が思念魔法で共有して、探索魔法で山全体を探る。そして見つけ次第転移魔法で手元にホシキノコを転移させるって感じかな」
相変わらず理解できませんと言ったリリー、更にセレーナまで首を傾げてしまった。
あれ? そんなに複雑なことではないと思うけど……。
「ユーリのやることは意味がわからない。考えてはダメ……」
唐突な相棒からの不意打ちに心が痛む。
そ、そんな言い方しなくても……。
「そうだね!」
「ユーリ様のお考えを想像できないのは当たり前のことですよね」
2人も納得してるし!
ちょっ、新手のイジメですか?
「俺、変なこと言ってないよね?」
「「「……」」」
「3人とも目を逸らさないでよ!」
俺が何をしたって言うんだ!
「認めて。ユーリは他とは違う」
「認められるか!」
「ユーリくんはユーリくんだよ」
「それは今言われると複雑な気持ちに……」
「ユーリ様はきっと違う世界からいらっしゃったんですよね」
「それは……間違ってないな」
リリーの「え? そ、それは」という声を聞き流しながら俺は話題を変えるべく魔法に取り掛かることにした。
「話が逸れちゃったけど、とっととホシキノコを採取しよう。リリー、準備はいい?」
「え、あ、はいっ」
リリーが目を固く閉じる。
少し待ってから俺は思念魔法を使う。
思念魔法を使うときのイメージはラジオの選局に近い。自分の意識を相手の周波数に合わせるように魔法を使うことが大切だ。
リリーの意識に合わせ、自分の意識を変えていく。そして受信したリリーの思念が徐々に自分の中へ映し出される。
最終的にはプロジェクターで投影されたようにはっきりとホシキノコの形や色がわかった。
「よし、わかった。リリーありがとう」
「はいっ!」
俺はすぐに探索魔法を使う。
範囲は山全体。これくらいなら余裕だ。
リリーと共有したホシキノコのイメージを探索魔法に反映させる。
俺を中心にレーダーの如く探索魔法が続々とホシキノコを確認していく。山全体を確認するのに1秒もかからなかった。
確認したホシキノコを即座に転移魔法を使って手元に転移させる。
俺の目の前にホシキノコの山が出来ていた。
「こんなもんかな」
全部取っちゃうとそれはそれで問題になりそうだし、半分くらいで止めといた。
「ホシキノコがこんなに……」
「わぁー大量だね」
「……変な匂い」
リリーは口が開いたまま停止、セレーナは楽しそうにホシキノコを手にとって見ている。アカネは鼻をつまみ直ぐに俺の影へ避難した。
確かにちょっと変わった匂いかも。
後から知った話だが、ホシキノコの正攻法な探し方はとにかく暗い場所で独特な匂いを頼りに地道に探すしかないらしい。
余談だが、暗闇の中で発光する姿からホシキノコという名前がついたらしく、形が由来ではないのが意外だった。
空を見上げると、ほとんど太陽は動いていなかった。
大量のホシキノコを空間魔法で取り出した大きめの麻袋のような袋に入れて担ぐ。
「それじゃ、戻ろう」
「はーい」「はいっ」「……ん」
所要時間10分。入手したホシキノコ54本。
ギルドの記録を更新したのは言うまでもないのであった。
読んで頂きありがとうございます!!
昨日更新できずに申し訳ありません……。
執筆速度が上がる魔法を使えるようになりたい(切実)
2メートルはありそうな大柄な男。綺麗に切り揃えられた口髭が特徴的で、歳で言えば初老くらいだが、どことなく若々しい。
二級冒険者とは、冒険者を階級に分けた時に上から3番目に当たる階級のことだ。
冒険者の階級は上から特級、一級、二級、三級、初級と分けられている。特級から二級までを上級冒険者、三級と初級を下級冒険者と分けることもある。
「試験を受けるのは誰だ?」
「俺です」
一歩前に進んで答える。
セレーナ、アカネ、リリーは試験を受けない。色々な理由はあるが、冒険者ギルドに身を置くと制限が多くなるというのが主な理由だ。
俺の場合は仕方がないので、諦めて試験を頑張ろうと思う。
「名前は?」
見定めるように俺を見ていたガイドさんが問う。
「ユーリです」
「ユーリ、お前は何故冒険者になりたい?」
え、何故って……
「お金がほしいからです」
俺は開き直って正直に言った。
誤魔化したって仕方がないし、お金が無くて困ってるのは本当なんだ。
「ガハハハッ、そうか! 金がほしいか! 潔し、見込みあるぞユーリ」
「あ、ありがとうございます……」
突然笑い出し、何故か褒められた。
軽蔑されるよりはいいけど、これはこれで反応に困る。
「先輩冒険者としてアドバイスするが、冒険者として長生きしたければ、『冒険する理由』を見つけることだ」
冒険する理由……。
「冒険者は死と隣り合わせになることがたくさんある。理由はなんだっていい。お金のため、あるいは大切な人のためとかな」
そう言ったガイドさんの言葉には、その言葉の意味以上に重みがあるような気がした。
「まっ、まだ冒険者でもないのにこんなこと言われてもピンとこないか」
笑うガイドさんから視線を変えてセレーナたちを見る。
大切な人のため……それならよくわかる気がした。
セレーナたちのためなら俺はどんなことでも頑張れる。きっとそういうことなのだと思う。
「話がそれたが、それじゃ試験を説明する」
ガイドさんが真面目な顔に戻って説明を始める。
簡潔に言うと試験は2部制で行われる。1つは冒険者としての資質・適性が試される冒険の部。もう1つは純粋な戦闘能力が試される模擬戦の部というものだ。
冒険の部では実際の依頼に近い形式で試験を行い、試験官に指示された素材を入手して納品するというものが一般的らしい。模擬戦の部は名前から想像できるとおり、試験官と一対一で模擬戦を行うとのことだ。
俺の予想では模擬戦だけだと思っていたので、かなりしっかりとした試験なのだと印象を改めさせられた。
「まずは冒険の部から始める。依頼はランタン山に生えている『ホシキノコ』を1つ納品することだ」
後からリリーに聞いたのだが、ホシキノコは五芒星の形をした傘が特徴的なキノコらしい。
薬の材料として使われることが多いが、希少性が高くギルドでは常に採取依頼が出ているほどだという。
「制限時間は日没までだ。情報収集を始め、達成方法は任せる」
今が昼前くらいだから割と時間はありそうだ。
「俺はギルドで待ってる。ユーリ、期待してるぞ」
「はいっ」
ガイドさんは手を振ってギルドの方へ戻って行った。
「それじゃ、俺たちも行こうか」
「はーい」「はいっ」「……ん」
***
ランタン山はリリーの家と町を一直線に結んだ丁度中間の地点に存在する大きな山だ。
規模で言えば集落周辺の山々にも及ばないが、町周辺の山の中では最も大きな山である。
俺たちは町を出て、早速転移魔法で山の麓まで来た。
「ユーリ様、ホシキノコは4人で手分けして探したとしても運が良くて1つ見つかるかどうか、それほど希少なキノコです」
眉を下げ、どうしましょうと困った風にリリーが言う。
「リリーはホシキノコを見たことはある?」
「山で見たことはないですが、町でなら見かけたことがあります」
「それなら簡単に手に入る方法がある」
「え、それはどんな魔法なんですかっ?」
興奮した様子でリリーが尋ねる。
「まぁまぁ、実際にやってみせるから。それとリリーの協力も必要だからよろしくね」
それを聞いた途端、リリーは「えぇぇ!?」と深刻そうな顔で俺に訴える。
「僕、魔法なんか1つも使えませんよ!」
「魔法を使うのは俺だから、そうじゃなくてリリーにしてもらいたいのはホシキノコを思い浮かべて欲しいんだよ。できるだけ鮮明にね」
?を浮かべるリリー。代わりにセレーナが俺に聞く。
「ユーリくん、何をするの?」
「簡単に言うと、リリーの記憶の中にあるホシキノコを俺が思念魔法で共有して、探索魔法で山全体を探る。そして見つけ次第転移魔法で手元にホシキノコを転移させるって感じかな」
相変わらず理解できませんと言ったリリー、更にセレーナまで首を傾げてしまった。
あれ? そんなに複雑なことではないと思うけど……。
「ユーリのやることは意味がわからない。考えてはダメ……」
唐突な相棒からの不意打ちに心が痛む。
そ、そんな言い方しなくても……。
「そうだね!」
「ユーリ様のお考えを想像できないのは当たり前のことですよね」
2人も納得してるし!
ちょっ、新手のイジメですか?
「俺、変なこと言ってないよね?」
「「「……」」」
「3人とも目を逸らさないでよ!」
俺が何をしたって言うんだ!
「認めて。ユーリは他とは違う」
「認められるか!」
「ユーリくんはユーリくんだよ」
「それは今言われると複雑な気持ちに……」
「ユーリ様はきっと違う世界からいらっしゃったんですよね」
「それは……間違ってないな」
リリーの「え? そ、それは」という声を聞き流しながら俺は話題を変えるべく魔法に取り掛かることにした。
「話が逸れちゃったけど、とっととホシキノコを採取しよう。リリー、準備はいい?」
「え、あ、はいっ」
リリーが目を固く閉じる。
少し待ってから俺は思念魔法を使う。
思念魔法を使うときのイメージはラジオの選局に近い。自分の意識を相手の周波数に合わせるように魔法を使うことが大切だ。
リリーの意識に合わせ、自分の意識を変えていく。そして受信したリリーの思念が徐々に自分の中へ映し出される。
最終的にはプロジェクターで投影されたようにはっきりとホシキノコの形や色がわかった。
「よし、わかった。リリーありがとう」
「はいっ!」
俺はすぐに探索魔法を使う。
範囲は山全体。これくらいなら余裕だ。
リリーと共有したホシキノコのイメージを探索魔法に反映させる。
俺を中心にレーダーの如く探索魔法が続々とホシキノコを確認していく。山全体を確認するのに1秒もかからなかった。
確認したホシキノコを即座に転移魔法を使って手元に転移させる。
俺の目の前にホシキノコの山が出来ていた。
「こんなもんかな」
全部取っちゃうとそれはそれで問題になりそうだし、半分くらいで止めといた。
「ホシキノコがこんなに……」
「わぁー大量だね」
「……変な匂い」
リリーは口が開いたまま停止、セレーナは楽しそうにホシキノコを手にとって見ている。アカネは鼻をつまみ直ぐに俺の影へ避難した。
確かにちょっと変わった匂いかも。
後から知った話だが、ホシキノコの正攻法な探し方はとにかく暗い場所で独特な匂いを頼りに地道に探すしかないらしい。
余談だが、暗闇の中で発光する姿からホシキノコという名前がついたらしく、形が由来ではないのが意外だった。
空を見上げると、ほとんど太陽は動いていなかった。
大量のホシキノコを空間魔法で取り出した大きめの麻袋のような袋に入れて担ぐ。
「それじゃ、戻ろう」
「はーい」「はいっ」「……ん」
所要時間10分。入手したホシキノコ54本。
ギルドの記録を更新したのは言うまでもないのであった。
読んで頂きありがとうございます!!
昨日更新できずに申し訳ありません……。
執筆速度が上がる魔法を使えるようになりたい(切実)
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