魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

24 出発




「新郎ユーリよ、其方は新婦セレーナをつがいとし、共に生涯を終えることを龍神アミナス様の名の下に誓えるか?」

「はい、誓います」

「新婦セレーナよ、其方は新郎ユーリをつがいとし、共に生涯を終えることを龍神アミナス様の名の下に誓えるか?」

「はいっ、誓います」


「うむ。ではここに新郎ユーリと新婦セレーナがつがいであることをドラフヘン長、ベルホルトが認める!」





 ***



 火の月24日。

 空は雲一つない晴天。暖かな日差しと、心地よい風が吹いている。

 木々が揺れる音、鳥が鳴く声。

 どれをとっても俺の心を癒してくれる。

 そして何より、ここにはみんながいる。

 大切なみんながいるこの場所を守るためとは言え、ここを離れるのは寂しい。

 また帰って来られる。というか、いつでも帰って来られる、とは言いつつも寂しいものは寂しいんだ。

 思っていたよりも、俺は寂しがり屋なのかも。

「どうしたの?」

 すぐ隣にいるアカネが俺の雰囲気を感じ取って聞いてくる。

 最近、本当に鋭くなってるよね、アカネ。

 それとも俺がわかりやすいだけ?

「いや、大したことじゃないよ」

「何?」

 あまりの剣幕に俺はおずおずと答える。

「……これから出発するから集落が恋しいというか、離れるのが寂しいって思っただけだよ」

「私はユーリがいれば寂しくない」

「……そうだな。今は一人じゃない」

 アカネの素直な言葉に俺はすっぽり何かが収まるように納得した。

 グダグダ言ってたって仕方がない。やると決めたならしっかりやり切ろう。

 森の外にある世界が今、どんな状況なのか調査する。

 龍帝国の侵攻がどれほどなのか、この目で確かめるんだ。

 そう、俺たちは今日調査班として森の外へ旅立つ。

 メンバーは俺、アカネ、師匠(基本剣状態でお願いしてるけど)そして――――

「ごめーん! みんなお待たせ!」

 嫁のセレーナだ。

 俺の嫁……よめ……ヨメ…………。

 やばいニヤケが止まらない。

「痛ッ!?」

 痛みのする方を見ると、アカネが力強く俺の足を踏みつけていた。

 え、何で!?

「あのアカネさん?」

 そう呼びかけるとアカネは足を退けて、何も無かったような風を装う。

 だから何で!?

 この感じは理由を聞くな的なやつだとわかり、仕方なく俺は気持ちを切り替える。

「みんな準備は良さそう?」

「……ん」

「あ、ちょっと待って…………はい、コレ」

 セレーナは自分のポーチから青いストーンがついたペンダントを取り出す。

 そしてそれをアカネに渡した。

「それって」

「うん、ユーリくんとお揃いの御守りだよ。それとわたしもね!」

 セレーナはそう言って首にかけているペンダントを持ち上げて見せる。

 俺も真似して自分のペンダントを持ち上げた。

 透き通った青色が光に当たってキラキラと輝く。

「……あり、がと」

 アカネは視線を逸らしながらも、小さな声で言った。

 その口元が少し緩んでいるように見えるのは気のせいではないだろう。

「うんっ! そうだ、わたしがつけてあげようか?」

 小さな声だったが、ちゃんとセレーナには聞こえていたみたいだ。

 セレーナもニコニコして嬉しそうだ。

「それはいい」

「何で!?」

「ユーリ、つけて」

「俺?」

「うん」

 突然の振りに若干驚きつつも、別に断るようなことでもないかと思いアカネからペンダントを受け取る。

 そして、徐に留め具を外してその両端をそのままアカネの首の後ろに回す。

 真っ正面からやっているため顔が近づくが仕方がない。仕方がないったらない! そこ、後ろからつければいいとか言わない。

 まぁ家族なのだからそこまで意識することはない。これがセレーナだったらつける前に悶え死ぬ自信がある。

 そんなこんなでペンダントをつけ終える。

「いいね。似合ってるよ」

「ん……」

 アカネはさっきよりも更に嬉しそうな表情を見せる。

「ユーリくんの……バカ」

「え?」

 セレーナは小さな声で呟いていたためよく聞こえなかった。

 それよりもアカネとは反対に、ニコニコしていたはずの表情が真顔に変わっていた。

 うん、触らぬ神に何とやらだ。時すでに遅しった感じが否めないけど……。

 先ほどからずっと静かな師匠はというと、最近は人化状態でずっといたから、久しぶりに剣状態になったら熟睡モードになってしまったのだ。だから反応が全くない。

 まぁそれはそれで別にいいんだけど。龍剣としての力は使えるみたいだし。

 ひとまず、みんなお揃いのペンダントもつけたし(師匠の分もちゃんとあるらしい。さすがセレーナだ)いよいよ出発か。

 結局、調査は俺を含めたこの4人で行く。師匠は剣状態だから、実質3人かな。

 もう少し班員を増やした方がいいのかもしれないけど、連携訓練などに時間をあまりかけてはいられない。

 班員を増やして連携を取りづらくするよりも、俺とアカネの阿吽の呼吸とも言えるコンビネーションの方が戦力的にいいと判断した。

 いざとなれば転移魔法と空間魔法の二重魔法である『ワープゲート』を使えば集落とを繋ぐ距離を無視した穴を創れる。そこから増援を連れて来れるはずだ。

 まぁそれについて今は置いておこう。

 そんなことを考えていると、落ち着きのある渋い声が俺たちに届く。

「ユーリよ、もう行くのか?」

 声の主は長だった。

 その声はどこか寂しさを感じさせた。

「うん、行ってくるよ」

 俺まで湿っぽくてはダメだと思いできる限り明るく努めて返す。

「そうか、くれぐれも気をつけるのじゃぞ? と、別れの挨拶は昨日すませたのじゃったな。これ以上は小言になってしまいそうじゃ」

 長は笑って、それから一言だけ言う。

「儂はあの巨樹で待っておる、お主たちの帰りをな」

「うん、絶対に帰ってくるよ」

「うむ」

 俺の言葉に満足してくれたのか、長は優しい笑顔を見せてくれた。

「ユーリ第五班長」

「団長……」

 長の後ろから現れた団長はその体格も相まって迫力がある。

 その迫力に背筋が反射的に伸びた。

「最善を尽くし、その任を必ずや遂行してみせよ! 期待している」

 期待している、その言葉が無性に嬉しかった。プレッシャーをかけようとしているのではなく、俺を本当に信じてくれているってわかっているから。

「はいっ!」

「そして、ユーリくん」

「はいっ、団長」

「今はお義父とうさんと呼びなさい」

「はい? お義父さん」

 緊張が一瞬にして疑問に変わる。

「さっきのは団長として、そしてこれは父親として一言――――娘を頼む」

 その顔はさっきまでの迫力とは違う温かさに満ちた表情だった。

 俺は自分の都合でセレーナを連れて行く。

 本人セレーナがそれを望んでいたとしても、危険が伴う場所に連れて行く以上それは関係ない。

 きっとお義父さんは行かせたくないはずだ。行かなくてもいい危険が潜む場所に大切な娘をわざわざ行かせたいとは思わないだろう。

 それでも娘と、そして俺の気持ちを尊重してくれた。

 それが何よりも嬉しい。

 昨日の模擬戦たたかいで俺の覚悟が伝わったのだと思いたい。

 だからその思いを裏切らないと改めて誓うように俺は返事を返した。

「はいっ!!」

 そして団長……お義父さんは一度頷いて、満足そうに笑った。

「――――ユーリッ!!」

「母さん」

 走ってきた母さんは俺のところまで来ると、いきなり俺を抱き締める。

「間に合って、よかった」

 今朝、母さんは家にいなかった。急な仕事ができてしまったのかと思っていたけど、どうやらそれは違かったみたい。

「これを作るために食材を集めていたら思ったより時間がかかってしまった」

 俺から離れた母さんは照れながらその手に持つ大きな弁当を見せる。

 きっと俺の好物をたくさん作るために頑張ってくれたのだと、聞かなくてもわかった。

「いってらっしゃい」

「いってきます」

 母さんから大きな弁当を受け取り、大事に抱える。

 凛として華のある母さんの笑顔、その目元は赤く腫れていた。

 母さんのためにも定期的に帰ってこよう。

 それから俺はこれから共に調査に向かう2人を見る。

「よし、改めて準備はいい?」

「うんっ!」

「んっ」

 2人は期待通りの明るい返事を返してくれる。

 そして、再び俺は母さんたちの方へ振り返った。

『いってきます』

 打ち合わせなどしていないのに、俺たち3人の声は重なり合った。

 それに合わせて俺は魔法陣を展開させる。

 蒼い輝きを放つ魔法陣は俺たちを一瞬で転移させるのであった。



 読んで頂きありがとうございます!!

 結婚式は省略しました。
 物足りなさはあると思いますが、このままだと集落に引き篭もりそうだったので出発させました。(異世界冒険をのたまっていますし……)
 ということで、これからが3章本編って感じです! 導入部分が長くなりましたが……。

 ユーリたちの冒険にお付き合いください!

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