魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

29 迷宮2

 記録の魔書ログ・グリモアの力によって、迷路を切り抜けた俺たちは新たなる扉に辿り着いた。

「やっと魔法の迷路も終わりか」

「長かった」

 どうやらアカネも迷路には手をやいたご様子だ。

 確かに、同じような道を繰り返し右へ左へと進むのは中々苦難と言える。

「次へ進めるか? 休むか?」

「大丈夫、私はいける」

 次の扉を開く前に、一言アカネに声をかけるがその心配は無用だった。

 俺の相棒はやっぱり頼もしい。

 若干の疲れは無視して、俺たちは次の扉に手をかける。

「よし、いくか」

「うん」

 俺たちは次への扉を開く。

 あわよくば、最深部でありますようにと――――

 案の定、扉の先は最深部ということはなく、新たな試練が俺たちを待っていた。

 わかってたよ、うん。

 次の試練は……

「浮遊する足場を飛び跳ねていけってことか?」

 人ひとりがギリギリ立てる小さな足場が、池に浮かぶ枯れ葉のように宙を漂っている。

 今いる場所から下を覗けば、底が見えない闇が広がっていた。

 そして、何とか肉眼で見える先に、次へつながるであろう扉がある。

 肉眼で見える距離なら転移魔法で転移できるはずだ。

 ちなみに転移魔法の転移できる先の条件は、一度でも行ったことのある場所か、目に見える場所だけだ。

 転移魔法を展開するが、完成するよりも前に魔力が霧散してしまう。

 これは森の上空と同じ環境ってことか?

 飛翔魔法で戻ろうと試したときに、上手くいかなかったことを思い出す。

 ということは、飛翔魔法も使えないということ。

 しかし、魔力が使えないわけじゃない。

 試しに魔力を具現化してみる。

 具現化はするが、先の方から魔力が霧散してしまう。

 つまり、魔力を外部に存在させ続けることができない。

 うーん。

 頭を抱えたくなるような状況の中、ちらりアカネの方を見ると、魔獣の姿で色々な魔法を試していた。

 アカネがサンダーフォルムを一瞬だけ発動させる。

 それを見て、俺はあることを思いつく。

 待てよ。一瞬でもサンダーフォルムが使えるなら、足場と足場の距離が広いところでも跳び乗ることができるはずだ。

「アカネ――――」

 ***

「よし、いくか」

 アカネに打開策を伝えて、跳び乗る足場に見当をつける。

 サンダーフォルムを試しに発動させて、どれくらい保てるか確認する。

「だいたい1秒か……まぁ十分だな」

「うん」

 確認するまでもなくアカネは大丈夫そうだ。

 俺は数々の戦いでボロボロになった靴もどき(足袋に近い)の紐を、気合いを込めてきつく縛り付ける。

 そして、軽く屈伸運動をしてから最も近い足場へと跳ぶ。止まることなく、次の足場へと身を移す。

 少しでも足を踏み外せば、底の見えない闇に真っ逆さまだ。

 だが、怖くはない。

 それは死線を幾度も潜り抜けてきたからか、それともただの強がりか。

 いや、アカネがいるからかもな……。

 そうと言えるほどに、アカネと過ごしてきた時間は俺をより強くしてくれた。

 踏み込む足に不思議と力が入る。

 次の足場をすばやく確認すると、少し距離があるがサンダーフォルムを使えば問題ない。

 ここぞとばかりに雷をビリビリ鳴り響かせ、一瞬にして目的の足場へ跳び乗る。

 足をつけたところで雷は消えるが、無事に成功だ。

 横目でアカネを見ると、難なく狼の身軽さで次々と跳んでいる。

 俺たちは先ほどの迷路より、格段の速さでゴールに近づいていた。

 しかし、迷宮はそんな簡単に攻略できるほど易しくはない。

 跳び乗ろうと狙いをつけた足場が突然崩れ去る。

「なっ!」

 思わず声が出る。

 それを皮切りに次々とめぼしい足場が崩れ始めた。

 まずい!

 俺は不覚にも安心感を感じていた頭を、ハンマーで殴られ目が覚めた気持ちになる。

 ここは迷宮なんだ。そう易々といかせてはくれないよな。

 目が覚めて、急速に回転する頭で跳び乗れる足場を的確に判断して跳ぶ。

 サンダーフォルムを連続で発動しながら、先ほどよりも数倍の速さで扉を目指す。

 軽やかなアカネが要領よく、俺を抜かして前を跳んでいる。

 すごいな。

 あまりの軽快さに、感心して今置かれている状況を忘れそうになる。

 俺はアカネの魔法ばかりに目がいっていたが、本来魔獣としての身体能力の高さがあることを失念していた。

 これはマスターとして、落ち度があったと認めるしかない。

 もっとアカネの能力を生かした戦術を考えないと、アカネに見限られちゃうな。

 扉がすぐそこまでの距離に来た。

 最初の半分以下まで減ってしまった足場を要領よく跳んでいく。

 前にいるアカネが最後の足場に足をつけたその時、その足場が崩れる。

 声を出す前に、俺という存在すべてがアカネを助けようと動く。

 体に流れる魔力は当然のように雷に変わり、踏み込む足は元々そうするつもりであったように自然と、筋肉が縮んで力を溜める。

 解き放たれた力は、バランスを崩したアカネに向かって一直線に進む。

 アカネのもとへ辿り着くのは瞬きをするよりも速く、そして力をそのまま移すようにアカネを扉へ投げる。

 頼むぞ、アカネ。

 不安はない。

 そうすることが2人助かる最善の方法だからだ。

 落下する時の浮遊感が懐かしく感じたのは可笑しな話かもしれない。

 魔法がある世界に慣れすぎて、こんな感覚になっているなんて、昔の俺が聞いたら目を輝かすな。

 闇に背を向けて、浮遊感を全身で感じながらゆっくりと俺は落ちていく。

 アカネを見ると、その目は絶望の色なんて全くなく、やるべきことを確実に果たす――――そう言った目だった。

コメント

  • 黒眼鏡 洸

    輪廻転生様
     コメントありがとうございます!!
     そう言って頂けて本当に嬉しいです!

    0
  • 輪廻転生

    ユートとアカネの主従関係いいな~

    1
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