魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

21 黒い人影

 足を踏み出す度にカサカサと地面が鳴る。

 枯れ落ちた葉が重なり、自然の絨毯が引かれているようだ。

 黒く腐食した地面と、そこに生える木々もまた薄黒く、異様な雰囲気を醸し出す。

 木の先が見えないほど高い木々は、己を主張するかのように太く育っている。

 全く音がしないほど静かなのに、魔獣の気配が喉元にナイフを突きつけられたように感じる。

 互いに突きつけ合うナイフが、そこら中にあるのが目に見える。

 それに触れないように俺たちは足を進める。

 嫌な緊張感が体中にのしかかり、重りをつけたように体が動かしづらくなる。

 精神的にも身体的にも、これはかなり疲れるな……。

 極力、魔獣のテリトリーに入らないように進む。

 俺は少し後ろを見る。

 アカネも俺から数歩下がって付いて来ている。大丈夫だな。

 薄暗くてよくわからないが、時間はまだ昼頃のはず。

 夜になる前にできる限り奥へ進みたい。

 今でさえ薄暗い道だ。夜になってしまえば、目を頼ることはできなくなるだろう。

 それに、夜の方が魔獣が活発なようにも感じる。

 いくら警戒していたとしても、こんな魔獣の巣窟だと何が起きてもおかしくない。いや、何も起きて欲しくないけども。

「……っ!」

 俺はアカネに止まれと合図し、目の前にいるものを見る。

 確かにいる。魔眼でも魔力の動きが見えた。

「人……なのか?」

 黒い人影は二本の足で立ち、二本の腕をもつ。少し距離があるため、顔や背丈はわからない。

 それにしては、魔力の量も動きも人並みを外れているよな。まぁ、俺が言えたもんじゃないけど。

 俺はあることに気がつく。

「尻尾がある?」

 まさか龍人なのか? いや、そんなことは……ありえなくもないか。

 過去に訪れた龍人が、今もこの森で生きている……。

 いや、魔獣の可能性だってある。というよりも魔獣の可能性が高い。

 でも、龍人という可能性に賭けてみるか?

(アカネ)

(どうしたの?)

(目の前に龍人らしき存在がいる)

(えっ)

 思念魔法で会話しているからか、アカネの驚きようがダイレクトに伝わる。

(まだ確証はないけど、声をかけてみようと思う。いいか?)

(……わかった)

(ありがとう)

 アカネの許可も得た。

 念のため、魔法を放てるように準備しておこう。

 仮に龍人だとしても、相手が友好的とは限らない。

 俺は1度、深呼吸をしてから話しかける。

「あ、あの! あなたはここに住んでいるんですか?」

 あ、しまった。あいさつを忘れてた。

 人と会う機会がなくなったから、初対面の人との話し方とかわからない……大丈夫か?

「……」

 沈黙が返ってくる。

 やばいっ! 怒らせた? これ、怒らせちゃったやつだよね? うわーどうしよう……。

(ユーリ、うるさい)

(あ、ごめん。思念魔法きり忘れてた)

 アカネに怒られてしまった。

 俺は再び人影に意識を向ける。

 人影は尻尾を左右に揺らして、こちらの様子を伺っているように見える。

 目が合った。

 黄金色の眼光が俺を捉えている。

 明らかに友好的な雰囲気とは思えない……というよりも、これは殺気だ。それも狩人のような、獲物を狩るときに感じる静かな殺気。

 俺たちは獲物か……負けない。

「ッ! ……ガウぅ」(っ! ……ユーリぃ)

「アカネ!」

 俺は一瞬にして、アカネのもとへ下がる。

 気を失い倒れ込んだアカネを抱きかかえ、俺は周囲の変化にやっと気がつく。

 これは毒ガス……それも魔力が感じられる。

 毒魔法か。

 毒魔法は、その名通り毒を創り操る魔法だ。

 俺は毒魔法を会得しているため、弱い毒なら効かない。そのため、こんな単純な攻撃に気がつけなかった。

「治癒よ」

 俺は治癒魔法でアカネの毒を消す。

 しかし、アカネの意識は戻らない。

 魔力の流れは正常だ。大丈夫。

「ごめん、アカネ。少しだけ待っていてくれ」

 俺は地面にアカネを寝かせ、結界魔法をアカネの周囲に施す。

 そして、再びに向き直し睨みつける。

「お前は俺の家族・・を傷つけた……絶対に許さない!」

コメント

  • 黒眼鏡 洸

     コメントありがとうございます!!
     2章もいよいよ最終場面に変わってきました!
     これからもお付き合い頂けたら幸いです。

    0
  • 奈月

    あと何話で森をでますか?

    6
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