魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

47 暴竜

 




「サンダァーフォルムっ!!」

 俺の全身にいかずちが走る。雷をまとうことで、俺は高速移動を可能にする。だが、まだ足りない。これ以上の速さは、俺の身体からだに負担がかかるが、今はそんなことを言っていられない!

「強化っ」

 全身に激痛が走る。身体が限界だと訴えてくるが無視だ。俺は左足に重心をかけ、右足を思っいきり踏み込む。――電光石火。稲妻が閃くように、火花が散るようにいかずちは俺の想いと共に強さを増す。

 恐怖のあまり、固まっている子供に向かって右手を伸ばし飛び出す。

 ――ま、に、あ、えぇーー!!

 俺は子供に手が届いた瞬間、子供を抱き込み背中で衝撃を抑えながら地面を擦る。子供が先程までいた所には、マンホールより少し大きいくらいのクレーターができていた。

 クレーターを作った犯人と目が合う。宙で佇むそいつは、獲物が増えたとでも思っているのか、嬉しそうに見えなくもない。

 やっぱり、竜の仕業か。あれは……確か、暴竜だったか?

 ――『グラトニードラゴン』。通称『暴竜』はその気性の荒さと、手当たり次第に獲物にくに喰らいつく暴食さから、全ての種族から疎まれている存在だ。

 さらに、暴竜は群れを成して行動する。一匹のみならば上級ほどの力だが、数体から十数体で群れを形成するため、それがまた厄介この上ない。

 だが、今いるのは一匹のみだ。

 何で……まさか!?

 俺の思索は、先の暴竜の邪魔によって一時中断される。俺は子供の前に、庇うように立つ。

「安心して。俺が――守るから」

 それは決意にも近い、心の中にあって動かすことのできないもの。俺の原動力と言っても差異はない。

「うん。お兄さん、ありがとう」

 落ち着いて見ると、あどけない女の子だと気がつく。その顔はやけに赤く、少し心配になる。今は、ひとまず暴竜を何とかするべきだと考え、頭を軽く撫でて後ろに下がっているように伝える。

「お前を生かしておけば、多くの人が泣くことになる。それは許されない。悪いが――お前は俺が倒す!」

「ギャオォォっ!!」

 暴竜が俺の言葉に反応するように咆哮する。しかし、そんなものでは俺は怯まない。それを超えるほどの試練を俺は乗り越えてきた。俺は暴竜を睨む。ただの、睨みではない。全力の殺気を込めた睨みだ。

 暴竜は反射的に警戒し、後ろに下がる。

「お前は三手で仕留める……」 『アイスチェーン』

 俺がそう呟くと、暴竜を囲むように魔法陣が展開されていく。暴竜が抜け出そうとした瞬間、展開された魔法陣から氷の鎖が暴竜に巻きつく。氷の鎖によって縛られた暴竜は、宙で暴れまわるが氷の鎖はビクともしない。

「ギャッ! ギャッ!」

『サンダーランス』

 身動きの取れない暴竜に、俺は特大の雷槍を繰り出す。絶対不可避の攻撃は暴竜の腹部を貫く。

「ギャァァァーーッ!!」

 俺は氷の鎖を解く。暴竜は飛ぶこともできず、そのまま地面に落下する。地面に倒れている暴竜は、さすが上級魔獣と言うべきか辛うじて息がある。だからと言って、容赦はしない。

「最後だ」

 俺は集中する。使うのは土魔法<上級>だ。

「求めるは土。荒ぶる大地よ、その牙を突き立てろ」
『ウィルダネスファング』

 暴竜の下に展開された魔法陣から、創り出される土の柱が暴竜を貫いていく。それは詠唱の通り、大地の牙を思わせる。暴竜が鳴くことは、もうない。

 俺は後ろを向き、女の子の様子を確認する。木の陰からひょこっと顔が見える。目と目が合ったので、安心させる意味も込めて俺はニコッとする。すると、何故か女の子はまた木の陰に隠れてしまう。

 あれ? 俺、怖くないと思うんだけどなぁ……。それはいいとして、とりあえず安全なところまで連れてってあげよう。

『ゴォーン、ゴォーン』

 この鐘の音は、中央広場に集合という意味をもつ。集落に住む全ての人を集めるらしい。やはり、暴竜の群れが集落に襲ってきたのかもしれない。俺は中央広場に向かうことにする。

「お兄さん……」

「うん、行こう。大丈夫、心配しないで。なんたって俺の母さん……武龍団の人たちがいるからね」

「うんっ! お兄さんもいるもんね!」

 ははは、俺は武龍団員じゃないんだけどなぁ……まぁいいか。





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