魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

9 誕生日

 転生からもう直ぐ一年が経とうとしている。

「ユーリ! 明日はお前の誕生日だな。何か食べたいものはあるか?」

 俺の正確な出生がわかっていないため、アーテルさんに拾われた日が誕生日となった。転生した日はその日なので、あながち間違いではない。

 うーん、何だろ? あ、チイゴの実は甘くて好きなんだよねー。

 チイゴの実は、イチゴのような味がする赤い果実だ。って、それもうイチゴですよね?

 俺は魔力を具現化して、チイゴの実の形を作り出す。最近は、魔力の具現化で意思疎通がある程度できるようになってきた。

「その形はチイゴの実だな! ユーリはチイゴの実が好きだからな。よし、わかった。明日はたくさん用意するから楽しみにしてるんだぞ」

「あーい!」 (やったー!)

 でもアーテルさん、たまに張り切り過ぎちゃうから程々にね。集落周辺のチイゴの実を獲り尽くすなんてことがないといいけど……。

 そう、俺は脱ミルクをしたんだ。長い戦いだった。初めは己との……そして、一番大変だったのはアーテルさんだ。

 ――「ユーリぃー、朝ご飯だぞー。ん? どうしたんだ? いらないって? な、何故なんだユーリ!? もしかして……わ、私のことが嫌いになってしまったのか? そ、そうなのか、ユーリ……」

「あ、あーうー」 (ち、違うよー)

「……違うのか? 本当か? うぅー、よかった。よかった……もし、嫌われでもしたら私は……なら何故なんだユーリ」

 俺は具現化を使って、一生懸命説明する。その場を見たものは目を疑ったことだろう。赤ん坊から具現化によって様々な形が生み出されていくのだから。

 そんな器用なことができる赤ん坊は俺、一人だけだろう。

「ふむふむ。……そうだな。そろそろだとは思っていたが、まさかユーリから言われてしまうとはな。でもなユーリ、ま、まだいいんだぞ。私はで、でるからな。飲みたくなったら言うんだぞ……」

 アーテルさん……。だ、ダメだ! 誘惑に負けては。俺は卒業すると決めたのだから。さよなら……愛しき白い泉――

 うん。何だろうこれ。穴があるなら入りたい……。はい、切り替え切り替え。

 脱ミルクをしてから、アーテルさんは何かと俺の世話を焼きたがる。

 木の実を潰したものを普段は食べているのだが、魔力の具現化を使えば自力で食べれるところをアーテルさん自ら食べさせてくれる。

 ありがたいんだけどね。あんまり、甘やかし過ぎるのも……。まぁいいかー。





 ***





「「「ユーリ(くん)! 誕生日おめでとう(なのじゃ)(ございます)!」」」

 今、俺たちの家にはアーテルさんはもちろん、長、ラルージュさん、そして娘のセレーナちゃんがきている。

 みんな、俺の一才の誕生日を祝いに来てくれた。

「あーい!」 (ありがとう!)

 うん……すごく嬉しい。誕生日を祝ってもらえる日が来るなんて、夢にも思ってなかった。アーテルさん、長のお爺ちゃん、ラルージュさん、セレーナちゃん、ありがとう。

 転生前は、誰も居なかったからね。ケーキ、プレゼントなんて御伽噺おとぎばなしとかそんなものだと思ってた。

 テーブルには沢山の料理が並ぶ。俺の目の前には、大好物のチイゴの実が山盛りになっている。

「うむ。ここは長である儂からユーリへ、祝いの言葉を贈りたいと思う」

 お、長……ありがたいんですが、短めにお願いします!

「なんじゃユーリ? ほっほっほっ。わかってるわい。そう長々と野暮なことはせんよ。儂からは一言じゃ――始まりの龍人、龍神アミナス様の御加護があらんことを」

 この言葉は、龍人族の中で最上の祝福を意味している。

 まぁ、実際に加護があるんだけどね。そんなことを言ったら、それこそ野暮ってものだ。

「うむ。では、森の恵みを頂くとしよう」

「あーい!!」 (はーい!!)

「ユーリ、そんなに腹が減っていたのか」

「ほっほっほ」 「うふふふふ」

 あはははー。はじゅかしっ! 思わず噛んでしまった……。





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