召しませ後宮遊戯~軍師と女官・華仙界種子婚姻譚~

簗瀬 美梨架

◆召しませ後宮遊戯2~小羊女官と皇帝陛下・華仙界への種は遙か~ 最終章

***** 

「あ、あれ見て!准麗」

 天空の耀に気がついた双子が、地上で手を繋いで、空を見上げている。

 紅鷹国の皇子と皇女。名をそれぞれ准麗、蝶華と言う。


 空が一瞬光って、流星になった。子どもたちは大喜びで、両親に知らせようと駆け出す。

「なあに?蝶華、准麗」

 二人の子どもに囲まれた小柄な皇后が座っていた蓮華の園から腰を上げた。

「お空が光った?…わたしも見てたから知ってるわよ…あ、すねないでよ、蝶華」

側にした肩掛けを揺らした光蘭帝飛翔が拗ねた少女を抱き上げる。

「教えたかったんだよな。そうだな……あのね、蝶華、准麗。あの空に向こうにはわるーい仙人がいてね」

「飛翔こそわかってないじゃありませんか!子供の夢を壊してどうするの?」
「本当の事だろう…あいつら悪さしているぞ」

 昔苦しめられた仙人を想いだしつつ、光蘭帝は微笑んだ。二人の頭を撫でてやり、蝶華を抱き上げ、准麗の手を引き、蝶華を肩車して歩き出した。
 また見つけた流星に、子供たちは笑顔になる。

「嘘だよ。……愛一杯の仙人たちが住んでいる。今のは、きっと、そうだな…――――」

星を追いかけた少年の代わりに、光蘭帝は明琳の手を取り、夜空を見上げる。

「正妃」

 笑顔で正妃が切り返した。

「私の名前ではないですわ」

「あー・・・明琳。そなたは眠れぬ私への嫌がらせに神様が寄越した御羊だったのだろう」

 まあ、何を?と明琳の目が細くなる。大きかった瞳は年々艶やかさを増していた。女性たる色気も持ち合わせた姿はかの蝶華妃以上である。しかもしばしば夫を困らせるような仕草まで覚えて・・・夢で蝶華妃があらぬ事を吹き込んでいるのではないかと光蘭帝は密かに思っている。

ふと、足下に気がついた。小さな蕗の薹だ。久しぶりに見たと光蘭帝はそれを摘んだ。

 伸びた髪を丁寧に結い上げた正妃・明琳が手籠から饅頭を差し出しながら笑う。

「本当によくお眠りですものね。今日も星翔が困っていらっしゃいました。皇帝がなかなか起きないと。先ほどの言葉はその言い逃れですの?いいと思うの。安らいでくれるならね」

 くすくす笑いながら、光蘭帝は明琳の小さな頬を両手で包み込んだ。

「最近はそなたが寝せない夜も多々あるな。いつから悪い羊になった」


などという相変わらずな台詞に妖艶に微笑む正妃の頭で、春を待つ、小さな蕗の薹が、微かに夜風に揺れた。



これは紅鷹国という国が遷都により完全に無くなる。その、僅か前の夜の事である。

尚、紅鷹承后殿の名前だけは、悪い仙人に振り回された大国の後宮事件の一つの戒めとして、史書に残ることになった。

もちろん、光蘭帝の名は伏せられ、史実と事実は大きく異なる。

因みに紅鷹国の古代国歴史史書『紅鷹国史』。紅鷹国の異変の項には、

『性悪華仙人宛一人於撃退、麗皇帝存在。史実現実美残也。正直的書不良発』

とのみ記されている。最後の一文に関して、現実を明るみにしようとする議論が為される事となった。


訳(性悪華仙人をたった一人で撃退した、麗しき皇帝が存在した。
史実は現実より美しく残すべきだ。従ってあまり正直に書かなくていい)


了 


※次回作はシリーズとして別枠の予定です。
ご愛読ありがとうございました。評価などお待ちしております。

結愛 みりか

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