召しませ後宮遊戯~軍師と女官・華仙界種子婚姻譚~

簗瀬 美梨架

◆召しませ後宮遊戯2~小羊女官と皇帝陛下・華仙界への種は遙か~ ⑦ー⑤

「ふむ…高さは悪くないな。出来なくはない」
「くすぐったいです」

 イヤイヤをしつつも望んでいる。乙女の下心を完全に見抜いた目が、明琳の胸元に吸い付いた。

「……ぁ」

 くすぐったさと、危険ななにかがじわりとやってくる。と、皇帝の声が綻んだ。

「じっとしているんだ。む、そなた、胸が膨らんだか?」
「御饅頭ですよ!」
「饅頭……」

 すっかり定着した胸の膨らみをもぎ取り、明琳は二つの饅頭を差し出したが、光蘭帝はじっと明琳を見つめてひとり、呟いている。

「聞こえません。皇帝さま」

 光蘭帝は目線を逸らし、ほんのりと目元を朱に染めて見せた。

「そなたの」
「聞こえません」
「そなたのささやかな饅頭も甘いのかと」

(わたしの饅頭???)じっと見下ろして、明琳は胸元が少し透けている状況に気付いた。

「もお、いやらしいことばっかり!」
「貴妃はそれが仕事だ」

「皇帝さまを嫌らしくさせるのが仕事ですか?わ、寒いんですけど!」

「大丈夫。和らげてから挿入する」

 挿入? 明琳は大きな瞳をぱっちりと開けたままで見上げる。がっくりと光蘭帝が脱力した。

「目をギンギン開けたままにするな。怖いなら瞑っていろ」

 明琳は頷いて、またじっと光蘭帝を見つめた。丁寧な仕草で、肩から着物を降ろされ、小さな花びらをいくつも散らせて、また唇を離す。その横顔は男らしくもあり、誘う遊女のようにも見える。それに口づける度にふるると揺れる睫も、その微かに立てる爪も、すべてが明琳を悦ばせようと動くのだ。

「腕を回して」
「は、はい……え……」

 深く口づけを受けている間に、何重にも纏った袂を広げられ、帯を緩められる。

「髪型を戻した?」

 ふわり、と光蘭帝の手が二つ縛りにした羊の角を持ち上げた。


 ―――――あんたはこっちの方が似合ってる。


 蝶華妃の言葉を思い出して、明琳は俯いた。灯りと火鉢の灯った室内は少しずつ、温かくなって来ている。

「蝶華さまが、わたしはこっちの方が似合うって言ってくれたの」
 光蘭帝は嫋やかな笑みを浮かべて、眼を細めて見せた。

「私と出逢った時も、この髪型だったな。…本当に庭にヒツジが迷い込んでいるのかと思った。
明琳。足を固くするな。少しばかり開いて欲しい」
「あの」
「わたしが入れない。わかるか? 今宵こそ、そなたの中に、わたしの一部分が挿入るんだ。これだ」

 手を導かれて、知らない扉に触れたような気分になった。びくん、と同時に涙目になった。が、構わず皇帝はその瞳を瞬かせる。

「そなたは小柄だから、もっと開いてくれぬと、いささかやりにくい」
「す、すみません…っ…」

「謝ることか。……まあいい、触るぞ…」
「ん」

 高級そうな着物に指を絡ませると、明琳はぎゅ、と首にしがみついた。明琳の四肢の中央を高貴な指が緩く撫でては離れて行く。

「潤っているな。……さすがはわたしの貴妃」

 心臓が落ちるかと思った。
 ――光蘭帝さまが、今、わたしの中に触れた……。

「触れるだけでは物足りない。そなたは言ったな。この世界は楽しいと。だが、そなたがいても、わたしの天界への憧れは止まぬ――……」
 顔をくっつけ合うようにして、唇を掬われる。
「わたしは天人になる」
「させません」

 ――皇帝さまの、種が欲しい。……それは愛する人へ希う女の子の普通なのかな。
蝶華、貴方は、誰の種をほっして――……

「――っ……」

 逞しい背中に爪を立てた。衝撃は脳随まで響いて、せっかく受け止めるために開いた両脚をガクガクと固くさせようとしてくる。

「恐いか」の声に、ぶんぶんと羊頭を振った。

 ――最初は、なんて哀しい人なんだろうって思った。家族をめちゃくちゃにして、わたしを牢屋に入れた時は、怖さしかなかった。

 遠い世界のひとなのに。変なの……。

「すっごい、近いです」
 両腕を外して、頬を包み込む。精悍な顔つきを指でなぞって、目元に指を這わせた。
 光蘭帝は舌なめずりをして見せた。

「行くぞ――……」

 明道が押し広げられる。四肢はまるで自分の身体じゃないみたいに、火照って熱い。
 感じる皇帝の熱さに焼け死にそうなくらい。迸りを体内に受け止めた瞬間、明琳の前に、知らない花が大きく咲き誇り、風景を裂くかの如く、乱れ散った。

「紅月季……古の華だ。そなたから、種が芽吹く。わたしを受け止められて嬉しいか」
「はい」

「古来の皇帝は、陰の気を発さないよう、迸りはしなかったそうだ。だが、どうしてだろう。明琳。そなたの中に、全てを預けたくなった。母の邪念も、世界への絶望も……こんなに世界は美しいか」
「天界なんか、行かないでよ……っ皇帝さ……ま」
「ああ、明琳……そなたと……っ」

 言の葉はそこで散る。 

 はらはらと涙を浮かべたまま、光蘭帝は指を強く絡ませる。自然に発する揺れは、大気の流れだ。
誰もが揺らされてきた、世界と言う名の。

 紅月季が緩やかに咲き、寝室を満たしていった。それはほんの一瞬の、光に満ちた花弁で。華に満ちた時間はどのくらいの長さだっただろうか。

 一瞬かも知れない。永遠かも知れなくて。

 いつしか上になった姿勢で、明琳もまた涙を浮かべていた。
 たぶん、これは別れだ。
 ――皇帝さま、行ってしまう……。

(わたしなんかじゃ、皇帝さまの絶望を希望には変えられない。残虐な皇帝一族なんて言って、ごめんなさい……貴方は、優しいんです……)

「天人になろう。この世界を捨てて。捨てたくなるほど、この世界を愛していただけです……き、っと……」
「そなたは捨てない」

やがて光蘭帝は再びゆっくりと、身体を推し進めて来て、最後の大きな迸りを撃ち込んだ。
腹に手を添え、衝撃に耐えて、――意識が飛んだ。

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