召しませ後宮遊戯~軍師と女官・華仙界種子婚姻譚~
◆召しませ後宮遊戯2~小羊女官と皇帝陛下・華仙界への種は遙か~ ⑤ー③
――魔!
「光蘭帝には、人間の機能を天人に近づけ、差し替えるために苦しみを抱えさせた。だから光蘭帝は眠らず喰わずとも生きてゆける。残るは愛情。一番厄介で苦しめる病原菌。それを手放し、蝶華が光蘭帝の魔を吸い込み産めば、光蘭帝は見事に天人に生まれ変わる。天界に魔のある人間は入れないからな……だが蝶華ではだめなのか…何故かは知らないが、あの女の身体はどこかおかしいのか…」
すたすたすた。
明琳が至近距離になった。
「なんだ」
ぱん!
頬を叩かれた白龍公主が驚きで目を瞠る前で、明琳は涙目できっぱり言った。
「蝶華さまにすぐに謝ってください!…貴方にはその理由はわかりませんよね!」
「ではお前は分かるのか?どうして蝶華は孕まない?俺を好きなら出来るだろう」
―――――蝶華さまは貴方が好きだからです!
怒りで吐き出しそうになって、明琳はどうしようもなくなって、涙を溢れさせた。
愛おしい人に抱かれてこそ、愛は実る。多分白龍公主には一生理解出来ないのだろう。だから、蝶華さまは光蘭帝の子など口で言う程望んでいない。
可哀想だ。蝶華さまが哀れすぎる。白龍公主がいいとは思えないけれど・・・―――――でもどうすることも出来ない!
じとっと明琳は白龍公主を見上げた。
「私の心が読めましたか」
「いや、おまえのきゃんきゃんわめく言葉を理解するのを忘れていた」
「なんで読まないんですかぁっ!」
ぽかぽか腕を振ると、白龍公主はくくっと笑った。
「っと・・・お前はよく俺を怒るな、小羊」
「めいりん、です!」
「では明琳、お前ほど俺を怒る女はいなかったぞ。そしてお前は俺との約束を護り、光蘭帝とは契りを持たずにいるようだな」
(やり方を知らないだけです!)とは言えず、明琳は俯いた。日に日に、光蘭帝への欲はゆっくりと育っている気がする。夜に来るのが当たり前だと思い始めたし、来れば抱き合うのも当然で、自分から唇を擦りつけることだってあった。
――でも、その度に自分が汚れる気がして来て、進めないも事実。混乱してきた。やっぱり仙人さまと自分の波長は合いにくい。違う、遥媛公主さまは考えてくださる。この人が考えなしなだけだ。文句言おうにも、蝶華さまは蝶華さまの考えの基、お慕いしているのだし。それでも、頭に来る物は、頭に来る。
「…もうもうもう!」
手当たり次第の野菜を掴み、明琳は白龍公主に向かって投げた。
「子供とか!愛情とか!……お金とか欲とか!そんなものばっかりで嫌です!好き、それだけじゃどうして駄目なの?!」
「俺に聞くなよ…もともと人も天人も欲から生まれた生き物だ」
「わたしは欲なんか要らない!…光蘭帝さまがいればいいの!」
っは…白龍公主が乾いた笑いを見せ、それなら、と顔を近づけて、明琳の顎を抓んだ。
「それなら、誰が一番欲が深いか知っているのか? 俺と遥媛? 蝶華か? それとも准麗か? すべてを手に入れ、安穏を掴み奪おうとした男がいる事を教えてやるよ」
聞きたくない。
拒絶の態度を見せた明琳に意地の悪い声が降った。
「お前がお慕いする、光蘭帝飛翔。天帝を狙うが為に、人に見切りをつけた」
「嘘です!」
白龍公主の瞳がまた冷たく瞬いた。
「では何故、ヤツは俺と遥媛を天界に返さないんだ? 簡単な事だ。東后妃の奪った俺たちの羽衣をヤツは持っている。どこを探しても見つからず、だから俺は遊戯を始めた。その暁には、光蘭帝を華仙人として天上へ迎える約束で! 何故か分かるか? そうしないと、俺も遥媛公主も戻れないからだ!」
鬱憤を吐き出すように白龍公主は告げた。
「何故争う! 何故に奪い合う! こんな地上など! 見捨てて当然だろうが! 俺は天界に残した妻がいたが、寿命で死んだ。牡丹の女だったが優しいいい女だった。おまえには分かるまい。蝶華が子を持てれば、光蘭帝を連れ去る。天の迎えはきっと来るだろう。遥媛などに負けてたまるか!」
明らかに公主は態度を激変させていた。あの、余裕で人を追い詰める部分がまるでない。
(あたしの御饅頭のせい?)
「公主さま」
明琳は持ち上げた野菜を膝に置き、項垂れた。
「羽衣があれば、お帰りになるのですね。光蘭帝さまに聞いて見ましょうか」
「無駄だ。あやつは返さない。一番この遊戯を楽しんでいるのが誰だかわかっただろう」
「光蘭帝さまはそんな人じゃないです!」
その時、ちょろり、と鼠の尻尾が見えて、明琳は飛び上がって白龍公主にしがみ付いた。
「あ、あああああ、あれどっかやってくださいぃぃぃっ」
「こいつ?」
「きゃあ! も、持ち上げないで!!」
ふん? と白龍公主は手の中に鼠を押しこめると、それはじゅっと音がして、瞬く間に消えた。凄い力だ。手の中にあるものをどうやって消すのだろう…明琳も同じく拳を作るが、爪が食い込んで痛いだけだった。
「お前に関しての、俺の考察を聞きたいか?」
さらりと言いながら、白龍公主は長い足で倉庫のドアを蹴飛ばした。ミシミシと音がして、倉庫が蹴破られる。「これに懲りて、人を信用せぬことだよ」と皮肉に言い、明琳は頷いた。
「それでも、蝶華を恨めないわたしは実は世界最高の愚か者かも知れないです。でも、それでいい。人を騙すなら、騙されて笑っている方がいいです」
言ったら、白龍公主はどう思うだろう。実はすべて思考を読んでいた白龍公主は見えないように微笑んでいたのだけど。
「光蘭帝には、人間の機能を天人に近づけ、差し替えるために苦しみを抱えさせた。だから光蘭帝は眠らず喰わずとも生きてゆける。残るは愛情。一番厄介で苦しめる病原菌。それを手放し、蝶華が光蘭帝の魔を吸い込み産めば、光蘭帝は見事に天人に生まれ変わる。天界に魔のある人間は入れないからな……だが蝶華ではだめなのか…何故かは知らないが、あの女の身体はどこかおかしいのか…」
すたすたすた。
明琳が至近距離になった。
「なんだ」
ぱん!
頬を叩かれた白龍公主が驚きで目を瞠る前で、明琳は涙目できっぱり言った。
「蝶華さまにすぐに謝ってください!…貴方にはその理由はわかりませんよね!」
「ではお前は分かるのか?どうして蝶華は孕まない?俺を好きなら出来るだろう」
―――――蝶華さまは貴方が好きだからです!
怒りで吐き出しそうになって、明琳はどうしようもなくなって、涙を溢れさせた。
愛おしい人に抱かれてこそ、愛は実る。多分白龍公主には一生理解出来ないのだろう。だから、蝶華さまは光蘭帝の子など口で言う程望んでいない。
可哀想だ。蝶華さまが哀れすぎる。白龍公主がいいとは思えないけれど・・・―――――でもどうすることも出来ない!
じとっと明琳は白龍公主を見上げた。
「私の心が読めましたか」
「いや、おまえのきゃんきゃんわめく言葉を理解するのを忘れていた」
「なんで読まないんですかぁっ!」
ぽかぽか腕を振ると、白龍公主はくくっと笑った。
「っと・・・お前はよく俺を怒るな、小羊」
「めいりん、です!」
「では明琳、お前ほど俺を怒る女はいなかったぞ。そしてお前は俺との約束を護り、光蘭帝とは契りを持たずにいるようだな」
(やり方を知らないだけです!)とは言えず、明琳は俯いた。日に日に、光蘭帝への欲はゆっくりと育っている気がする。夜に来るのが当たり前だと思い始めたし、来れば抱き合うのも当然で、自分から唇を擦りつけることだってあった。
――でも、その度に自分が汚れる気がして来て、進めないも事実。混乱してきた。やっぱり仙人さまと自分の波長は合いにくい。違う、遥媛公主さまは考えてくださる。この人が考えなしなだけだ。文句言おうにも、蝶華さまは蝶華さまの考えの基、お慕いしているのだし。それでも、頭に来る物は、頭に来る。
「…もうもうもう!」
手当たり次第の野菜を掴み、明琳は白龍公主に向かって投げた。
「子供とか!愛情とか!……お金とか欲とか!そんなものばっかりで嫌です!好き、それだけじゃどうして駄目なの?!」
「俺に聞くなよ…もともと人も天人も欲から生まれた生き物だ」
「わたしは欲なんか要らない!…光蘭帝さまがいればいいの!」
っは…白龍公主が乾いた笑いを見せ、それなら、と顔を近づけて、明琳の顎を抓んだ。
「それなら、誰が一番欲が深いか知っているのか? 俺と遥媛? 蝶華か? それとも准麗か? すべてを手に入れ、安穏を掴み奪おうとした男がいる事を教えてやるよ」
聞きたくない。
拒絶の態度を見せた明琳に意地の悪い声が降った。
「お前がお慕いする、光蘭帝飛翔。天帝を狙うが為に、人に見切りをつけた」
「嘘です!」
白龍公主の瞳がまた冷たく瞬いた。
「では何故、ヤツは俺と遥媛を天界に返さないんだ? 簡単な事だ。東后妃の奪った俺たちの羽衣をヤツは持っている。どこを探しても見つからず、だから俺は遊戯を始めた。その暁には、光蘭帝を華仙人として天上へ迎える約束で! 何故か分かるか? そうしないと、俺も遥媛公主も戻れないからだ!」
鬱憤を吐き出すように白龍公主は告げた。
「何故争う! 何故に奪い合う! こんな地上など! 見捨てて当然だろうが! 俺は天界に残した妻がいたが、寿命で死んだ。牡丹の女だったが優しいいい女だった。おまえには分かるまい。蝶華が子を持てれば、光蘭帝を連れ去る。天の迎えはきっと来るだろう。遥媛などに負けてたまるか!」
明らかに公主は態度を激変させていた。あの、余裕で人を追い詰める部分がまるでない。
(あたしの御饅頭のせい?)
「公主さま」
明琳は持ち上げた野菜を膝に置き、項垂れた。
「羽衣があれば、お帰りになるのですね。光蘭帝さまに聞いて見ましょうか」
「無駄だ。あやつは返さない。一番この遊戯を楽しんでいるのが誰だかわかっただろう」
「光蘭帝さまはそんな人じゃないです!」
その時、ちょろり、と鼠の尻尾が見えて、明琳は飛び上がって白龍公主にしがみ付いた。
「あ、あああああ、あれどっかやってくださいぃぃぃっ」
「こいつ?」
「きゃあ! も、持ち上げないで!!」
ふん? と白龍公主は手の中に鼠を押しこめると、それはじゅっと音がして、瞬く間に消えた。凄い力だ。手の中にあるものをどうやって消すのだろう…明琳も同じく拳を作るが、爪が食い込んで痛いだけだった。
「お前に関しての、俺の考察を聞きたいか?」
さらりと言いながら、白龍公主は長い足で倉庫のドアを蹴飛ばした。ミシミシと音がして、倉庫が蹴破られる。「これに懲りて、人を信用せぬことだよ」と皮肉に言い、明琳は頷いた。
「それでも、蝶華を恨めないわたしは実は世界最高の愚か者かも知れないです。でも、それでいい。人を騙すなら、騙されて笑っている方がいいです」
言ったら、白龍公主はどう思うだろう。実はすべて思考を読んでいた白龍公主は見えないように微笑んでいたのだけど。
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