召しませ後宮遊戯~軍師と女官・華仙界種子婚姻譚~
◆召しませ後宮遊戯2~小羊女官と皇帝陛下・華仙界への種は遙か~ Prologue2
***
――あう……やってしまいました。
雪原に白い饅頭が二個転がっている前で、小羊こと明琳は考え込む仕草をした。何てことだ。あと目的の宮殿まで少しと言うところで、蹌踉けて籠から饅頭が転がり落ちたのだ。
「拾っちゃおうかな」
ささっと落ちた饅頭を指で擦ると、雪のお蔭か、しっとりとしてはいるが、とても美味しそうに見える。要は数が整えばいい。
(どうせ皇帝さまは捧げた貢物を一切口にしないと言うのだから。こんなの茶番で体裁)
瞬時に籠に放り込んだ。ごろごろ転がして見たら、もうどれを落としたのかわからない。
――落とした饅頭、どーれだ。へへへへへ。
暢気に居座っている十個の饅頭を見てたらムカっ腹が立って来た。とん、と籠を雪の上に置いてその集団をじろりと睨み付ける。
ものは言わない饅頭がケケケと笑い声を上げそうなくらい、腹が立つ。
(考えてみれば何でわたしが宮殿に来なきゃいけないのよ。違う、おじいちゃんがいけないのよ。雪おろしなんてしなければ、ぎっくり腰になんてならなかったんだもん)
「ま、文句言ってても仕方ない!」
小羊頭の少明琳は基本悩むのが苦手で、悩んでも疲れて何に悩んでいたのかを忘れてしまう質だったりする。明琳はぱんぱん、と自分の膝を叩くと、雪の中に置いたままの手籠を持ち上げた。丁寧に敷いた布巾の上には蒸かし饅頭が八個。さらに拾った二個を足して、きっちり十個。だが、真ん中に隠れている饅頭は少し大きい上に不格好だ。
(う……。一目でわかる。これはわたしがやけくそで作ったものだわ)
――九個目を作り終え、ダウンした祖父の代わりに慌て設えたもののどうしても宮殿への奉納には十個必要で明琳は見様見真似で饅頭を捏ね、その大雑把な性格のまま突っ込んだ。やはり歪な饅頭は悪目立ちする。でも、どうしても十個必要で仕方なくて。
二度と作らないと決めた饅頭を捏ねるのは、度胸が要った。
(ごめんなさい、お父さん、お母さん)と呟きながら握った饅頭には二滴の涙が染みこんでいるから、多分甘くない。
不味そう。
「た、食べないでしょ、こんな不格好なの! こんな凄い場所におわすのだもの。綺麗な方を選ばれるか、捨てられるかだわよ」
明琳は改めて目の前の大きな宮殿を見上げ、眼を輝かせた。紅鷹承后殿。町民には開放しない皇帝宮殿は税をこれでもかと言うほどに搾り取って作られたというだけあって豪華絢爛。煌びやかな宮殿は美しいけれど、そんな町民の汗と苦労の象徴だ。
そして明琳の両親は………。
(ああ、思い出したくもない。うん、思い出すのはやめよう)
明琳は双眸を強く伏せ、そっと柱に手を置き、雪の降る空を切り取るかのような大きな天蓋を仰いだ。
(でも、ここにいる若き皇帝さまは、そんな現状を知らないんだきっと)
また腹が立ってきた。
日により、貢物を要求してくる皇帝に商人たちはチャンスとばかりに宮殿に馳せ参じ、取り立てて貰おうと頭を地面に擦りつけるそうである。そんな商人たちの対応に、門衛たちは追われていた。
明琳は邪魔にならないように両端で輪にした髪を揺らすと、宮殿の中に足を踏み入れ、馬を連れた武官同士が門で立ち話をしている隙に、するりんと忍び込んで今に至る。そして、道に迷ったところで、貢物の御饅頭を落したのである。前途多難な明琳を10個の饅頭がへらへらと笑った……ように見えた。
――あう……やってしまいました。
雪原に白い饅頭が二個転がっている前で、小羊こと明琳は考え込む仕草をした。何てことだ。あと目的の宮殿まで少しと言うところで、蹌踉けて籠から饅頭が転がり落ちたのだ。
「拾っちゃおうかな」
ささっと落ちた饅頭を指で擦ると、雪のお蔭か、しっとりとしてはいるが、とても美味しそうに見える。要は数が整えばいい。
(どうせ皇帝さまは捧げた貢物を一切口にしないと言うのだから。こんなの茶番で体裁)
瞬時に籠に放り込んだ。ごろごろ転がして見たら、もうどれを落としたのかわからない。
――落とした饅頭、どーれだ。へへへへへ。
暢気に居座っている十個の饅頭を見てたらムカっ腹が立って来た。とん、と籠を雪の上に置いてその集団をじろりと睨み付ける。
ものは言わない饅頭がケケケと笑い声を上げそうなくらい、腹が立つ。
(考えてみれば何でわたしが宮殿に来なきゃいけないのよ。違う、おじいちゃんがいけないのよ。雪おろしなんてしなければ、ぎっくり腰になんてならなかったんだもん)
「ま、文句言ってても仕方ない!」
小羊頭の少明琳は基本悩むのが苦手で、悩んでも疲れて何に悩んでいたのかを忘れてしまう質だったりする。明琳はぱんぱん、と自分の膝を叩くと、雪の中に置いたままの手籠を持ち上げた。丁寧に敷いた布巾の上には蒸かし饅頭が八個。さらに拾った二個を足して、きっちり十個。だが、真ん中に隠れている饅頭は少し大きい上に不格好だ。
(う……。一目でわかる。これはわたしがやけくそで作ったものだわ)
――九個目を作り終え、ダウンした祖父の代わりに慌て設えたもののどうしても宮殿への奉納には十個必要で明琳は見様見真似で饅頭を捏ね、その大雑把な性格のまま突っ込んだ。やはり歪な饅頭は悪目立ちする。でも、どうしても十個必要で仕方なくて。
二度と作らないと決めた饅頭を捏ねるのは、度胸が要った。
(ごめんなさい、お父さん、お母さん)と呟きながら握った饅頭には二滴の涙が染みこんでいるから、多分甘くない。
不味そう。
「た、食べないでしょ、こんな不格好なの! こんな凄い場所におわすのだもの。綺麗な方を選ばれるか、捨てられるかだわよ」
明琳は改めて目の前の大きな宮殿を見上げ、眼を輝かせた。紅鷹承后殿。町民には開放しない皇帝宮殿は税をこれでもかと言うほどに搾り取って作られたというだけあって豪華絢爛。煌びやかな宮殿は美しいけれど、そんな町民の汗と苦労の象徴だ。
そして明琳の両親は………。
(ああ、思い出したくもない。うん、思い出すのはやめよう)
明琳は双眸を強く伏せ、そっと柱に手を置き、雪の降る空を切り取るかのような大きな天蓋を仰いだ。
(でも、ここにいる若き皇帝さまは、そんな現状を知らないんだきっと)
また腹が立ってきた。
日により、貢物を要求してくる皇帝に商人たちはチャンスとばかりに宮殿に馳せ参じ、取り立てて貰おうと頭を地面に擦りつけるそうである。そんな商人たちの対応に、門衛たちは追われていた。
明琳は邪魔にならないように両端で輪にした髪を揺らすと、宮殿の中に足を踏み入れ、馬を連れた武官同士が門で立ち話をしている隙に、するりんと忍び込んで今に至る。そして、道に迷ったところで、貢物の御饅頭を落したのである。前途多難な明琳を10個の饅頭がへらへらと笑った……ように見えた。
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