「初心者VRMMO(仮)」小話部屋
美玖のハジメテの嘘
にこにこと可愛らしく微笑む彼女に、爆弾発言を落とされた。
「保さん、おばばさんに素敵な方を紹介してもらったので、その方と結婚します」
「え……」
言葉を失うというのはこういうことだろう。
「というわけで、さようならです」
「ちょっ……待てっ!!」
己の声で飛び起きた。
「……夢……か」
夢でよかったというべきか、夢でも見たくないというべきか。はたまた正夢にならないようにするため戒めるべきか。
時間は日付が変わって間もなくだった。よほど切羽詰まっている時を除き、早めに日付が変わる前に就寝するようにと、心療内科医にまで言われてしまっている。これ以上心身に負担をかければ美玖と物理的に離すぞ、と昌代に尾脅されているため、いたって健康的である。二度寝をするべくベッドへ戻った。
そのあと、良平に、悠里に、晴香に……と思いつく限りで同じ台詞を言われる夢を見て、うなされ、自力で寝ることを放棄した。
「酒……あ、やべ」
正月に粗相をしたため取り上げられている。調理場に行くしかない。
「……陰険策士様、気配殺して背後に立つの止めろって言ってるだろうが」
「おや、ばれてしまったかの」
「わざとらしく音立てて扉開けといててそれはねぇんじゃねぇのか」
調理場でグラスを探している時に昌代も来たのだ。
「珍しいのではないか? 夜中に酒のみなぞ」
そう言いながらも、出されたのは徳利に入った日本酒とお猪口。睡眠の導入として考えるならば、ちょうどいいと言わんばかりである。
「夢見が悪くてな」
眠気はそこそこある、だが目が冴えて眠れない。そして酒。少しばかり気が緩んでいた。
「悪夢は正夢にせぬように他人に言うのがいいそうじゃ」
そんなことを言われ、見た夢をあっさりと暴露した。
「……正夢にすべきかの。我が紹介せんでも、禰冝田で手ぐすね引いて待っておるゆえ」
「ふざけんな! くそばばあ!!」
「それだけ言えれば十分じゃ。それに今日は何日じゃ?」
「三月三十一……日付変わったから四月一日か。エイプリルフールでも聞きたくねぇな」
夢もエイプリルフールだと思えば、どっと力が抜けた。
そのあとは嫌な夢を見ずに、眠れた。
「……保さん、聞きたいことあるんですけど、いいですか?」
その日の昼過ぎ、まったりとしている時に美玖が恥ずかしそうに聞いてきた。勉強かそれとも別の事か。
「どうした?」
「コウノトリの運ぶ赤ちゃんの大きさって、やっぱり新生児くらいなんですか?」
「……はぃ?」
「そのっ……コウノトリが赤ちゃんを運んでくるって聞いたので」
そう言えば今日はエイプリルフール。おそらく美玖なりに嘘を思いついたのだろう。
「美玖は赤ちゃん欲しいの?」
「えっ!?」
「赤ちゃんが欲しいなら、コウノトリにお願いせずとも、俺が手伝うよ。勿論子育ても」
「えぇぇぇっ!?」
顔を真っ赤にした、美玖がなんとも可愛らしい。
「たわけ」
何なら今からでも、そう言って美玖を抱き上げようとした瞬間、後ろから肩を扇子で叩かれた。
「だから、陰険策士様。何度気配を消して背後に立つなと」
「美玖のはエイプリルフールじゃ。お主はそれにかこつけて何をしようとしておる」
「そりゃもう、美玖の望むまま子供をしこもうかと」
「無体なことをしてみよ。夜中の話を実行に移すゆえ」
「今日のは俺だってエイプリルフールだっての」
仕方ない。今日のところは諦めよう。
そう内心で思いつつ美玖を再度抱きしめた。
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