「初心者VRMMO(仮)」小話部屋

神無乃愛

ひな祭りはみんなでお祝い

 桃の節句SS

 昨年、祖母の千沙以外から祝ってもらった節句は楽しかった。思い出すだけでにやけてくる美玖である。

 今年は皆さんにご馳走を! と斜め上の発想をしていた。

「……なるほどの。では、三月三日には美玖の関係者を招いて節句の宴でも開くとするかの」
「おばばさん、ありがとうございます!!」
「その代り、四月にある禰冝田主催の節句宴にも参加が必須になるがの」
 それは嫌だ。そんなことを美玖は思った。ただ、現在禰冝田の恩恵に預かる身としては否とは言えない。挨拶だけして帰ればいい。そう思うことにした。

 そんな話があったのは二月中旬。幸いにも今年の桃の節句は土曜日だ。紗耶香も誘うことにして、と色々と計画を練り始めた。

 美玖はそこまでネットを使いこなせない。桃の節句のご馳走なんて聞いても給食で食べた五目寿司や、千沙が作ってくれるちらし寿司くらいだ。
「……むぅぅぅ」
 大量にありすぎて分からない。

 パソコン前で唸る美玖をこの男が見逃すはずもなく。
「……節句のご馳走?」
 聞いて少しばかり後悔した保だった。
「さすがにネットで調べるよりも、陰険策士様に聞いた方がいいと思うぞ」
「聞きましたし、去年も食べました。蛤のお吸い物とちらし寿司と菱餅、雛あられまでは一緒に作るんです」
「? それだけで駄目なのか?」
「駄目なんです! おばばさんにも楽しんでもらいたいんです! 女の子の節句ですから!!」
 昌代を「女の子」に分類している美玖をある意味で尊敬してしまう保だった。

「そういうことであらば、美玖に茶わん蒸しをお願いしようかの」
「はいっ!」
 いつの間にか後ろにいた昌代が、あっさりと言った。


 そして当日。

 招待客には一弥とりりかにその両親。そして千沙。ここまでが保がこっそり招待状を渡した面子だ。
 そして良平に悠里、その両親に晴香。そして、美玖の友人、悠里の親戚ということで紗耶香が来ていた。

 一弥たちはひな祭り用ケーキを数種類購入して持ってきており、悠里たちはいつも頼んでいるという酒蔵から白酒と甘酒を購入して来ていた。

「しかし、今は数多の甘味があるの」
 並んだ甘味を見渡して昌代は思わず呟いた。
 桜餅やいちご大福をさゆりたちに頼んではいた。そして招待客なのだから何も持ってこなくてもいい、そう保に伝言を頼んでいたはずの磯部家ご一行も色々と持ってきている。
「この苺のムースね、お祖母ちゃんたちと作ったんだ!!」
「うわぁい! 楽しみ!」
 りりかと美玖の会話がすべてを悟らせた。
 そういうことか。

 千沙たちは本当は美玖と一緒に作りたかったのだ。それが容易に出来る状態でない昨今、せめてと思って甘味を大量に持って来たのだ。
 己たちが手をこまねいていたせいだ、それが分かっているからこそ誘われたときにのみ動く。出せる労力は惜しまないのだと。

 昌代としては、時折母方のいとこたちとやり取りすることにより、年相応の顔が出来ることを喜んでいる。父方いとこは全部シャットアウトしているが。

「俺らとしてはあっちと同じように扱われても文句言えないんですけど」
 何かを察した一弥がわざとらしく昌代の隣に来てぼやいた。
「我の言い分としてはな、美玖が会いたがっておりなおかつお主らが美玖にとって有害でなければ、会わせる努力を惜しまぬぞ」
「うわぁ、すげぇ重圧」
 これを重圧と感じるこの子供はおそらく大成する。

「いっくん、おばばさん! みんなで写真撮ろう!」
 美味しそうなケーキを食べてしまう前に。嬉しそうにはしゃぐ美玖の頭を、一弥は優しく撫でた。
「今日は桃の節句でしょ。どうせなら着物着た女性陣だけで写真撮りなよ。俺がカメラ係やるからさ」
「……うん」
 その言葉に美玖は少しばかりしょんぼりとしていた。
「では、女子おなごで一枚。美玖とりりか、一弥で一枚、磯部の家族と一枚、良平と悠里の二人と一枚撮ればよかろう」
 その言葉に、美玖の顔が一瞬にして明るくなった。
 とくに、いとこたちと一緒にとる写真のくだりで。

 夕方になり、はしゃぎ過ぎた美玖は疲れ果て、着物姿のままうたた寝をしそうなほどに。

 必死に起きているのは、見送りをしたいからだ。

「じゃあ、明日ゲームでね!」
 りりかが全員を代表してそんな挨拶をした。
「気を付けてね!」

 そして、客人が帰るとそのまま美玖は突っ伏して寝たという。

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