「初心者VRMMO(仮)」小話部屋
賑やかすぎるクリスマス
美玖がひ孫のような存在になる、それがほぼ確定した昌代は浮かれていたのかも……しれない。
十月頭に大きめのクリスマスツリーを注文し、クリスマスメニューは何を作ろうと、色々と調べた。
「……さて、仕込むとするかの」
そのためには協力者が必要である。昌代は使い慣れた携帯を手に取った。
同刻。時差を無視した携帯が、メールの着信を伝えた。
それを見た男は、一瞬で目が覚め慌てて相手と連絡を取った。まさか「聞きたいこと」が「シュトーレンの作り方を教えてくれ」だとは露も思わず。
『すまなんだ。急ぎではないとメールにも書いていたと思うがの』
「あなた相手にのんびりできるほど、私は偉くありませんよ」
そううそぶいたのはクリストファーだ。
「何故にシュトーレンなのですか? あいにくですが私はプディングの作り方すら知りませんよ」
『仕方あるまい。プディングより時間がかからぬ故な。保に調べてもらうのも一興じゃが、どうせなら美玖を驚かせてくての』
「了解いたしました。後程伝手を頼ってレシピを手に入れます。ついでと言ってはなんですが、そのサプライズに私も絡ませていただけませんかね」
そしてある意味最悪なタッグが組まれたのである。
昌代がすべきなのは、シュトーレン作りだ。ローストチキンは近くなったら、クリストファーがいい七面鳥を手に入れてくれるという。保養所のオーブンでは作れそうにないため、そちらは小百合に頼むことにした。
そして十一月の下旬。昌代はシュトーレン作りに勤しみ始めた。
それを生暖かく見守るのは、主治医一同だ。
「いいのですか?」
「昌代さまが喜んでやっていらっしゃる、それを止められるとでも?」
「美玖さまが恐縮なさらなければいいのですが」
各々がそんなことを言っていたが、昌代は聞かないことにした。そして、保に頼んで、美玖には一切知らせていない。
パン作りなど今までしたことが無いが、楽しいものだ。
ドライフルーツは秘蔵のブランデーに漬けたものを使う。クルミとアーモンドも忘れてはいけない。いい大きさに切り刻んで、捏ねたパン生地に投入していく。それを発酵させ、型に入れて焼くだけだ。
「意外に簡単じゃの」
「それはあんただけだ、砂〇け婆様」
「来ておったか」
「溝内先生と悠里先輩がアドベントカレンダーを持って来たからな。どうせだから見に来た」
「今年も賑やかになりそうじゃの」
「美玖が楽しめればいいんじゃね? で、パーティ用に買うものあるのか?」
どうやらそちらが本題だったらしい。
「七面鳥はクリストファー殿に頼んである故、問題ないの。溝内のご夫婦がローストビーフを作ると言っておったの」
「正芳がクリスマスケーキを三つほど買ってくるとよ。そっちには隆二たちが金出すってさ」
ついでに言うなら、りりかと一弥で美玖の好物とブッシュドノエルを持ってくるらしい。
「……保、お主」
「いうなっ! 出遅れたと思ってるよ!! だから聞いたに決まってるだろうが!!」
ツリーも昌代が手配してある。勿論飾りもだ。
「よしっ! 決めた!」
なにやら不穏な空気を醸し出しつつ、保は台所を後にした。遠山たちに頼んで「不埒なものを贈らせないように」見張っておくことも忘れない。
シュトーレンはクリスマスまで楽しむパンだ。アドベントカレンダーと共に、美玖を毎日楽しませた。
そして、クリスマス一週間前になり、ツリーが届いた。
「……いくら何でもやりすぎだろ、陰険策士様」
「うむ。ちょっと大きかったようじゃな」
「ちょっとじゃねぇ! かなりだ!! 保養所に会議室があってよかったと思うよ」
だが、そのツリーを見る美玖の目があまりにも無邪気すぎて、二人は「これでいい」と考え直すまで時間はかからなかった。
「おばばさん! ありがとうございます。保さん、早く飾りましょう!!」
嬉しそうにはしゃぎながら、飾りつけをする美玖に、保は箱を渡した。
「……これは?」
「欲しいものを書いて入れておく靴下。ここに飾ろうか」
「はいっ!」
その靴下は、一番目立つところに飾られた。
書いてあったのはたった一言「また皆さんと楽しいクリスマスが過ごせますように」。それだけだった。
クリスマスには、りりかや一弥、千沙はもちろん、クリストファーまでやって来て賑やかなものとなった。
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