「初心者VRMMO(仮)」小話部屋

神無乃愛

クリスマスパーティ その2


「とりあえず同時進行で諸々が動いているが、メリークリスマス!」
 ディッチが声を上げた。ちなみにこの日はクリスマスよりもさかのぼること一週間前だったりする。
「シュトレンがあるなら二週間前からでもよかったな」
 ディスカスが呟いていた。ちなみにこのシュトレンだが、ドイツではひと月かけて食べるものである。クリスマスに近づくにつれ、フルーツの味が生地にしみこむため、クリスマスを楽しみにする時には持って来いらしい。
「アドベントカレンダーはないの?」
「レット、それは来年な。つい昨日だからなぁ。俺らも気づいたの」
 しみじみと兄妹で話しているが、その手にあるのはプディング。
「ねね。プディングのアルコールって大丈夫なんですかぁ?」
 エリが不思議そうに訊ねてきた。
「これがゲームマジックでな。アルコールは一切入っていない」
「そっかぁ。じゃあカナリアちゃんやマモルも食べれますねぇ」
「……マモル君未成年なのか!?」
「らしいですよぉ? ギルマスにアルコールたっぷりって聞いて遠慮してましたからぁ」
 それまで誰一人マモルの年齢を知らなかったりするのだが。
「プディングの中には十二のアイテムを入れる時もあります。取り分けたプディングの中に何が入っているかで、その一年を占うというわけですよ」
 神社仏閣以外で珍しく饒舌になるカーティス。

 ちなみに、本来のプディングはかなりアルコールを使用するうえ、ひと月以上生地を寝かせるためかなりアルコール度数の高いものとなる。その後蒸したり焼いたりするので、ある程度飛ぶとは思われるが。そのあとひと月以上出来上がったケーキを寝かせる行程の中でブランデーにつけたドライフルーツが発酵するので意味がない。挙句、仕上げにまたしても熱したブランデーをかけてフランベするのだ。……お子様向きのケーキとはとても言えないのだ。

 そしてカーティスの言った占いというのが、金貨やボタン、指輪や指ぬきといったものを入れている。
 金貨の場合は金に困らない、指輪は結婚間近、ボタン・指ぬきはしばらく独身といったものだ。六ペンス硬貨なるものも入っている場合もあり、こちらは幸せになるという。
「へぇ。じゃあ、他は?」
「あまり聞きませんねぇ。それ以前の問題でゲーム内に六ペンス硬貨がないんですから、それは入れられないでしょうし。もっとも、イギリスではすでにこの硬貨、製造中止されてますよ」
 嬉しそうに聞くユウにカーティスはあっさりと返した。

 ブッシュ・ド・ノエルに関しては言うまでもないだろう。直訳すれば「クリスマスの薪」となる。それゆえ、あの形なのだ。こちらも諸説様々あるが、ディッチが説明しようとしたところで、うんちくを嫌がったスカーレットに止められていた。

 各国の様々なクリスマスケーキを目の前に、カナリアはカナリアはジャッジとユーリに餌付けされていた。
 色々ありすぎて困るというカナリアに半ば強制的に食べさせているのだ。

 最初にやりだしたのはユーリなのだが、見ていたジャッジもやりだしたというオチである。
「練りきりのケーキは大豆以外使っていないので、現実世界ではアレルギーもちの方が喜んで食べるそうですよ」
「あとは我のような年寄りじゃな」
「砂○け婆さん、いつからそこにいた」
 まったく気配もさせずに三人の後ろにいたりしたのだ。
「何、我も練りきりのケーキを食したと思うて来たまでよ。のう、アントニー殿」
「左様ですな」
 もう一人後ろにいたことに驚く三人だった。

 クリスマスパーティの時くらい気配を消さなくてもいいと思うのは、この場にいた全員だろう。

 余談ではあるが、誰よりも気配を消して楽しんでいたのはタカだったりする。
 ユウに時折ケーキを頼む以外は全く動かず、隅で全員の動きを見て楽しんでいた。
「後日話せるいいネタが転がってるな」
 そう呟いたが、誰にも知られることはなかった。

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