「初心者VRMMO(仮)」小話部屋

神無乃愛

「嘘」にまつわるエトセトラ ――その四――

 美玖みくと愉快ないとこたちの場合

 一弥いちやとりりかにとって直接会うことのできない、大事な従妹。それが美玖である。ゲーム内で会えるとは言え、おしゃべりする時間もまともにない、というのがりりかの言い分である。
「TabTapS!」内を騒がせたスカーレットとディスカスの結婚話が現実味を帯びてきたのは、それから半年後。にもかかわらず、二年近く経過しても話は進んでいないようだ。
「あえて言う。お二人が結婚してもらえると、その披露宴にかこつけて俺たちが美玖に会える」
 きっぱりと言い放ったのは、一弥ことイッセンだ。隣でりりかこと、リリアーヌも頷いている。
「君らって……」
「美玖は愛でるものでしょ」
 呆れたディスカスの問いに二人の声がはもった。
「それはわかるけどさ」
 スカーレットの言葉にそれもどうなのだ、という突っ込みは発せられない。
「せっかく結婚話が本決まりになったんですから、協力してくださいよ」
「だが断る!」
「二人のイジワルーー」
 この会話を聞いていたディスカスは一人、頭を抱えた。

 結婚話が進まないのは、偏にディスカスの実家のせいである。最近では本当にスカーレットに対して愛情とまではいかないが、それなり、、、、の感情は持っている。そんなことを言おうものなら、揶揄われることが確実なため黙っているだけで。
 それにスカーレットが気付いているから、言う必要もないと思っているというのもある。
 こういう時、気心の知れた仲というのは大変ありがたいと思ってしまう。
「お前らに悪いが、今まで拗れまくった話がそう簡単に進むと思うな」
「えーー」
 二人以外の声もはもっていた。
 後ろにいたのは、美玖ことカナリアだった。
「ど、どうして拗れるんですか!!」
 やべ、厄介な奴に聞かれた。それがディスカス本心だった。

「ディスカスの家でね。ちょっと揉めてるの。あたしの血縁者に政治家がいないってことで」
 それだけじゃないだろ! という言葉を飲み込んだのはディスカスだけではなかったようで、イッセン、リリアーヌとも顔があった。おそらく、この言い分を信じているのはカナリアだけだろう。
「納得いかないですっ! こんなにも素敵な方なのに!」
 この変態スカーレットのどこを見たらそう見えるのか、一度眼科行きを本気で勧めたいところではある。
「ありがとー。カナリアちゃんにそう言ってもらえると嬉しいわ」
 そう言いながらカナリアを撫でくり回すスカーレット。しかし、次の瞬間凍り付くことになる。

「私じゃ力になれないと思うのでおばばさんに相談してみます」
「いいね! それ。おばばさんならあっという間だよ」
「え゛?」
 スカーレットとディスカスが絶句したのを確認して、リリアーヌがこっそり引き離した。

 この場合、おばばさんこと昌代、もとい「禰冝田の女帝」の発言力を知らない(と思われる)カナリアの言葉が原因だったのか、知っていて悪乗りしたリリアーヌの言葉が原因だったのかは謎である。
 思考を二人揃って放棄し、「エイプリルフールだから」と思うことにしたのが間違いだったかもしれない。

 後日、ディスカスの実家で慌てふためき、二人の結婚が了承された。

 間違いなく、裏で「禰冝田の女帝」が絡んでいる。

「え? あたしもいっくんも『エイプリルフール』で美玖ちゃんが口にしたと思ったんだけどなぁ」
「うん。俺も『エイプリルフール』だから祖母ちゃんたちに『思わず』言っちゃったんだよね」
「ちょいマテ」
 悪びれることなくのたまう二人。思わずディスカスは頭を抱えた。
「マープルさんまで巻き込んだのかよ!!」
「え? まずかった? そういえば、あっちにある祖母ちゃんの店で話したっけ」
「そだね。何人か慌てて席たってた人いたっけ」
 間違いなく確信犯の二人である。
「お前らっ! 何のため穏便に済ませていたと思ってやがる!? 親父関係者が増えたら、お前らもカナリアも呼べないんだぞ!!」
「それ困る!」
 二人が慌てたように言うが、時すでに遅し。

 それから一か月後、慌てふためいた結婚式を執り行うことになり、当然ゲーム関係者は招待できなかった。

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