「初心者VRMMO(仮)」小話部屋

神無乃愛

「嘘」にまつわるエトセトラ ――その二――

 たもつの場合

 保はその日、四月一日であるということをすっかり忘れていた。というか、大量に入る仕事を捌くだけで精いっぱいだったため、曜日どころか日付の感覚も狂いに狂っていたというのが正しい。
 三月だ。美玖が十八になった。美玖と過ごすために目標としていた金額もたまった。
 あとはプロポーズだけ。それしか頭になかったのだ。

 保はすっかり忘れていた。美玖との結婚には大いなる壁あるということを。

「美玖、ただいま」
「保さん、お帰りなさいっ」
 最初に会った頃よりも明るい笑顔と血色のいい肌。保の顔が思わず綻んだ。
 もう少し後で、もっと雰囲気を出してと考えていたのはすっかり抜け、ポケットから指輪を出した。
「美玖もやっと十八になった。結婚しよう!」
 ……場所位考えればよかったかもしれない。徹夜明けのハイテンションが悪かったとしか言いようがなかった。

「え……えぇぇぇ!?」
 何故そこまで驚くのか、問いただしたくなる。付き合って二年半以上。何度かその話もしたはずだ。

「玄関先でいちゃつくでないわ。この年中脳内花畑男が」
「砂〇け婆、黙っててくんねぇか」
たわけ。ここは我個人所有の屋敷じゃ」
 少しくらい気を利かせてもいいだろ! と言いたいのだけは何とか堪えた。
「美玖よ。今日はエイプリルフールじゃ。こやつのプロポーズを真に受けるでない」
「え? あ、そうでした。今日四月一日でしたね」
 昨年、ゲーム内友人のエイプリルフールに引っかかった(という事になっている)美玖は、昌代の言葉に納得した。
「ちょっ!?」
「うふふ。エイプリルフールでも嬉しかったです」
 そう言って美玖は保から離れた。……指輪は保の手のひらの中だ。
「こんのぉ! くそ婆!!」
「褒め言葉じゃな。我を懐柔せんからそうなる。筆頭の保護者は我じゃ。そして美玖は未成年じゃ。我や禰冝田家の『自称保護者』たちを納得させい」
「納得してくれるならな!!」
 あの手この手で美玖と一緒にいるのを邪魔する奴らが。

 そして、今年のプロポーズも失敗に終わったのだった。

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