「初心者VRMMO(仮)」小話部屋

神無乃愛

ブクマ1500件突破お礼小話~マープルさんのとある一日 その4~


「とりあえず、サイト見てきたけど誰もまだクリアしてなかったな」
 リュートが行きがてら話始めた。
 久しぶりの大規模アップデートがあったのが先週。それから数度システムエラーが起きたりしながら、今回の期間限定クエストにたどり着いた。
 海外サーバーでも限定クエストを出している。

 そして、「World On Line」において厄介なのは、自国クエストしか受注できないということだ。今回の場合であれば、ロイドとルーファスはこのクエストを受注できない。ただし、こうやってその国のプレイヤーのPTに入ればクエストには行ける。「他国のプレイヤーと仲良く」と謳っているが、マープルたちは少数派に分類される。
「いっくん、今回はどんなモンスターがいたの?」
「めっちゃ厄介だった。道中オーガがLV二百五十で出てきたし、ホブゴブもLV二百。高レベルモンスターのオンパレード」
「……おかしいわねぇ。今回は『鬼の小槌』というタイトルだったはずなんだけど」
「うん。めっちゃおかしい。ホブゴブは鬼と関係ないはずだし」
『オーガだけなら、当たり前だと?』
『そうだよ。日本語の“ONI”を英語にするとオーガになるらしいからね』
 海外サーバーではこのクエストは「鬼の小槌」ではなく「トロールの小さなハンマー」と紹介されていたらしい。このあたりが少しばかりおかしいと思ってしまう。
「……間違いではないんでしょうけどねぇ」
 マープルは思わず呟き、イッセンたちは苦笑していた。

 鬼、小槌、という単語からマープルが思いつくのは「一寸法師」と「桃太郎」という二つの物語だ。物語を考慮した話とするならば、前者であれば一度小さくなる必要があり、後者では動物がお供になり、きび団子を供の者に渡している。
「……あ」
「ばあちゃん、どうした?」
「オーガから何かドロップしなかった?」
「ん? オーガからじゃなく、ホブゴブから『小さくなる薬』が出てた」
「採取は?」
「『団子のモト』というものが出てました」
 マープルの問いに、イッセンとロイドが答えてきた。それだけではかなり心許ない。
「今回のイギリスとブラジルの限定クエストは?」
「『サシー・ペレレーに会う』だったはずです」
『イギリスは“マザーグースと妖精”だった』
「……やっぱり」
「ミセス・マープル? どうしたのですか?」
「今回のクエストは、各国の伝承などをモチーフにしたクエストだってこと。ここからはあたしの推測よ?
 ブラジルクエストは『サシー・ペレレー』に会うのにかなり時間を要するはずよ。迷わせるのが大好きだったはずだから。そして『サシー・ペレレー』の持ち物とされる赤いとんがり帽子とパイプがキーワードかしら。
 そしてイギリスクエストはたくさんあるマザーグースの破片を見つけてハートの女王に会うはず」
「お義母さん、どうしてそこまで……」
「悪いわね。β版の時と発売後間もなくの二回、同じようなクエストがあったのよ。必死になってクリアしたから覚えてるわ」
「親父のことだから、海外まで遠征に行ったとか……」
「行ったけど? だから詳しく覚えてるの。そして今回のクエストはそれをもう少し複雑にした感じだと思うのよ。だって、以前は小さくなってオーガたちから逃げて、お腹の中で暴れて終わりだったもの」
 マープルの言葉に全員が絶句していた。
「というわけで、今回は『桃太郎』かしら? それとももう一度『一寸法師』かしら?」
 どちらでもいいけど、とマープルは呟く。二番煎じのクエストなど要らない。そんなものはマープルがこてんぱんにしてやる。もし、違うクエストならあふれ出る楽しさが欲しいと心から思う。
「とりあえず、『小さな薬』を集めるメンバーと『団子のモト』を集めるメンバーに分けましょう。それからね」
 どちらでもいいようにと、マープルは準備をすすめた。

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