「初心者VRMMO(仮)」小話部屋

神無乃愛

一弥(いちや)と周一郎 1


 大学構内にある食堂で古瀬 周一郎がぼーっとしていると、他県からこの大学に進学してきた友人が声をかけてきた。
「古瀬、お前の知り合いって人が来てるぞ」
 現在、周一郎の周りはかなり騒がしい。それを理由に周一郎は大学を半分近く休んでおり、大学側でもそれを了承している。
 そして、もう一つ大学側で学生に徹底しているのは、「自称、古瀬 周一郎の知り合いを構内に入れないこと。古瀬 周一郎に会わせないこと」である。つまり、この友人の行動は少しばかりおかしいともいえた。
「名前は?」
 そう聞いてきたのは高校時代からの友人、柊 レイモンドだった。
「浅木さんって人。磯部さんの名前を出せば分かるはずだって」
 どちらの苗字にも周一郎は聞き覚えなどなかった。
「シュウは知らないようだ。あれほど……」
「んなわけないよ。あの人がそんな嘘をつくとは思えない」
「平野、お前はその人物を知っているのか?」
 声をかけてきた友人に、周一郎は思わず訊ねた。
「? うん。高校時代の先輩だった人だよ」
「おかしいだろ? 平野は初めてこの県に来たんだろ? 尚更シュウが知り合いになれる確率……」
「だって、その人有名なゲーマーだから、古瀬だってやってるしオフ会とかで……」
「俺は一度もオフ会とかに顔を出したことはない」
 レイモンドと周一郎の言葉に平野の言葉がしぼんでいく。
「分かった。先輩にそう伝えておく」
 平野はそれだけ言うと、食堂を出て行った。
「正面玄関にそいつはいたな。平野が何か言っていた」
 あとをつけていたレイモンドが帰って来て、伝えてくれた。
「……サンキュ」
 裏口から出るにしても、そのレイモンドが一緒でないと難しいかもしれない。周一郎はそう思った。

「いい度胸だな。古瀬 周一郎」
 サングラスをした男が、声をかけてきた。
「……いつ……」
「最初から裏口に俺は居たからな。表にいた浅木という男に捕まってたほうがよかっただろうよ。ジャッジと言えば分かるか?」
「!!」
 さすがに二人揃って固まってしまった。
 そうしている間にも、ジャッジは電話をかけていた。
「……やっぱりこっちに来たぞ。さっさと来い。……まぁ、お前が来るまで時間稼ぎはしとく。……ん? さすがにそこまでする予定はない。こいつらの態度次第だがな。それに俺はレイのほうに用事があるんだ」
「おれ……に?」
 驚いたようにレイモンドが呟いていた。
「不法侵入の件だな」
 電話を切り、ジャッジと名乗っている男がさらりと返してきた。
 その瞬間、レイモンドの顔が悔しそうに歪んでいた。
「略式で済んでよかったな。……俺としては拘置所もっと長くいて欲しかったんだがな」
 はき捨てるようにレイモンドに言い、ジャッジは周一郎へと視線を移した。
「本当にあれ、、に似てるんだな。やっぱり引き受けないほうがよかった」
「仕方ないですよ、ジャッジさん。まぁ、おかげで捕まえやすいと思うしかないです」
「イッセン、早かったな」
「まぁ、裏口利用するのは何となく分かってましたし? 正面には叔父さんとりりかに待っててもらいましたから」
 真ん中にいたんですよ、とイッセンと呼ばれた男が笑って言う。
「リュートさんたちまで巻き込んだのか?」
「叔父さんとりりかは自発的にです。前科が科せられたところで、もう怖くないそうですから。りりかは、誘発役になるか抑える側になるかは、この男の態度次第だったでしょうね」
「あ~~。間違いなく二人揃って前科つきになったな。裏口で正解かよ」
「ジャッジさんは優しいですね」
あいつ、、、を心配してくれてる人たちにを案ずるのは当然だろ? それにこんなふざけたことで前科が科せられたなんて知ったら、また落ち込むぞ」
「あははは。黙っててくださいよ。……ただでさえ俺ら自己嫌悪に陥ってるんですから」
「分からなくはない。俺も柊 レイモンドの方に用事がある」
「了解しました。まぁ、俺としては古瀬 周一郎さんと二人きりで話ができればいいんで」
 少しばかり狂ったような笑いを浮かべるイッセンが、周一郎を見つめてきた。
「あんたの家でもいいよ。それともホテル? どこでもいい。あんたと二人きりで話がしたい」
「断る」
「断るなら、ここであんたが流血するぐらい殴るつもりだけど」
「……脅迫か?」
「好きに取ればいい。警察に逮捕されるのはもう、覚悟してるし。親にもそう言ってきたし」
 何故、そこまでするというのか。それが顔に出ていたのだろう。イッセンが耳元でとある人物の名前を出す。
「分かった? さて、どうする?」
「大学構内で話そう」
 ホテルに連れて行くのも嫌だ。
「シュウ!」
「じゃあ、俺らも大学構内で話すとするか? 柊 レイモンド」
 ジャッジのその言葉を受けて、四人で大学構内へと戻った。そして、二箇所空いている場所を確保した。

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