「初心者VRMMO(仮)」小話部屋

神無乃愛

シュウへの報復1

「古瀬、『TabTapS!』って今度大型メンテナンスはいるんだろ? そのあとからやろうと思うんだけどさ、その前に色々教えてくれないか?」
 そんなことを大学の友人に言われたのは、つい先日のことだった。
「メンテナンス後の方がいいだろ?」
「いや、それもあるんだけどさ。お前と柊でギルド作ってるって聞いたから、そこに入ろうかなって思ってるんだ」
 最近ギルドメンバーがだいぶ抜けたせいもあり、この申し出は嬉しかった。
「だからさ、その前にお前がどんな戦い方するかみてみたいなって思ったんだ」
 その言葉に、周一郎はレイモンドと顔を合わせる。声をかけてきた友人は、先日ひと悶着あったばかりの男だ。

 その男は、それに……と続けてくる。
「あのまんまじゃ少し嫌だし。一緒にゲームすればそれなりに互いが理解できるかなって」
「そういえば、あのあとどうしたんだ?」
 あのあと、というのは浅木という男へ断りを入れた後だ。
「抗議した。さすがに興味本位で近づくなって」
 それに対して男は謝罪しただけに留まったという。

 つまり、あの話は外に知られていないのだ。
「何のゲームだ?」
 参考までにと前置きをして、二人は訊ねる。
「『World On Line』だよ。まだVRMMOでは世界シェアNo.1だろ?」
 誰しもが一度はやっているゲームであろうモノをあげてきた。
「俺はまだアカウント残してるな。レイは?」
「とっくに解約した。さすがにきた」
「そっか。じゃあ、古瀬だけでもいいから、少し付き合ってくれ。限定クエストもやってるし」
「分かった」
 心なしか、友人の顔は安堵していた。

 その時は緊張していたのだろうと思っていた。


 待ち合わせは「安楽椅子」という喫茶店で。と友人に言われ、久しぶりに周一郎は「World On Line」の中でシュウというプレイヤーになる。

 初めてやったVRのため、かなり外見にこだわって作った。
 月額課金の他、小遣いをかなりつぎ込みアイテムを入手し、毎年身長の更新をかけていた。

 友人の言う「安楽椅子」という名前の喫茶店は、名前を知っているだけだった。
 確かかなり古参のプレイヤーが余りきったアイテムを使用して作ったと記憶している。

 生まれた年月の差が生み出したそこ、、にシュウは行きたいと思わなかった。

「いらっしゃいませー」
 入るなり、明るく声をかけてきた女性がいた。NPCなのかPCなのか分からないが、どうやらかなり手広くやっているらしいと、あたりをつける。
「あ、初めてのお客さんですね。お席は……」
「待ち合わせしてるから」
「どなたと?」
「はぁ!?」
 何故そこまでたかがウェイトレスに言われなくてはいけないのだ。
「すみません。この店を待ち合わせに使う方は多いんですよ。なので、もういらしているのなら、その方のところにお通しさせていただくために伺っているんです」
 中年の女性らしき声が、割って入った。もしかすると、この女性が経営者なのかもしれないと、シュウは思った。
「……確か名前は……ジュークだったかな?」
「ジュークさんと仰る方はいらしてませんね。いらしたらお通ししますのでお客様のお名前を教えてください」
「シュウ、です」
「かしこまりました。リリアーヌちゃん、空いている席にご案内して」
「はぁい」
 案内されている間にも、次々とプレイヤーがやってきて、リリアーヌと呼ばれた女性へ声をかけていく。
「今日は皆そろいますよー。トウモロコシさんは、いつもの?」
「おう。いつもの。ピーマンとシシトウも来るから、よろしくー」
「リリちゃーん。こっちにもいつもの」
「セレスさん、今日のお勧め何?」
 和気藹々とした雰囲気で盛り上がっていた。

 知り合いがいないのは、シュウ一人だけだと気がつくまで時間はかからなった。それにしても相手が遅い。フレンドリストにも入れていないので、連絡すらまともに出来ないのが辛かった。

 間もなく勝手口らしきところが開き、見た目はだいぶ若い女性が入ってきた。
「ふふふ。いいものが獲れたわよ。納品してこれるものはしてきたから、後少ししたら色々届くからね」
 声を聞く限り己の祖父母位だろうか。
「マープルさん、これからメニュー増えるんすか?」
「増えるわよー。レアチーズケーキにベイクドチーズケーキ、それからショートケーキにシュークリーム。リブロースステーキもこれから仕込むし。持ち帰りように肉巻きおにぎりも作るわよ」
「肉巻き五つ予約ー。それが出来たらクエスト行く」
「私はカツサンドが出来たらかな? 飲み物はコーヒーで」
 またそれぞれが凄い勢いで注文をはじめていた。

「どうしました?」
「いや、かなり活気があるなって」
 声をかけてくれたリリアーヌにシュウは返す。
「そりゃ、ここは『World On Line』で初めて殿堂入りしたPCが作ったお店ですし。このお店自体が公式HPで待ち合わせ場所として認定されていたり、トップ飾ったりパッケージ飾ったりしてますから」
 そう言いながらも注文をとる仕草はかなりなれたものだった。
「コーヒーお願い」
「はいっ。伯母さーん、コーヒーお願ーい!」
 そう言って他のテーブルに注文を取りに行った。

 殿堂入りしたプレイヤーなんていたんだ。それが安楽椅子ここを経営してるんだ。他のプレイヤーからしてみれば当たり前の「常識」をシュウは初めて知った。

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