レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~
第七章 第八話「少女の願い」
「のう、陽太……ぬしは故郷に帰りたいかや?」
「ええ、まあ。少ないけど心配してくれてる人もいるだろうし……」
「そうか。ならば、わっちのわがままはここまでじゃな」
「え……?」
「帰してやると言うておる。ぬしは自由じゃ」
ぽんと立ち上がり、陽太に向かって笑顔でそう言い放つ魔女。
「あ……紋章が揃ったから……」
「九つの紋章が揃った時、それと引き換えに一度だけ究極魔法を使えるのじゃ」
「究極魔法、ですか。まだ上があったとは……誤算でした」
「うむ。究極魔法というのはの、どんな魔法をも無効化できる魔法でありんすえ。ディスペルでは解除できんような魔法も全ての。それで召喚を無効化しんす。すなわち元の世界へ帰れるのじゃ」
「え……でも代償は!? 究極魔法って言うんだから究極の代償があるんじゃないんですか!?」
「ああ、それなら心配はいらん。唱えるのはわっちじゃ」
「え? じゃあ俺は今まで何のために!」
「すまんかったの。連れまわして」
「また精霊族に言われたんですか? 俺を育てるようにと……」
「それだけじゃありんせん。別に帰そうと思えばいつでも帰せた」
そう言うと魔女は屋上の端へ歩み寄り、神殿の外を眺める。
血のように赤黒い湖を。
枯れ果てた幽世の大地を。
「わっちゃ、ただ……ぬしに見てもらいたかったのじゃ。この世界を」
陽太は思い返す。
天族の島からアメリアと眺めたあの景色。
不死鳥の巣でハリルと見た荒涼な大地。
ルナと見た悲しい幽世。
そして魔女と見た現世の満月――
「幽世も……月は同じように輝くんですね」
「そりゃ同じ世界じゃからの」
「姐さんはずっと……何を想い、何を見てきたんですか?」
「……とあるお伽噺のような物語じゃ」
そう言って魔女は、話し始めた。
四百年前に産まれた一人の少女の物語――
華やかな身なりをする彼女の人生は、決して自由ではなかったそうな。
幼いころに父に身売りされ、これも親孝行のためだと必死に籠の中で勤めてきた。
齢十七になる頃、儀式の日取りが決まった。
彼女は怖くなった。
戦乱の世でこれから続く人生、年季か身請けか、それとも死か。
ある友は心中した。
ある友は病死した。
決して報われることのないであろう苦難の道だった。
彼女は強くなりたいと望んだ。
なにがあっても折れない、強い心を望んだ。
そして彼女はそれを授かった。
そう、召喚に応じる代償として……
こうして一人の娘がこの世界へ召喚された。
召喚された世界は、戦争の真っただ中であった。
世界勢力は四つの大陸に分断され、激しい戦火に燃えていた。
そんな中、彼女は召喚されたのだ。
儀式を行った精霊族の長は、その命と引き換えに彼女を召喚した。
残っている精霊族が言う。
この世界を救ってくれ、と。
この世界は魔法の栄えた世界である。
何もないところから火を起こせ、何もないところから刃を作り出せる。
すなわち、誰もが凶器を常に持ち歩いているような世界なのである。
魔法、その強大な力は争いにより発展し、全ての生物を絶滅させられるほどの軍事力になっていた。
このまま戦いが続けば、世界が破滅する。
生きとし生けるものすべてが絶滅する。
もしも神がいるならば、終焉を迎えるこの世界で、異世界人を使って遊ぼうとしているだけなのかもしれない。
魔法を存在させたまま、この世界に未来はあるのか、神はそれを確かめているだけに過ぎないのかもしれない。
無理なら無理でおしまいにするってだけだろう。
それから彼女はどれだけ忌み嫌われようとも、世界の平和を目指した。
強い心で。
武力に対しては武力で応じるしかなかったが、いつか報われることを信じて。
精霊族は争いのない世界を望んでいる。
そして彼女も戦乱の世の儚さを知っている。
利害は一致した。
拮抗する力を手にした者は必ず争いを起こす。
魔女に全ての王を殺させ、一からやり直させよう。
精霊族はそういう決断に至った。
彼女は引き受けることにした。
強い心を持った彼女にしか出来ないことでもあったから。
各国を巡る魔女が見たのは、逃げ出すもの、部下を盾にするもの、保身しか考えない、そんな王ばかりであった。
彼女は元の世界での生活を思い出す。
気に入らなければ引っぱたかれ、上役に媚びへつらい、命令は絶対。
それに恐怖して従うか、抗って死ぬか。
どこの世界も同じであるなと嘆く。
彼女らはいつしか、世界の真ん中に位置する【ゼダエンド】という大陸を拠点にした。
もともとは未開の大陸だった場所だ。
しかし、そこは新たな王たちに攻撃され、人の住める土地ではなくなっていった。
互いに手を取り、魔女を追い詰めた王たちは、固い絆が結ばれていた。
これも一つの平和の形だった。
こうして魔女は討ち取られた。
しかし不憫に思った精霊族の一人が、魔女に魂を分け与えた。
時属性最上級魔法で成長を操れる魔女によって、その精霊族も長い生を得ることになる。
やがてその精霊族が遺志を継ぎ、長となった。
破壊と殺戮が繰り返され、瘴気に塗れた大陸に精霊族の長は結界を張った。
当初の目的も果たせたと考え、精霊族は話し合った結果、魔女をもそこへ封印した。
瘴気に影響されない精霊族たちはそこに残った。
白虎を育てる者、魔女を監視する者。
そして魔女と魂を共にする者。
やがてそこを人は幽世と呼ぶようになった。
しかし、時は流れ、王位継承と共に各国の絆は薄れていった。
やがて傲慢と怠惰により国の統率も崩れていく。
そこで、戦争を発起する者が現れると、その都度魔女に殺させることにした。
こうして王殺しの魔女により、世界の平和は維持されてきたという――
「ええ、まあ。少ないけど心配してくれてる人もいるだろうし……」
「そうか。ならば、わっちのわがままはここまでじゃな」
「え……?」
「帰してやると言うておる。ぬしは自由じゃ」
ぽんと立ち上がり、陽太に向かって笑顔でそう言い放つ魔女。
「あ……紋章が揃ったから……」
「九つの紋章が揃った時、それと引き換えに一度だけ究極魔法を使えるのじゃ」
「究極魔法、ですか。まだ上があったとは……誤算でした」
「うむ。究極魔法というのはの、どんな魔法をも無効化できる魔法でありんすえ。ディスペルでは解除できんような魔法も全ての。それで召喚を無効化しんす。すなわち元の世界へ帰れるのじゃ」
「え……でも代償は!? 究極魔法って言うんだから究極の代償があるんじゃないんですか!?」
「ああ、それなら心配はいらん。唱えるのはわっちじゃ」
「え? じゃあ俺は今まで何のために!」
「すまんかったの。連れまわして」
「また精霊族に言われたんですか? 俺を育てるようにと……」
「それだけじゃありんせん。別に帰そうと思えばいつでも帰せた」
そう言うと魔女は屋上の端へ歩み寄り、神殿の外を眺める。
血のように赤黒い湖を。
枯れ果てた幽世の大地を。
「わっちゃ、ただ……ぬしに見てもらいたかったのじゃ。この世界を」
陽太は思い返す。
天族の島からアメリアと眺めたあの景色。
不死鳥の巣でハリルと見た荒涼な大地。
ルナと見た悲しい幽世。
そして魔女と見た現世の満月――
「幽世も……月は同じように輝くんですね」
「そりゃ同じ世界じゃからの」
「姐さんはずっと……何を想い、何を見てきたんですか?」
「……とあるお伽噺のような物語じゃ」
そう言って魔女は、話し始めた。
四百年前に産まれた一人の少女の物語――
華やかな身なりをする彼女の人生は、決して自由ではなかったそうな。
幼いころに父に身売りされ、これも親孝行のためだと必死に籠の中で勤めてきた。
齢十七になる頃、儀式の日取りが決まった。
彼女は怖くなった。
戦乱の世でこれから続く人生、年季か身請けか、それとも死か。
ある友は心中した。
ある友は病死した。
決して報われることのないであろう苦難の道だった。
彼女は強くなりたいと望んだ。
なにがあっても折れない、強い心を望んだ。
そして彼女はそれを授かった。
そう、召喚に応じる代償として……
こうして一人の娘がこの世界へ召喚された。
召喚された世界は、戦争の真っただ中であった。
世界勢力は四つの大陸に分断され、激しい戦火に燃えていた。
そんな中、彼女は召喚されたのだ。
儀式を行った精霊族の長は、その命と引き換えに彼女を召喚した。
残っている精霊族が言う。
この世界を救ってくれ、と。
この世界は魔法の栄えた世界である。
何もないところから火を起こせ、何もないところから刃を作り出せる。
すなわち、誰もが凶器を常に持ち歩いているような世界なのである。
魔法、その強大な力は争いにより発展し、全ての生物を絶滅させられるほどの軍事力になっていた。
このまま戦いが続けば、世界が破滅する。
生きとし生けるものすべてが絶滅する。
もしも神がいるならば、終焉を迎えるこの世界で、異世界人を使って遊ぼうとしているだけなのかもしれない。
魔法を存在させたまま、この世界に未来はあるのか、神はそれを確かめているだけに過ぎないのかもしれない。
無理なら無理でおしまいにするってだけだろう。
それから彼女はどれだけ忌み嫌われようとも、世界の平和を目指した。
強い心で。
武力に対しては武力で応じるしかなかったが、いつか報われることを信じて。
精霊族は争いのない世界を望んでいる。
そして彼女も戦乱の世の儚さを知っている。
利害は一致した。
拮抗する力を手にした者は必ず争いを起こす。
魔女に全ての王を殺させ、一からやり直させよう。
精霊族はそういう決断に至った。
彼女は引き受けることにした。
強い心を持った彼女にしか出来ないことでもあったから。
各国を巡る魔女が見たのは、逃げ出すもの、部下を盾にするもの、保身しか考えない、そんな王ばかりであった。
彼女は元の世界での生活を思い出す。
気に入らなければ引っぱたかれ、上役に媚びへつらい、命令は絶対。
それに恐怖して従うか、抗って死ぬか。
どこの世界も同じであるなと嘆く。
彼女らはいつしか、世界の真ん中に位置する【ゼダエンド】という大陸を拠点にした。
もともとは未開の大陸だった場所だ。
しかし、そこは新たな王たちに攻撃され、人の住める土地ではなくなっていった。
互いに手を取り、魔女を追い詰めた王たちは、固い絆が結ばれていた。
これも一つの平和の形だった。
こうして魔女は討ち取られた。
しかし不憫に思った精霊族の一人が、魔女に魂を分け与えた。
時属性最上級魔法で成長を操れる魔女によって、その精霊族も長い生を得ることになる。
やがてその精霊族が遺志を継ぎ、長となった。
破壊と殺戮が繰り返され、瘴気に塗れた大陸に精霊族の長は結界を張った。
当初の目的も果たせたと考え、精霊族は話し合った結果、魔女をもそこへ封印した。
瘴気に影響されない精霊族たちはそこに残った。
白虎を育てる者、魔女を監視する者。
そして魔女と魂を共にする者。
やがてそこを人は幽世と呼ぶようになった。
しかし、時は流れ、王位継承と共に各国の絆は薄れていった。
やがて傲慢と怠惰により国の統率も崩れていく。
そこで、戦争を発起する者が現れると、その都度魔女に殺させることにした。
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