レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~

すずろ

第七章 第五話「神話」

「あそこに雷の神殿があるんですね……」

 翌朝、陽太が作り出した山の頂上から眺める三人。
 遠くの方に幽かに見えるのは、赤い湖だった。
 そこに神殿はあると言う。
 そして陽太たちは幾晩かの夜営を経て湖の畔へ向かった。
 近くで見ると大きく、やはり血のような赤黒い湖。

「湖に嵌ると瘴気に侵されんす。畔からは一気に渡りんすえ」

 早朝から出発した三人は、湖の上を最高速度で飛んでいく。
 途中から雪が降り出し、凍えながらも日の暮れる頃になんとか湖の中央まで辿り着いた。
 そこには水面から突き出たようにどっしりと構える神殿の姿があった。
 くすんではいるが黄金色の立派な建物だ。
 三人は神殿の入り口に着地し、改めて見上げる。

「これも姐たんが作ったの……?」
「姐たんって……いつのまに二人はそんな仲良くなったんだよ」

 陽太は鼻水を氷柱のように凍らせながら呟いた。

「いや、これは精霊族によるものでありんす」
「精霊族って、ルナの? すごいな!」
「……」

 ルナディは複雑な表情をしていた。
 家族に会える喜びと不安が入り混じっているのだろう。
 コツンコツンと足音を響かせながら中へと入っていく三人。
 するとそこは大聖堂といったような空間が広がり、奥には大理石のようなもので作られた祭壇があった。
 今は焚かれていないが、松明のようなもので取り囲まれている。

「もしかしてこれって……」
「うむ……邪鬼はここから産まれんした」
「じゃあやっぱり邪鬼って……」
「あい……人族じゃ」

 魔女は語る。
 邪鬼の持つ『心を操る能力』は、召喚の代償に得た力であると。
 それで人を操り、殺し合いをさせたり、モンスターを狂暴化させたりしているのだと。
 決して自分が直接手を下そうとはしない。
 そんな邪鬼を討つことが今の魔女の使命だと。

「じゃあ、昔からのライバルみたいな関係だったんですか?」
「いや、ぬしが召喚される少し前に邪鬼はこの世界へやってきた新参者じゃ。だからライバルというならぬしのことでありんしょう。そもそもわっちが邪鬼をこの目で見たのは、あの竜族の国が初めてでありんす」

 邪鬼はここで、魔女が幽世を留守にしている間に召喚されていたらしい。
 しかも知らない間に逃げられてしまったそうな。
 その後始末のため、魔女が邪鬼の討伐を担っていると。
 漆黒の髪をした人族を。
 そんな折、聞いていたのと違う人族を見つけた。
 陽太だ。
 事情を確かめるべく陽太を攫おうとした。
 それが闘技場の出逢いだそうだ。

「でも、なんで後始末を姐さんがしなきゃいけないんですか? 召喚したやつらが責任とればいいのに。いったいどこの天族ですか? ほんとにもう」
「天族ではありんせん」
「え?」

「精霊族じゃ」
「精霊族も召喚できるんすか……!?」
「不完全じゃったがの」
「何やってくれてんだよ。ったく――」

 その言葉にルナディが悲しそうな顔を見せる。

「あ、すまん! 別にルナの家族を責めてるとかじゃないんだけど……神殿といい、結界といい……姐さんは一体、精霊族のなんなんですか?」
「なに……かえ。わっちゃあ……」

 そう言いかけて魔女は胸に手をやり、しばらく黙り込んだ。
 そして手に持っている鎌を見つめながら、呟く。

「魔女のできることなんて、お掃除ぐらいでありんす。ま、わっちの場合、ほうきの代わりに鎌でありんしたが」

 その答えになっていないような言葉に、なぜか深く突っ込んではいけない気がした。
 陽太は話を変えるように奥の祭壇へと移動する。

「この鳥居は?」

 台座の向こうには、洋風な神殿に似つかわしくない小さな鳥居が建っていた。

「それは、雷神を祀るものでありんす。もともとここは雷神の祠だったのじゃが、瘴気により崩壊した後、精霊族がこの神殿として建てなおしんした」
「和洋折衷もいいとこですね……」

「では、早速契約しなんし」
「契約? 最上級魔法の?」
「そうじゃ。二人ともこの詩歌を唱えなんし」

 そう言って魔女は、陽太たちに契約の詩歌を教えた。
 ルナディもドワーフの洞窟で雷魔法のレベルが上がっていたので、ここへ来るまでの間、残りを魔女に教えてもらい、上級まで極めていたのだ。
 ルナディにとっては水属性以来の最上級魔法。
 無邪気に目を輝かせながら詠唱を開始する。

「怒れる閃光を統べし雷神よ、我はみましの眷愛隷属、天の裁きをもって闇を打ち砕く力を与え給え――」

 すると二人の目の前に黄色い魔法陣が出現。
 中から美豆良みづらの髪にはかまを穿いたおじさんが出て来た。

はアヂスキタカヒコネ……」
「マジで神話ぐちゃぐちゃ!!」


 こうして出てきた雷の神様と契約した二人。
 左腕には黒い紋章が出現していた。
 白虎の時のようにまた戦ったりするのかと少し構えていたが、案外すんなり契約できてよかったと喜ぶ陽太たちであった――

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