レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~

すずろ

第七章 第二話「激突」

 ――グサッ。

 陽太の短剣は枕に刺さっていた。
 間一髪で避けた魔女は、飛び跳ねるように部屋の隅へと逃げる。

「どうゆうことじゃ……!」

 その様子を見て、横にいたルナディもベッドから飛び起きる。
 今度はルナディ目掛けて短剣を突き刺してくる陽太。

「ライトニング!」

 最弱だが最速の魔法を放つ魔女。
 食らった陽太は態勢を崩し、空振りする。
 その隙にルナディは魔女の元へと駆け寄った。
 壁に立て掛けておいた鎌を手にし、ルナディの前へと立ちふさがるように構える魔女。

「陽たん! どうしたの!?」
「いかん……これは操られておる! 邪鬼じゃ!」

 陽太は感情を失ったような顔で、ふらりふらりと二人に近づいていく。

「どうすれば元に戻るの!?」
「これは、術者を殺るか遠ざけるかしないと解けない術……陽太を殺るわけにもいかんし、とにかく外へ!」

 魔女は背後の壁を破壊し、ルナディを連れて外へ出る。
 するとそこには、不死鳥の姿があった。
 陽太の不死鳥は待ち構えていたように二人を目掛けて火を放つ。
 幻獣はその契約者と意思を同じくするのだ。

「――ウォーターウォール!」

 水の障壁を作り出すルナディ。
 火には水。
 過去とは違い、戦い方が理解できている。
 そこへ小屋から出てきた陽太が、魔女に向かって襲い掛かる。
 ――ガキィィィン!
 短剣を受け止めた鎌は甲高く唸る。
 ぶつかり合う度に巻き起こる衝撃波。

「これほどまでに力をつけていんしたかえ……わっちと対等にやり合えるようになるとはの」

 操られていても身体能力自体は当人のものらしい。
 だが、感心している場合ではない。
 この事態をなんとか打破しないといけない。
 陽太は完全に心を操られている。

「操っている邪鬼を見つけんと……じゃが、こんな林の中では……!」

 術者である邪鬼をどうにかしないと、陽太の心は戻ってこないのだ。
 しかし、立ち並ぶ木々の中に隠れたそれを見つけるのは、たとえ魔女であっても困難なのであろう。
 薄暗い夜中、そのうえ瘴気により霧がかかったように見通しも悪い。
 星霜の途絶を使ったとしても、見つけられなければ意味がない。

「どこじゃ……いっそ林ごと……」

 すると陽太は、魔女から距離を取り、なにやら詠唱を始めた。
 次の瞬間、目の前に碧い魔法陣が出現し、中から青白く輝く獣が現れた。
 白虎だ。

「次から次へと……不死鳥のほうを頼んでも良いかえ!?」
「わかったの!」

 魔女はルナディに不死鳥の相手を任せ、白虎と対峙する。
 鎌を掲げ、詠唱を始める魔女。
 すると魔女の目の前にも碧い魔法陣が出現し、陽太のものより一回り大きな白虎が現れた。
 白虎は宙を駆けながら、お互いけん制し出す。
 二匹の咆哮が空気を振動させる。
 激しくぶつかり合う虎と虎。

 一方のルナディも、水の障壁魔法を再構築して魔女と自分を守る。
 不死鳥は業火を一度放っているので、すぐには連発できない。
 ぐるぐると空を旋回しながら、力を貯めているようだ。
 ルナディは正座して詠唱を始めようとしたが、ふと思いとどまったようにまた立ち上がる。
 水妖の一涙を撃ちたいところだが、自分だけでなく、動けない魔女や陽太まで巻き込んでしまうのを危惧したのだろう。
 どう動けばいいのかわからない様子でオロオロとしている。
 戦いのレベルが高すぎるのだ。
 そうこうしていると、白虎の雄たけびが聞こえてきた。
 見上げるとそこには、大きい白虎が小さいほうの喉元に噛みついている姿。
 陽太の白虎は唸り声をあげながらそのまま消滅した。
 魔女も白虎を納め、二人の身動きが自由になる。

 すると休む間もなく陽太は詠唱を始める。
 今度は陽太が正座をしてお祈りのポーズで。

「三叉の激流かや……最悪じゃ……敵ながらあっぱれ」

 邪鬼はどこか木の上にでも避難しているのだろう。
 ここにいる三人すべて、水属性最上級魔法の使い手だ。
 すなわち今それを使われてしまえば、全員溺れ死ぬことになる。
 空中浮遊もガス欠だ。

「【樹嶽の統馭】でキノコ岩を作るか……いやしかし陽太もそれを使えんすにえ、一帯を囲われては意味がありんせんし……」

 その間にも陽太の不死鳥が、業火の力を取り戻そうとしている。
 このままでは共倒れだ。

「仕方がない。わっちの不死鳥を呼び出して二人を拾い、激流の届かぬところまで逃げるか……しかし操られている陽太は不死鳥の背で大人しくしていられるんじゃろうか……くっ、どこにおるのじゃ、邪鬼め……」

 その時だった。
 正座で屈む陽太の懐から一冊の本が落ちた――

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